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第四十二章 神の時代の残骸
マニ教の神学者が執務室を訪れた。
「ご相談がありましてね」
すでに用意されていた飲み物に口をつけ、ラナは穏やかに応じる。
「……まず確認させてください。マニ教とは、どのような宗教なのですか?」
神学者は胸に手を当て、淡々と語り始めた。
「西では聖者教、東ではブッタ教として知られております。
神の時代の終わりを告げ、人へと転生した“人神”を信仰の中心に据える宗教です」
「ただし――」
「すべての神が、すでに人へ転生したわけではありません」
ラナは目を細める。
「つまり、転生済みの神と、未だの神がいる、と?」
「その通り」
神学者は頷いた。
「たとえば、ギリシャ神話のエルメス。
エジプトではトート、天使ではウリエル、極東では地蔵菩薩と呼ばれておりますが――
実は“聖母”へと転生した存在だ、という説が有名です」
ラナ
「では、まだ転生していない神は?」
「アポロンです」
「中央アジアではメタトロン、ミトラとしても知られ、
仏教では弥勒菩薩。
さらに神格化された姿が阿弥陀如来」
一拍置いて、神学者は言った。
「ブッタ亡き後、次に人神として現れるとされているのが弥勒です」
――この世界では、だが。
その空気を切るように、カルディが口を挟んだ。




