第三十七章 帳簿で征服する方法
コインが、机の上でころりと回転した。
「帝国と張り合うならさ」 「正直、あと二カ国くらい併合しないと無理だと思う」
カルディは眉を押さえた。
冗談半分の建国だったはずが、話はもう完全に現実だ。
「……だよね」 「国力が同等じゃないと、帝国は確実に襲ってくる」
コインは待ってましたとばかりに弾んだ。
「そこでさ、ママと一緒に考えたんだ」 「隣の国、財政難に追い込まない?」
カルディ
「……言い方」
「作戦は単純」 コインは空中に幻の図を描く。
「まず、オレたちコインが勝手に派手に城壁やら倉庫やらを壊す」 「で、そのまま国庫から“逃走”する」
カルディ
「それ、ただの強盗だよね?」
「人間のドロボーだと思うだろ?」 「だからいいんだよ」
コインはにやりと笑った。
「同じことを何度も繰り返す」 「修復費、警備費、補填費で、国庫はみるみる痩せ細る」
カルディ
「……あくどい」
「で、そこにご主人の出番」
コインはぴたりと止まり、低い声になる。
「表では善良な領主」 「裏では――
あらゆる手段で債権を買いまくり、金を貸しまくる」
「復興支援」 「治安維持資金」 「緊急融資」
「全部“好条件”でな」
カルディは理解してしまい、思わずため息をついた。
「……半年もすれば、国家破綻か」
「そう」 コインは楽しそうに言った。
「で、取り立てに行くとさ」 「向こうが泣きながら言うんだ」
――どうか、我が国の財政を立て直してください。
――代わりに、国を差し出しますから。
カルディ
「……それ、併合っていうか」
コイン
「救済だよ、救済」
カルディはしばらく黙り込み、やがて小さく笑った。
「帝国と同じことを、
もっと静かに、もっと綺麗にやるわけか」
「そうそう」 「血も流れないし、剣も振らない」
「気づいたら――
国境線が消えてるだけ」
カルディは椅子にもたれ、天井を見上げた。
「……最初はユリアナのついたウソだったのにな」
コインが肩をすくめる。
「気づいたら帝国経営者」 「よくある話だろ?」
「……同時多発?」
「うん」 「当然でしょ。国庫だけ狙うとか素人の仕事だよ」
コインはくるりと回転する。
「銀行がやられるとさ」 「預金引き出しが始まる」 「信用不安ってやつ」
「で、現金が足りなくなる」 「貸し渋りが起きる」 「企業が死ぬ」 「税収が減る」
一息。
「国家と金融が、同時に死ぬ」
カルディは、乾いた笑いを漏らした。
「……それ、戦争よりひどくない?」
「戦争は終わるけど」 「信用は、戻らないからね」
コインはぴたりとカルディの目の前で止まる。
「だからさ」 「銀行にも、お金貸しに行ってね」
カルディ
「表向きは?」
「“金融安定化のための緊急融資”」 「“預金者保護”」 「“国際信用維持”」
「全部、正義の言葉だ」
カルディは机に肘をつき、指を組む。
「国に貸し」 「銀行に貸し」 「企業に貸し」
「……逃げ場、ないな」
「ない」 コインは即答した。
「半年もすれば、こう言われる」
――我が国は、もう自力では立て直せません。
――どうか、統治そのものをお願いできないでしょうか。
カルディは目を閉じた。
「……帝国がやってきた“力による併合”を」 「僕は“帳簿”でやるわけだ」
コイン
「しかも合法」 「しかも感謝される」
カルディ
「最悪だな」
「最高だろ?」
しばし沈黙。
やがてカルディは、静かに立ち上がった。
「……やろう」 「でも条件がある」
コイン
「ほう?」
「治安維持と食料だけは、最優先で守る」 「飢えさせない」 「暴動を起こさせない」
「壊すのは――
“国の形”だけだ」
コインは、ほんの一瞬だけ、言葉を失った。
そして、ゆっくり笑った。
「了解、皇帝陛下」 「史上最も優しい金融侵略、始めようぜ」
こうして、
剣も魔法も使わず、
血一滴流さず――
東帝国(仮)は、銀行から国境を溶かし始めた。
ディオニュソス教は赤ワイン作りとエッチでヨーロッパから東アジアを席巻し、
アレキサンダー大王は、アレキサンドリアの建設技術でヨーロッパから東アジアまで席巻し
カルディの帝国はモンスターコインと金融危機でヨーロッパから東アジアまで席巻する
東帝国
初代皇帝クラウディア・カルディ




