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第二十九章 雪山行軍と夜に吠えるもの

「そろそろ、いいか」

行軍二日目。夜の帳が下りた頃、人狼の一匹が動き出した。

焚き火の番をしていた兵士の背後から、ナイフが静かに喉元へ滑り込む。

火は蹴り消され、雪景色は月光だけに照らされる。

次の瞬間、兵士の身体が軋むような音を立て、みるみるうちに狼男へと変貌していった。

――自分の手は、なるべく汚さない。

「野生の狼に処理させる」

人狼は低く唸り、夜空へ向かって遠吠えを放つ。

「ワォォ――」

その矢先だった。

ドゴッ。

鈍い衝撃。

身体が宙を舞い、雪を削り、ズザザザ――ゴロゴロ、ガンガンと音を立てて吹き飛ばされる。

途中、木の根に引っかかり、ようやく勢いが止まった。

月明かりの中、人狼の視界に映る。

きらきらと光を反射するコイン。

そして、その奥に構えられた――異様に大きな盾。

(……あの盾に……)

直撃の衝撃で魔力は飛散し、人の姿を保てなくなっていた。

身体は完全に“狼”へと堕ちる。

骨が砕け、内臓が悲鳴を上げる。

立ち上がる力すら、もう残っていない。

――パチン。

指を鳴らす乾いた音。

次の瞬間、目の前に現れたのは、屋敷ほどもある巨大な宝箱だった。

宝箱の内側から、ぬらりと舌が伸びる。

狼が抗う間もなく、パクリ。

蓋が閉じる音は、拍子抜けするほど軽かった。

ぴたり、と夜が静まる。

狼の断末魔も、骨の砕ける音も、

まるで最初から存在しなかったかのように、すべてが消え失せた。

「……始末完了」

月光の下、盾を地面に突き立てたカルディが、小さく息を吐く。

盾の表面を転がっていたコインは、何事もなかったかのように、静かに光を失っていた。

「あるじあるじ、あれは“人狼”ですね」

財布の中から、いつもの軽い声がする。

「群れを率いる個体です。放っておいたら、明け方には野営地が地獄でしたよ」

カルディは宝箱を一瞥した。

屋敷大だったはずのそれは、いつの間にか行李ほどの大きさに縮み、ただの古びた箱へと戻っている。

「……野生の狼を使うつもりだった、か」

「自分は手を汚さず、責任も獣に押し付ける。

 人の皮を被った魔物の、いかにも考えそうなことです」

カルディは焚き火の跡を見回す。

倒れていた兵士たちは、眠るように横たわっていた。

だが――森の奥から、確かに“気配が引いていく”のを感じた。

呼び寄せられるはずだった狼たちが、命令主を失い、霧散していく。

「今夜は、もう来ません」

コインが断言する。

「ですが……人狼が一体だけとは限りませんよ、あるじ」

「わかってる。だから――今晩は、お前が見張っててくれ」

カルディは、夜の森を見据えた。

その後、彼は静かにモエの収納へと戻っていく。

「どこ行ってたの……」

ユリアナが目を擦り、毛布から顔を出した。

「トイレだよ」

そう答え、カルディはユリアナの隣で毛布にくるまった


雪山行軍で脱走者があいついだ。


「もうヤダ寒くて眠れない。それに狼の遠吠え

なんとかならないの」ナギが泣きを入れている。

「私も脱走して逃げようかしら」ヒマリがそれに同調する。

「暖炉がほしい宿の部屋に泊まれないの」

「いつも足が痛い、疲れた、船酔いがするって

最初に弱音をはくユリアナちゃんが今回文句言わないわね」

「いつもは一番足引っ張るのにね」


カルディ「ユリアナ大丈夫かい」

ユリアナ「つかわせて貰っていいの?」

カルディ「ドウゾ」

ユリアナ「中でお茶の準備して待ってるね。」

カルディ「じゃモエの収納の中で待ってて俺もすぐ

行くから」


エマ「ユリアナがいないかしらミナトが狼男

を2人見つけたから勇者仲間で相談したいって」

カルディ「あとで連れて生きますよそれより

近頃やつれてないですか?」

エマ「君が気にしなくていい事ユリアナをヨロシクね」


エマ「ユリアナ遅い何してたの?これで全員」

ミナト「補給部隊に二人、二人とも後ろ髪を

縛ってるやつ」

ハヤト「補給部隊が狙われてる」

ハヤト「行動を起こさせない為ケンタと後方で見張るよ」

ヒマリ「彼女を差し置いて男と組むとはね」

ハヤト「じゃヒマリでいいよ」

ナギ「じゃ私はミナトと」

ミナト「補給部隊の最後尾は俺とナギ

補給部隊の最前列はハヤトとヒマリ」

エマ「じゃお願い私は最前列を守るから」

雪は音を吸い込む。

だからこそ、わずかな違和感が際立つ。

補給部隊が動き出すと、隊列は自然と二つに割れた。


前列――ハヤトとヒマリ。

後列――ミナトとナギ。

その中央を、荷馬と木箱が重い足取りで進んでいく。

「……静かすぎるわね」

ヒマリがフードの奥で呟く。

「雪山では普通だ」

ハヤトは前を見据えたまま答えた。

だが、彼の手は弓から離れていない。

後方では、ナギがミナトの外套をぎゅっと掴んでいる。

「ねぇ……さっきから、同じ鳴き声が繰り返されてない?」

ミナトは歩調を緩めず、耳だけを澄ませた。

「……ああ。狼の遠吠えにしては、規則的すぎる」

その瞬間――

雪を踏みしめる音が、一拍遅れて重なった。

「来るぞ」

ミナトの声が低くなる。

補給隊最後尾、雪原の陰が盛り上がった。

人影だった。

だが、立ち上がるにつれて骨格が歪み、肩が異様に盛り上がっていく。

後ろ髪を束ねた男――否、男だったもの。

「――ッ!」

ナギが声を殺して息を呑む。

次の瞬間、前列でも同じ異変が起きた。

ハヤトの視界の端、岩陰からもう一体。

同じく後ろ髪を縛り、口元が裂けるように広がっている。

「やっぱり二人ともだ」

ヒマリが歯噛みする。

狼男たちは、すぐには襲ってこない。

獲物を逃がさぬ距離を測り、隊列の速度に合わせて並走している。

「補給を狙ってる……人じゃなく、物だ」

「行動を起こさせないために見張る、って言ったろ」

視線は狼男に向けたまま、仲間にだけ告げる。

ナギが振り返った、その瞬間――

狼男が雪を蹴った。

遠吠えが、今度は合図のように山に反響する。

その音を聞きながら、

前列でエマは、ゆっくりと杖を握り直した。

「……やっぱりね」

彼女は微笑まない。

「脱走者が増えるわけだわ」

雪山の夜は、

ここから本当の戦場になる。

――その前方。

狼男の進路に立ちはだかるように、

右手に電撃を纏ったケンタがいた。

一歩、踏み込む。

顔面へのフック。

雷光を伴った拳が、狼男の顎へと吸い込まれる。

一撃。

狼男の意識は、刈り取られた。

「ケンタくん、流石だね。僕の親友」

ハヤトが笑う。

「次は僕の番だ」

放たれた矢は、飛翔するごとに魔法の矢を増殖させる。

分裂し、散弾となって、もう一体の狼男を襲った。

――その時。

分手薄となった隊列前方に、別の影が現れる。

厚い雲が空を覆う。

この時期、昼間であっても――ヴァンパイアは活動できる。

ヴァンパイア。

エマは炎、水、石――あらゆる魔法を放つが、

すべてかわされる。

分裂したコウモリとなって飛散し、消える。

魔力を使い果たし、

エマはその場に座り込んだ。

「なんで……効かないのよ……」

泣きそうな声。

「もういいでしょ。僕、行きますね」

カルディが前に出る。

「だから貴方は、ユリアナだけ守って!」

――ユリアナが、いない。

エマの前に立ちはだかるカルディ。

「そんなに先に死にたいか」

ヴァンパイアが嗤う。

「先に行かせてやろう」

巨大なコウモリが飛びかかり、

カルディの腹に爪を立てる。

だが――弾かれた。

アキレスの呪い。

「……お前、人間か?

まったく、爪が入らないじゃないか」

ヴァンパイアは元の姿に戻り、剣を抜く。

カルディは右手を、静かに右へ伸ばした。

――雪山が、消える。

「右腕を切ってほしいのか?

要望通りにしてやろう」

「射出――」

次の瞬間。

大量の雪が、高圧で解き放たれた。

一瞬。

ヴァンパイアは、

氷柱となってその場に固定されていた。

エマは呆然と立ち尽くし、

やがて、ぽろりと涙をこぼす。

「なんで……ユリアナだけじゃなくて、

私まで助けちゃうのよ……」

泣きながら、笑う。

「……これじゃ、ユリアナだけじゃなくて

私も、貴方が欲しくなっちゃうじゃない」


「エクスカリバー10連撃」

自分だけ活躍できなかったミナトは、氷の柱に

そのありあまったうっぷんをぶつけている。

鈍い衝撃音が雪原に響くが、氷はびくともしない。

拳を当てるたび、白い息だけが虚しく散った。

カルディ

「一息で破壊力ある技を十回重ねるとは……やはり化物だな」

誰に聞かせるでもなく、ぽつりと独り言をこぼす。

ハヤト

「世の中、タイミングってのがあるよね。

それが人狼に決まってたら……まあ、こうなる」

肩をすくめ、わざとらしくミナトを見る。

ミナト

「……わかってるよ」

悔しさを飲み込むように、視線を逸らした。

カルディは、十枚におろされたヴァンパイアの刺身を淡々と「収納」する。

血の気を失った肉片が消えるのを見て、

待ってましたとばかりに宝箱ママが口を開いた。

宝箱ママ

「ごちそうさまですぅ〜♪」

次の瞬間、箱の中からぴかぴかに磨かれた骨だけが吐き出され、

雪の上に転がった。

ヒマリ

「……相変わらず無駄がないわね」

ナギ

「え、あれ全部食べたの? 一瞬じゃなかった?」

カルディ

「後処理が楽になる。感謝してほしいくらいだ」

そう言いながらも、カルディの視線は一度だけミナトに向けられた。

叩きつけられた拳と、震える肩を見て、何も言わずに背を向ける。

——活躍できなかった悔しさも、

次の戦いに持ち越される。

雪原に、短い静寂が戻った。


エマ

「……ちょっと待ちなさいよ。

A級魔法使いの私が、なんでE級剣闘士のあなたに助けられてるのよ」

エマ

「みんな納得しすぎじゃない!?

魔物の肉体だけ収納して、骨だけ外に出るってどういう仕組みなのよ!」

エマ

「それに――

ヴァンパイアを一瞬で凍らせる魔法?

なんで私より凄い魔法を使ってるのよ!」

肩で息をしながら、エマは頭を押さえる。

「ハァ……ハァ……意味がわからない……」

ユリアナ

「それが、カルディくんなのです」

にこり、と無邪気な笑顔。

「――お姉様には、あげませんけどね」

エマ

「い、いらないわよっ!」

そう言い切りながら、なぜか顔が赤い。

ミナト

「エマさん。御者と荷馬車がいなくなっています」

エマ

「……仕方ないわね。置いていくしかないか」

物資がなければ、今回の遠征は失敗――

誰もがそれを理解していた。

ユリアナ

「……なんとかして」

自然と、全員の視線がユリアナへ集まる。

ユリアナは、そっとカルディの顔を両手で包み込む。

真正面から見つめ、甘えるように――しかし逃げ場のない距離で。

カルディ

「……少し扱いは悪くなりますが、私が預かりましょう」

背中の紋章が、うっすらと光る。

「《高圧・収納》」

――十台分の荷車が、音もなく消失した。

その場に残ったのは、呆然と立ち尽くす馬だけだった。

エマ

「……ちょっと待って」

唖然としたまま、声が震える。

「それ、国家戦略級の運び手であるあなたのご家族より、

多く運べてない?」

「……色々、頭が追いつかないんですけど」

ユリアナ

「カルディくんのことは、私を通して話してください」

笑顔のまま、声だけが冷える。

「その無駄な色気で、

いたいけな美少年をたぶらかさないでいただきたいので」

エマ

「ち、違うわよ!

私は彼の能力について――」

ユリアナ

「お姉ちゃんには勇者さんたちがいるでしょう?」

一歩、前に出る。

「カルディくんは――

カルディくんだけは、私のなの」

その瞬間、エマは悟った。

これ以上踏み込んではいけない領域がある、と。

それ以降、エマがカルディに質問することはなかった。


ユリアナ

「今晩はカルディくんの地元の定食屋さんで

二人で祝勝会しようね」

エマ「戦費を貴方が預かってるからって二人だけで無駄使いが許されると」

イヤイヤここからどうやっていくのよカルディに聞きたい聞けないけど。

ユリアナ「カルディくんは紳士だからレディに支払わせないんだよね」

エマ「アナタ食事の用意もテント用意してないけどどうするのよ」

ユリアナ「だから今日はカルディくんの地元で祝勝会をして、その2階でお泊りなの」

エマ「どうやっていくのよ」

ユリアナ「彼の転移に決まってるじゃない」

エマ、転移石で近くの街まで飛ぶのかしら

でも彼の地元って言ってたわね?

考え事をしている間にユリアナとカルディは消えていた。

エマ「ここで転移石を使ったら近く街に強制転移しちゃうんじゃない?帰りどうするのよ転移石で戻ってこれないのよ」

エマ

「昨日も狼の遠吠えで眠れなかったわ……。

私、狼だけは本当に苦手なのよね。

それにお風呂も……何日入ってないのかしら」

昨晩は、いつにも増して冷え込みが厳しかった。

エマの目の下には、はっきりとした隈が刻まれている。

ユリアナ

「昨日は楽しかったね。

今晩は絶対、私の地元に連れていくから。

帝都の美味しいお店、いっぱい知ってるんだよ」

ユリアナは弾むように続ける。

ユリアナ

「それからそれから、昨日の宿のお風呂、すごく良かったよね」

エマが、ぴたりと会話を遮った。

エマ

「……今朝、どうやって帰ってきたのよ」

ユリアナ

「転移で」

エマ

「転移石で戻ってこれるわけないでしょ」

ユリアナは少しだけ唇を尖らせる。

ユリアナ

「お姉ちゃん、カルディくんのこと

“能力が低くて顔だけの男”って言ってたじゃない。

何度も何度も、他の人にしなさいって」

そして、カルディの方を向き、はっきりと言った。

ユリアナ

「だからね。

カルディくんのこと、エマちゃんは知らなくていいの。

私だけの人なんだから」

エマは無言のまま、ユリアナの髪の先をつまみ、

自分の鼻先へと引き寄せる。

エマ

「……カルディくんのことを聞くのは、もう諦めたわ」

一拍置いて、声の調子が冷たく変わる。

エマ

「ただし。

戦費不正使用の疑惑については、徹底的に調査します。

ここでのトップは――私なのよ」

「その私が、戦地で不味い飯と寒さに耐え、

狼の遠吠えで眠れない日々を送っているのに」

「何日もお風呂に入れず、

そんな生活をしているのに」

「男とイチャイチャして、美味しい食事をして、

温泉に入っていた、ですって?」

ユリアナ

「でもお姉様、ミステリアスな美少年って

素敵だと思いません?」

エマ

「……でも私は、近づいては駄目なんでしょう?」

沈黙が落ちる。

ユリアナ

「だからって、私を戦争犯罪者扱いするなんて

ひどすぎるよ」

エマ

「だったら――彼を一晩、貸しなさい」

ユリアナ

「それだけは駄目。

そこは譲れない」

少し焦ったように付け加える。

ユリアナ

「ちょっと油断すると、

お姉ちゃんに取られちゃいそうなんだもん」

――――

エマ

「……何、この部屋」

ユリアナ

「カルディくんの“収納”の中だよ。

ここなら行軍しながら、戦費の計算もできるでしょ?」

ドサッ、と重たい音を立てて、

金貨の袋が三つ、床に現れた。

二人は無言で金貨を数え続ける。

やがてエマが顔を上げた。

ユリアナ

「……私、潔白だったでしょう?」

その瞬間、金貨が一枚、空を切って飛ぶ。

声が響いた。

「お嬢様もう大丈夫ですか?」

「……もう出してもらっていいわ。

潔白は証明されたから」

コイン

「ご主人ご主人。

お嬢が、もう出てもいいらしいですよ」

ユリアナとエマが外に出た瞬間――

視界いっぱいに、敵の城が現れた。

城門は目前。

角笛が鳴り、兵が動き出す。

――攻城戦が、始まった。

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