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第三十四章 闇に葬られた勇者

カルディは、全身を黒に包んだ男に襲われていた。

「俺のおかげで領主になれたくせに……

それを忘れているだと?」

男は激昂し、言葉と同時にナイフを放った。

刃は正確にカルディの胸を捉え――服に突き立つ。

だが、肉までは届かない。

アキレスの呪い。

身体そのものは、刃を拒絶する。

しかし代償はある。

机の脚に足首をぶつけるだけで、常人の倍の激痛が走る。

完全な無敵ではない。

「お前、帝国に恨まれてるみたいだな」

カルディは静かに言った。

「おかしいな。この領を再興させれば、姫を嫁に迎えられる――

そんな話まであるのに」

「その全部を、俺がいただく」

男はシャツの前ボタンを外し、上半身をさらす。

胸元には――カルディと同じ紋章。

「俺は元・勇者だ。

大臣にとっても、お前より俺の方が都合がいい」

その瞬間、記憶が噛み合った。

「……思い出した」

カルディの声が低くなる。

「俺を“失敗作”にした男だ」

男は上着を広げ、無数のナイフを見せつける。

「手ぶらで来たのは、間違いだったな」

――パチン。

指を鳴らした瞬間、男の背後に屋敷ほどもある宝箱が出現した。

蓋が開き、溢れ出した無数のコインが宙を舞う。

コインは飛び散り、路地の街灯を次々に叩き落とす。

蝋燭が砕け、火が消え――世界は漆黒に沈んだ。

闇の中、男の周囲をコインが取り囲む。

「どこ見てんだ? 後ろだよ」

「いやいや、真下だって」

「――わっ!」

「上だよ」

「ワーッハハハハ! ワーッハハハハ!」

声は四方八方から響く。

男は視線を定められず、呼吸が乱れ、膝が震えだす。

精神は、完全に追い詰められていた。

次の瞬間。

カルディの槍が、

吸い込まれるように男の心臓へ到達し、背中から突き抜けた。

鈍い音。

カルディは槍を引き抜き、淡々と言う。

「仇が、向こうから来てくれるとは思わなかった」

――そのとき。

「……もういいだろ」

背後から、低く湿った声。

舌が、異様な長さで伸び、

男の身体を絡め取る。

次の瞬間、口へと運ばれ――

ぐしゃり、と鈍い音が闇に吸い込まれた。

路地には、再び静寂だけが残った。

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