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第四十九章 揺れる海、動く帝国

コイン

「ご主人ご主人、フェニキア領で大津波が起きたらしい」

カルディ

「地震の報告はない……妙だな。

遠方で起きた地殻変動か?」

コイン

「それよりさ、これは人道支援の大チャンスだぜ。

金をどんどん貸そう」

そこへ次官が駆け込んでくる。

次官

「フェニキアより国家支援の正式要請です。

船はほぼ全滅、港湾と沿岸部の家屋は壊滅的被害」

「津波は夜半から明け方まで断続的に続いたとのこと」

「……時期は、カルディ様がエジプトへ向かわれた日と一致しております」

カルディ

「……何か変わった兆候は?」

次官

「海流の異常と、水位の急激な変動が報告されています」

カルディは短く息を吐き、次官を下がらせた。

執務室に残ったのは、彼とコインだけ。

カルディはゆっくりとコインを見つめる。

カルディ

「俺が……海を割いて、海水を外へ逃がした」

「あれが原因か」

コイン

「十中八九な」

「海は一つだ。局地の力技は、別の場所で歪みになる」

「致命的な打撃を与えたと言っていい」

沈黙が落ちる。

カルディ

「……なら、無償援助だな」

コイン

「“貸し”は無しか?」

カルディ

「因果が俺にある以上、借金にするのは違う」

「返済も利子も不要だ」

コインはくるりと宙で回り、珍しく真顔になる。

コイン

「正解だ」

「これは慈善じゃない。後始末だ」

カルディ

「兄達を呼ぶ」

「クラウディア家としてじゃない」

「国家として支援するかを決める」

コイン

「具体策は?」

カルディ

「第一に、食糧と医薬品の無償供給」

「第二に、船団の再建。フェニキアの船乗りを優先雇用」

「第三に――」

言葉を区切る。

カルディ

「貨幣の直接配布は最終手段だ」

「復興事業の賃金として支払う」

「港、倉庫、防潮堤、灯台……

働いた分だけ、新貨幣を回す」

コイン

「インフレ回避か」

「相変わらず、金の扱いが冷静だな」

カルディ

「金は慰めにならない」

「仕事だけが、人を立ち上がらせる」

再び次官を呼び戻す。

カルディ

「フェニキアへ返書を」

「我が国は無償で支援する」

「ただし条件がある」

次官

「条件、とは」

カルディ

「復興の指揮権は我々が持つ」

「現地の商人と船乗りを最優先で使うこと」


フェニキア財務大臣から、封蝋付きの書簡が届いた。

厚手の羊皮紙。文字は慎重で、しかし必死だった。

「此度、国を立て直すことが叶いましたのは、

ひとえに貴殿の資金力、ならびに東帝国より派遣された職人達のおかげにございます。

王とも協議いたしました。

誠に、あまりに虫の良い願いであることは承知しております。

それでも――

フェニキアを、東帝国の庇護のもとに迎え入れてはいただけないでしょうか」

カルディは最後まで読み、静かに書簡を机に置いた。

沈黙。

コイン

「……やっちまったな」

カルディ

「予想はしていた」

コインは、いつもの軽さを捨て、辛辣に吐き捨てる。

コイン

「自分で壊して、自分で直して、恩を売る」

「正直、外から見りゃ最悪の構図だぜ」

カルディ

「だから、断るべきか?」

コイン

「いや……問題はそこじゃない」

コインは宙に浮かび、書簡の上をゆっくり回る。

コイン

「向こうは“属国にしてください”って言ってるんじゃない」

「“もう自力で立つ体力がない”って言ってる」

カルディは目を伏せる。

カルディ

「俺が海を割らなければ、

ここまで追い込まれることもなかった」

コイン

「だからこそ厄介なんだ」

「断れば見捨てたことになる」

「受け入れれば――」

言葉を切り、低く続ける。

コイン

「“災害すら支配に利用する帝国”が完成する」

カルディ

「……兄達はどう言うと思う」

コイン

「大賛成だろうな」

「港、船、商路、金融」

「フェニキアは喉から手が出るほど欲しい」

カルディは椅子にもたれ、天井を仰いだ。

カルディ

「俺は、帝国を広げたかったわけじゃない」

「ただ――責任を取っただけだ」

コイン

「でもな」

「世界は“動機”じゃなく“結果”を見る」

再び沈黙。

やがてカルディは、ゆっくりと口を開いた。

カルディ

「なら、条件を付ける」

コイン

「ほう?」

カルディ

「即時併合はしない」

「自治権を保持したまま、同盟国家として迎える」

「税も徴兵も無し」

「ただし、復興金融と港湾管理は東帝国が請け負う」

コイン

「時間稼ぎか」

カルディ

「フェニキアが“選び直す時間”を与える」

「本当に帝国に入るかどうかを」

コインはしばらく黙り、やがて小さく笑った。

コイン

「甘いな、ご主人」

「でも……嫌いじゃない」

カルディ

「それでも、利用されると言うなら」

コイン

「そのときは――」

二人同時に言った。

「そのときは、胸を張って引き受けるしかない」

机の上の書簡は、静かに揺れていた。

それは感謝状でも、降伏文書でもない。

――依存の始まりだった。


カルディは再度エジプトの地を踏んでいる

今度は神学者が同行している

「この転移っていうのは便利だね」地面を

ベタベタ触って夢じゃないか確認している。


カルディは、再びエジプトの地を踏んでいた。

今度は一人ではない。神学者が同行している。

「この“転移”ってやつは、本当に便利だな」

そう言いながら神学者は腰を落とし、地面をぺたぺたと触る。

砂の感触、熱、匂い――夢ではないことを確かめる仕草だった。

今回はラナからきつく言い含められている。

必ず神学者を同行させること。

名目は護衛、実態は監視――お目付け役だ。

「……皇帝色を好む、なんて誰か言ってなかったか?」

ぼそりと呟いた、そのときだった。

「久しぶりだな、カルディ」

声をかけてきたのはケンタだった。

だが彼は、カルディの背後に立つ神学者を一瞥した瞬間、露骨に顔色を変える。

その場の空気を破ったのは、女王バトラーの無遠慮な声だった。

「私、強い人が好きなの」

ケンタは不敵に笑う。

「任せとけ。俺は“奴”の天敵なんだよ」

確かにそうだ。

カルディも、そしてコインも――雷撃は明確な弱点だった。

カルディは静かに前へ出る。

「このスタイルで、俺と相対するのは初めてだろ」

次の瞬間、出現した。

カルディを完全に覆い隠す、異様なまでに巨大な盾。

「そんな盾――俺の拳にかかれば!」

ケンタの拳に雷光が宿る。

「感電しろぉぉ!!」

全体重を乗せた一撃が、盾に叩き込まれた。

――だが。

「……おかしい」

ケンタの動きが、ぴたりと止まる。

雷は霧散し、体内の魔力が一気に空になる感覚。

MPが、尽きた。

ケンタは咄嗟に距離を取り、MPポーションへ手を伸ばす。

これ以上魔力を使えば、失神は免れない。

――その刹那。

盾が、迫る。

上空で、コインがきらりと光った。

盾を軸に、カルディの身体が回転する。

その右手には、逆手で握られたカリバーンJr。

回転の遠心力と踏み込みが加速となり、

振り向きざまの切っ先が――

ぴたりと、ケンタの喉元で止まった。

「……降参だ。もう動けん」

短く、乾いた敗北宣言。

女王バトラーは、つまらない見世物を見せられたとでも言うように、

不機嫌そうに鼻を鳴らし、踵を返して去っていった。


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