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第三十章 商人は戦場に立たない

エマ

「……戦況はどうなった?」

敵城を望む丘の上。

エマとユリアナは、ひっきりなしに運び込まれる負傷兵の手当に追われていた。

血と雪と薬草の匂いが入り混じる。

兵士

「開戦から一時間。

勇者たちは圧倒的な力で敵を殲滅しています」

一息ついて、続ける。

「ですが、敵のチャリオット部隊が非常に優秀で……

こちらは突撃のたびに被害が出ています。

負傷者が想定以上です」

別の兵が、後方を指さした。

「商人様は補給物資を守って、後ろへ下がってください」

「その服装では、死にに行くようなものです」

視線の先には、商人服のまま立つカルディ。

カルディ

「アキレスの呪いがあるから、鎧はいらないんだけどな」

コイン

「ご主人、ほんとにいつまでも認められないね」

ユリアナは治療に追われ、忙しく走り回っている。

こちらを見ていないことを確認し、

エマは手持ち無沙汰そうに立っているカルディへ声をかけた。

エマ

「……君なら、この戦況をどう変える?」

カルディは答えず、戦場を見渡した。

そして収納から、静かにロングボウを取り出す。

弓を引き、放つ。

カルディ

「まず、敵の司令塔を撃ちます」

放たれた矢は、城壁上の敵将軍の胸元に吸い込まれる。

――ハートブレイクショット。

間髪入れず、別のロングボウを取り出し、再び射る。

カルディ

「次に、副官」

矢は敵副将の首を正確に貫き、

チャリオットの上から転げ落ちさせた。

カルディ

「……こんな感じですかね」

指揮を失った敵兵が、目に見えて後退していく。

鈍い音とともに、正門が閉じられた。

エマ

「……この後は?」

カルディは一度だけエマを見た。

その視線には、感情らしいものはなかった。

再び戦場へ向き直り、

丘の脇にそびえる、数十トンはあろうかという岩へ手を向ける。

カルディ

「収納」

岩が、音もなく消える。

カルディ

「――射出」

次の瞬間。

空気が裂けるような轟音とともに、

岩が正門へ叩き込まれた。

ドゥオン――。

数トンはあるはずの正門が、砂埃を巻き上げながら城内へ弾け飛ぶ。

カルディは止まらない。

今度は城壁へ向け、次々と同規模の岩を叩きつけていく。

崩壊音。

悲鳴。

そして、沈黙。

空が夕焼けに染まり、

味方兵がテントを張り始める頃。

カルディ

「……こんな感じですかね」

振り向くと、エマの姿はもうなかった。

城壁は跡形もなく消え、

城は天井を失い、骨組みだけをさらしている。

兵士たちは、いつの間にか作業の手を止め、

ただ呆然とカルディを見つめていた。

やがて、誰ともなく拍手が起こる。

それは次第に広がり、

歓声へと変わっていく。

――まるで、

すでに戦争が終わったかのように。

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