第三章 失敗作と刻まれた大紋
「――紋を、改変してほしい」
当主である父の言葉に、神学者はわずかに眉をひそめた。
「大量の物資を収納できるように。
商売になる規模で、だ」
神学者はため息をつき、床に広げた羊皮紙へ視線を落とす。
削っては書き足し、書き足しては消す。
古代神の公文が、何度も形を変えていった。
「……理論上は可能です。ただし――」
その言葉を遮るように、父は言った。
「失敗しても構わん。やれ」
次に呼ばれたのは、カルディだった。
背中に冷たい感触が走る。
焼けるような痛みとともに、大きな紋が刻まれていく。
「これで、山一つ分は入るでしょう。
圧縮率も高めに設定しました」
神学者はそう言って、額の汗を拭った。
試しに、花瓶が置かれた。
「……収納」
成功した。
だが――
「放出」
次の瞬間、爆発音。
花瓶は射出され、壁に叩きつけられ、粉々に砕け散った。
壁には、ぽっかりと穴が空いていた。
沈黙。
「……失敗ですね」
神学者は乾いた笑みを浮かべた。
「魔法には失敗はつきものです」
父は一言だけ告げた。
「次は、失敗するな」
それで終わりだった。
結局、
三男には「家一つ分・非圧縮」の紋。
次男、長男、そして父にも同じ紋が刻まれ、すべて成功した。
神学者は大金を受け取り、去っていった。
――残ったのは、失敗作だけ。
「お前だけだな、壊すの」
兄たちは笑った。
「かわいそうに」
カルディは背中に手を伸ばす。
何度擦っても、線は消えない。
「……僕、何か……間違えたのかな」
答える者はいなかった。
数日後、決定が下された。
「他家に預ける」
母は最後まで反対した。
だが、父は冷たく言い放った。
「クラウディア家は、
“勇者以上の収納”を売りにしていく」
「そこに、カルディの席はない」
――その日、
カルディは“家族”を失った。




