第十章 情報網としてのコイン
いつもの屋台で、店主のママが困った顔でカルディに声をかけてきた。
「ねえ坊や。いつもしてたルビーの指輪がなくなっちゃってね。どこだと思う?」
ママは冗談半分のように言いながら、財布を差し出す。
カルディはその上に手をかざし、意味ありげに指を動かした。
「……暖炉の横。カーペットの裏あたりを探してみて。多分そこにある」
半信半疑で探しに行ったママは、数分後、指輪を握りしめて戻ってきた。
「……あったよ。本当に」
屋台にいた客が目を丸くする。
「なんでそんなことが分かるんだい?」 「彼はね、知る人ぞ知る“百発百中”のコイン占いの先生なんだよ」
「先生になったつもりはないんですが……」
そう言って困ったように笑うカルディの横で、アルが得意げに口を挟んだ。
「この前なんて、ここのママの旦那さんが浮気してるのも当てたんですよ」 「その時の決め台詞が――“コインはすべて見ている”、でしたっけ」
カルディは顔を真っ赤にする。
「……確かに見てはいるけど」
誰にも聞こえない声で、そう呟いた。
「きっとコインには残留思念があるんですよね」 「カルディはそれを聞き出せるんです」
まるで自分の功績のように胸を張るアルに対し、カルディは小声で反論する。
「聞いてるというより……勝手に喋ってくるんだけどな……」
事実、街の探偵が数週間かかる調査を、カルディは数分で解決してしまうことも珍しくなかった。
ついには――
「君、探偵にならないか?」
そんなスカウトまで受ける始末である。
屋台の会計をカルディが支払うと
アル「クラウディア家から小遣いもらえていいよな」
アルのその言葉に、カルディは思わず言い返しそうになる。
(……一銅貨たりとも貰ってない)
だが、その前に――コイン
『俺たちのおかげだろ』 「……そのとおりでございます」
即座に屈するカルディ。
『遺失物になったコインは、全部ご主人のところに戻るんだからな』
盗賊に襲われても、コインたちは勝手に逃げ、勝手に戻ってくる。
「よしよし、いい子だ。これで盗賊が減る」
コインを磨きながらそう呟くカルディ
おかげで、働かなくても金に困ることはなかった。
「家業を継げなくても一生安泰だな」
そう胸を張るものの――
(……虚しい)
本業である護衛職こそが、一番苦手なのではないかと思ってしまう。
そんなある日、コインたちが騒がしくなった。
『ご主人! 宝箱のママが回復しました!』
「それは良かった。おめでとう、ママ」
「坊やが収納に匿ってくれたおかげで、死なずに済んだよ」
『それでですね、ご主人』 『コインが増えすぎて、ご主人の脳内がパンクしないように』 『ママが“統合作戦指令部”をやれるようになったんです』
「……インターネットサーバーとか、スーパーコンピューターみたいなものか?」
『なんですかそのインターなんとか』 『スーパーなんちゃらって』
「要するに、欲しい情報だけもらえるってことだな」
「召喚獣としても、かなりの戦力になるつもりだよ」
「護衛職につかなければ、そんな危機もないんだが……」
カルディは独り言のように呟いた。
街には“御鏡の泉”と呼ばれる泉がある。
その水面に己を映すことで、ステータスを確認できるという。
映し出された文字は――
【職業:剣闘士 E級】
「……ティマーは、ないのか」
調べて分かったことは単純だった。
テイマーとは、自身の魔力で魔物と契約する者のこと。
だが――
(俺は、魔力を使っていない)
契約に使われているのは、宝箱のママの魔力。
カルディ自身は、ただ“受け入れている”だけだった。
――情報網としてのコイン。
それは彼の力であり、同時に、彼がまだ自覚していない異質さの証でもあった。




