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第二十六章 神では無く人の時代に
「サトゥルヌスの世界は、もうすぐ“聖者の世界”に塗り替えられるだろう」
カルディの言葉に、ケンタは息を呑んだ。
「次は、ベルゼブブ――バール神と呼ばれる世界だ。
そこも、聖者の世界へと塗り替えが始まる」
「……じゃあ、俺はいつ帰れるんだよ」
ケンタの目が潤む。
「一生、童貞確定じゃん……」
正直、容姿が良いとは言えないケンタは、こちらの世界でも女性に相手にされなかったのだろう。
「じゃあさ、世界のどこまで行けば終わるんだよ」
口を尖らせ、縋るように聞いてくる。
「マニ教の神学者によれば――
ディオニュソスの別名“ヴァルナ”の生まれ変わりが、インドでブッダとして現れた。
そこから、東へ東へと広がっている」
カルディは淡々と続ける。
「帝国は西から、“聖者”を柱に進む。
両者が合流するまでだろうな」
「たぶん……アレキサンダー大王が敗れた、象に乗った騎馬兵と戦ったあたりまで行くかもしれない」
「アレキサンダー大王ほどの天才が、三十二歳で成し遂げた偉業だ。
凡人なら三十年、いや四十年……五十になる前に終われば、御の字だろ」
ケンタは、がくりと肩を落とした。
「……それまで俺、女性と親しくなれないってわけか」
その姿は、もはや英雄ではなく、ただの哀れな人間だった。




