第十五章 アルとモエの死
カルディが一週間、風邪で寝込んでいる間。
アルとモエは新規開拓の旅へと出発した。
アル
「婚前旅行だぜ。うらやましいだろ?」
カルディ
「ゲボゲボ……風邪うつして、行けなくしてやる……」
わざとらしく咳き込む。
アル
「やめろ、うつる!」
そう言い残して、そそくさと部屋を出ていった。
カルディ
「……おめでとう、アル」
誰もいない部屋で、そう呟く。
今回は帝国領を出て、王国領で商売をするらしい。
カルディはベッドの上で天井を見つめながら、
「ごほっ、ごほっ……あー、僕も行きたかったな」
と、独り言のように漏らした。
回復し、ようやく武術の修練に復帰したその時だった。
――ギィン
頭の奥に、嫌な感覚が走る。
モエの財布にいるコインからの、SOSだった。
宝箱のママが中継する。
「ご主人、ヤバいよ!」
「アルとモエが襲われてる!」
カルディ
「アル! モエ! 待ってろよ、すぐ行くから!」
ママ
「魔獣にまたがった、革鎧の三人組だよ!
馬車を追ってきてる!」
「アンタもやられないように注意しな!」
カルディは一瞬、自分の足を見る。
「……アキレスの呪いのせいで、足首を狙われなければ……」
考える暇はなかった。
カルディは護衛の大人たちの元へ駆け込む。
「アルとモエが、国境付近で襲われてるんです!」
何人かに訴えるが、誰も本気にしない。
「誰から聞いた?」
「どうせ修練サボりたいだけだろ」
――コインから聞いた、とは言えない。
カルディ
「それでも……アルが、モエが……!」
声が震える。
大人の一人が、笑いながら言った。
「そこまで思うなら、お前が行けよ」
「子供の思い込みだろ?」
胸の奥で、何かが切れた。
「……大人たちが信じてくれれば、もっと早く……!」
怒りと悔しさを噛み殺し、
カルディは街へ走り、馬を借りた。
――間に合わなかった。
辿り着いた時、
アルとモエは馬車の傍らに倒れていた。
腹を刺され、血に染まり、
かろうじて息をしているだけの状態だった。
カルディ
「アル! モエ!!」
モエが、かすかに微笑む。
モエ
「……かわいそうな、お兄様……」
「私の収納があれば……
お兄様も、幸せに……」
その瞬間。
モエの手の甲にあった紋章が淡く光り、
不思議な軌跡を描いて――
カルディの手の甲へと移動した。
光が消える。
モエの手から、力が抜けた。
カルディ
「……まだ、死ぬな……!」
「死ぬんじゃない……!」
何度も、何度も叫ぶ。
震える手で二人を馬車の荷台に乗せ、
街の医者へ向かって、
カルディは必死に馬車を走らせた。
祈るように。
――まだ、助かると信じて。




