第四十四章 魔法路地の商人
カルディは、机に広げた地図から視線を離せずにいた。
エジプト――砂漠と河、古王朝の遺産。帝国の手が最も届きにくい場所。
「渡る手段が……ないな」
船路は時間がかかりすぎる。
帝国の港を使えば必ず記録が残る。
空路や大規模転移は、監視に引っかかる。
思案に沈んでいたそのとき、執務室の扉が遠慮なく開いた。
現れたのは、かつて魔法路地で店を構えていたボンテージの店主だった。
年齢不詳、露骨な色気を隠す気もない女。
「久しぶりじゃないか。アンタも、ここまで来れたのは私のおかげだろ?」
カルディは露骨に顔をしかめる。
「……何の用です」
「冷たいねぇ。新作のスクロールを仕入れたんだよ。
いい客には、いい品を見せないとね」
次の瞬間、ぼん、ぼんと鈍い音が二つ。
金貨二千枚ずつ詰め込まれた革袋が、テーブルの上に出現した。
店主はためらいなく袋をひっくり返す。
金貨と一緒に、無造作に詰め込まれていた大量のスクロールが床へと散乱した。
「じゃ、またね」
彼女は床の惨状など気にも留めず、
空になった金貨袋を拾い上げて鞄に押し込み、そのまま去っていった。
残された静寂の中、ラナがゆっくりと動く。
「……相変わらず、品のない方ですね」
淡々と呟きながら、ラナはスクロールを拾い始めた。
紙質、封蝋、魔力の残滓――どれも一級品。
“新作”という言葉に偽りはない。
その中で、一枚だけ、彼女の手が止まった。




