第三十五章 武術大会という茶番
ある日、執務中のカルディの目の前に、ふわりと一枚のコインが浮かび上がった。
「ご主人、ご主人。大事件だ」 「隣国の王が死んだ。サトウヌルス教に狂った毒婦に殺されたらしい」
カルディは書類から目を離さず、ため息混じりに答える。
「……また物騒な話だね」
「でさ、次の王を武術大会で決めるんだって」 「誰でも参加OK。つまり――出ようぜ?」
カルディはようやく顔を上げた。
「無理だろ。僕、武道家Eランクだぞ」
「大丈夫大丈夫」 コインは楽しそうに回転する。 「昨日考えてた“無謀な技”、試すチャンスじゃん」
自信はまるでなかった。
それでも、なぜか足は闘技場へ向かっていた。
初戦の相手は、キックボクサー。
構えを見た瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
――子供の頃、今は亡きアルも、同じ構えだった。
「……勝てる気がしない」
試合開始。
拳が飛ぶ。
蹴りが来る。
――軽い。
カルディは一瞬、拍子抜けした。
アキレスの呪。
身体強化。
どちらも発動したままの身体には、衝撃が通らない。
相手は本気だ。
だが、カルディの身体には、雨粒ほどの意味も持たなかった。
やがて相手の息が荒くなる。
「……今だ」
踏み込み、突き一発。
コインが呟く
「クリティカル補正、乗ったぞ!」
まあ100%乗るバフなのだが
次の瞬間、相手は音を立てて倒れた。
ノックアウト。
カルディは呆然と拳を見つめる。
「……そりゃ、ナイフが刺さらない身体に、
拳や蹴りが効くわけないか」
コインが笑う。
「だから言ったろ。勝てるって」
「そのうち――
“二の手いらずの新槍カルディ”とか呼ばれるかもな」
「ダサくない?」
そんな会話をしているうちに、
なぜか勝ち進み、
なぜか決勝も終わり、
気づけば――
優勝していた。
表彰台。
歓声の中、カルディは話はじめる
「えー……
セバール領主のカルディです」
少し考えてから、素直な疑問を口にした。
「これ、優勝したら王さまってことは……
国、ひとつにまとめていいってこと?」
観客が一拍置いて――
「いいぞー!!」 「好きにやれー!!」
影からコインが囁く。
「ほら、民意だ」
別のコインも言う。
「おまえじゃなきゃダメだってさ」
カルディは肩をすくめた。
「……統合しちゃえって声が多いみたいだから、
統合しちゃうね」
一呼吸。
「明日から――
**東帝国(仮)**ってことで」
その瞬間。
民衆は誰一人として疑わず、
誰一人として止めず、
拍手喝采の中で――
こうして、
東帝国(仮)は誕生してしまった。




