第十八章 王国での迎撃
アルなき隊長の家は、居心地が悪かった。
あまりにも、悪かった。
だからカルディは、兄の提案に従って実家へ戻った。
久しぶりの家。久しぶりの、自分の部屋。
昔から仕えている執事が、変わらぬ調子で出迎える。
「おぼっちゃま、よくご無事でお戻りになりました」
「セバスチャン、久しぶり」
「おぼっちゃまもお年頃ですし、かわいいメイドでもお付けしますか?」
冗談めいた口調だった。
もっとも、この家は基本的にメイドを雇っていない。
セバスチャンが部屋を出たあと、カルディは一人、呟く。
「……まさか実家のほうが居心地よくなる日が来るとはな」
ビルに「今までお世話になりました」と頭を下げたとき、返ってきたのは気のない「ああ」という一言だけだった。
その直後、ビルは仕事を辞めた。
――余計なことは、聞かない。
「おぼっちゃま、服を新調しようと思いまして。仕立屋を呼んでおります」
「ご要望があれば、お伺いいたしますが」
「商人風で頼む。ただし――武器を持てる服だ」
カルディは即答した。
「アルの件で、護衛たちとは完全にこじれた。
他人に守られる前提は捨てる。自分の身は自分で守る」
「武器も揃えてくれ。ロングボウ、弓、槍、短剣……」
そのとき、扉を叩く音がした。
二番目の兄だった。
「悪いが、王国への届け物を最速で頼む」
「最速って、何日だ?」
「本来なら今日までだ。……俺、襲われただろ」
そう言って、肩口の生々しい傷を見せる。
地図と品物を床に無造作に放り投げ、
「この家に戻れたのは俺のおかげだって、忘れるなよ」
そう吐き捨てて、兄は部屋を出ていった。
カルディは静かに息を吐く。
「普通なら護衛を付ける場面だが……
逆に、護衛に命を狙われかねないな」
「急ぎなら――これしかない」
収納に飛び込む、宝箱ママに王国での転移地点を尋ねる。
「任せな。店の近くを教えてやるよ」
王国でも、すでに六割ほどまで侵食しているコイン軍団。
転移できない場所のほうが少ない。
「……一瞬だな」
次の瞬間、カルディは店の裏手に立っていた。
店に入ると、帝国商人風の服装で現れた彼に、店内がざわつく。
サイサンの警告を無視して現れた存在――当然の反応だった。
カウンターの女が、冷えた声で問う。
「……どのような御用向きで?」
カルディは無言で納品物を床に置き、納品書を差し出した。
別の店員が確認を終え、女に告げる。
「指定の品、すべて揃ってるわ」
受領書を受け取ったカルディは、あえて軽い口調で言った。
「これからもよろしく。
次回の発注書があれば、持ち帰りたいんだが?」
――犯人を、あおる一言。
発注書を受け取り、店を出る。
背後のざわめきは、明らかに大きくなっていた。
警告を無視し、取引を成立させ、そのまま立ち去ったのだから。
外に出てから、わざと街中をぶらつく。
時折、走る。
身体が異様に軽い。
魔法通りで手に入れた身体強化と瞬歩の効果だ。
――来たな。
必死に追ってくる気配。
カルディはあえて袋小路へ入った。
この道なら、複数で来ても一対一に持ち込める。
人一人が通るのがやっとの細道。
さて――
「……何人、来る?」
迎撃は、もう目前だった。




