第17話:魔術理論の激突:創造 vs 広域支配(前編)
中央演算室にて、レイジは支配の門番アルファスと対峙。アルファスの放つ究極の広域支配魔術は、空間全体の位相をコアの論理に強制的に統一し、レイジの自由な思考すら奪おうとする。
レイジは、自身の魔力を「無限の無秩序」とする創造の理論で対抗。論理的な支配を多様性の力で拒絶する。
一方、通路ではゴウの肉体が限界を迎える中、旧友レンからの静かなる知的な援護が届く。創造と論理、意志と支配が極限で激突する。
I.支配魔術の起動:空間と魂への圧力
1.アルファスの理論:支配魔術の絶対的効率性と論理的背景
中央演算室に突入したレイジに対し、アルファスはコアと完全に同期した状態で静かに立っていた。彼の魔力は、この巨大なドーム状の空間全体を一つの統制された回路に変えようとしていた。これは、カストルの魔術が到達した「環境統制」の究極形だった。
「私の魔術は、『広域支配』。この部屋の全ての魔力的な事象は、私の論理に従属する。あなたの創造は、この空間において、存在することを許されない『ノイズ』だ」
アルファスは、支配魔術の理論的優位性を静かに語り始めた。彼の支配魔術は、魔力の無駄遣いをゼロにし、ヴァルハイト全体のエネルギーを効率的に安定させるという「大義名分」に基づいていた。
【広域支配魔術の構造と哲学】
位相の強制統一:アルファスは、室内の自由な魔力粒子の位相(波のズレ)をコアの絶対安定周波数に強制的に統一した。これは、「多様性=無駄」という論理に基づき、個々の意志が生み出すランダムな魔力(自由)を、システムの安定という単一の論理に吸収させる行為だった。
アルファスの信条:彼は、かつて魔力の無秩序な使用によって世界が荒廃した歴史を知っており、「一部の犠牲を払っても、全体を永続的に救う」という冷徹な功利主義を自らの支配魔術の核心としていた。
サキは、激しい頭痛と吐き気に耐えながら、解析装置を操作した。「レイジ!彼の魔術は、外部からの圧力だけではありません!私たちの魔力回路の位相を強制的に同期させ、思考すら『システムへの服従』に書き換えようとしています!」
2.思考への干渉とレイジの抵抗
アルファスの支配魔術は、レイジの脳内の魔力回路にまで侵入し、彼の自由な思考を奪い去ろうと試みた。
アルファスの声(脳内共鳴):「抵抗は非効率だ。お前の創造は、一時の閃きに過ぎない。我々の支配は、千年続く論理によって支えられている。服従こそが、最終的な安定だ」
レイジは、激しい精神的な苦痛の中で、創造の魔術を自身の心臓部に集中させた。彼は、「服従の論理」を破壊するのではなく、「創造の意志」を無限に増幅させることで対抗した。
「俺の意志は、誰にも支配させない!自由こそが、真の安定を創り出す!」
レイジの目標は、アルファスの支配を物理的に破壊することではなく、「創造の魔力だけが存在を許される、純粋な意志の空間」を自身とサキの周囲に創造すること、すなわち「カオス・シェルター」の展開だった。
【カオス・シェルターの創造理論】
無作為な周波数の調和:レイジは、自身の魔力を一種類の周波数ではなく、人間が認識しうる無限の周波数でランダムかつ高速に振動させた。これは、「統一された論理」を絶対とするアルファスの魔術から見れば、解析不可能で、統制の対象外となる究極の「無秩序」だった。
波動の分離とシールド:このカオス・シェルターは、アルファスの強制的な統一波動を吸収・分離し、レイジとサキの肉体への干渉を完全に防いだ。これは、「異なる位相のものは干渉できない」という物理法則を、魔術で逆手に取った戦略だった。
レイジの周りに出現した青白い、複雑に揺らめく光の膜は、アルファスの冷徹な支配魔術の中で、異質な、しかし強固な意志の存在を証明していた。
II.通路の防衛戦:ゴウの疲弊とレンの知的な援護
1.警備隊の増援とゴウの極限状態
レイジがアルファスと対峙する一方で、ゴウのいる冷却システム通路では、警備隊の波が休むことなく押し寄せていた。システムがコアへの侵入という「二重の重大異常」を検知したことで、警備隊の投入は無制限となっていた。
ゴウの肉体は、レイジの強化魔術によって一時的に限界を超えていたが、疲労と警備隊の集中砲火によって、その魔力増幅効果が薄れ、肉体的な限界が顕在化し始めていた。彼は、四方八方からの魔力弾の破片を受け、呼吸すら困難な状態になっていた。
「このままでは…時間の創造すら、できなくなる…」ゴウは、通路の角に倒れていた警備員たちが、システムによって強制的に覚醒・再起動され、再び銃を構えるのを見て、支配のシステムの非情なまでに効率的な執念を痛感した。
2.レンからの援護:静かなる反逆の魔力信号
その時、ゴウの装備していた簡易解析装置に、冷却システムのパイプラインから、微弱な魔力信号が送られてきた。それは、レンからのものだった。
レンのメッセージ(解析装置経由):「ゴウ、パイプラインの圧力を局所的に操作する。このエリアの魔力センサーは、高圧下の異常振動を『システムエラー』として処理するよう論理付けられている。9.7秒間…その隙に、後退して体勢を立て直せ。これは、私のシステム知識による、自由な意志からの援護だ」
レンは、自由な意志を取り戻した後も、システム管理者としての知識を完全に失ってはいなかった。彼が送ったのは、冷却システムの緊急停止コードに偽装した局所的な圧力操作コマンドであり、警備隊のセンサーを論理的に無効化するための知的な裏切りだった。
ゴウは、肉体の痛みを忘れて、レンの意志に応えた。次の瞬間、ゴウの目の前のパイプラインから爆発的な高圧の冷却蒸気が噴き出し、警備隊の視界とセンサーがシステムエラーで一斉にフリーズする。その9.7秒の隙に、ゴウは通路の深部へと後退し、レイジが創造した時間を守り抜くための貴重な休息を稼いだ。
III.創造と支配の魔術論争:論理の予想外
1.アルファスの理論的苛立ち:カオスの持続性
アルファスは、レイジが広域支配魔術の中で、独自の結界を創造し、さらにそれを持続させていることに、明確な苛立ちを見せた。彼の支配の論理は、「無秩序なカオス」を即座に崩壊・破壊し、自身の統一された秩序に吸収するはずだった。
「なぜだ…!あなたの魔力は、ランダムな位相を持つ。それは魔術の定石に反する。なぜ、あなたの創造の魔術は、この空間の統制に屈しない!ランダムが安定を持つことは、論理的に矛盾している!」
レイジ:「お前の支配の論理は、一つの周波数に全てを押し込めようとする。だが、生命も意志も、無限の周波数を持つ。俺の創造は、その多様性をそのまま具現化している。統一できないものは、支配できない!」
アルファス:「多様性は非効率だ。非効率は破滅を招く。我々は、魔力の波動を単一化することで、世界の魔力の枯渇を防ぎ、人類の生存を効率的に維持してきたのだ。あなたの行動は、世界の破滅を招くテロリズムに等しい!」
2.レイジの反撃:創造の刃の構想
論争の終わりに、レイジは創造の魔術を結界の外側へと展開し始めた。彼は、アルファスの広域支配魔術の僅かな「論理の隙」、すなわち支配魔術が瞬間的に演算を停止するポイントを狙っていた。
レイジは、結界の周囲に、超高密度の魔力的な刃をゆっくりと、しかし確実な意志をもって創造した。この刃は、アルファスの支配の波動を一切持たず、レイジ自身の創造の意志のみで構成されていた。
「テロリストだと?俺の意志は、誰の犠牲も望まない!俺は、お前の支配を、論理ではなく創造の力で断ち切る!支配は停滞を生む。創造こそが進化だ!」
レイジは、創造の刃に「無秩序な推進力」を与え、アルファスの支配の波動を物理的な力で切り裂くための準備を完了させた。アルファスは、魔力的な防衛ではなく、肉体的な回避すらも考慮に入れなければならないという、支配の魔術師としての屈辱的な状況に追い込まれた。
「…無秩序な力で、私の論理を汚すな!私は、絶対的な論制をもって、このバグを排除する!」アルファスは、レイジの非論理性への怒りを増幅させ、コアと完全同期へと移行しようとしていた。
第17話をお読みいただきありがとうございます。
レイジは、創造の魔術による「非論理的結界」でアルファスの広域支配魔術に対抗し、論理的な支配を多様性の力で拒絶しました。そして、レンの静かなる援護は、通路で孤軍奮闘するゴウに貴重な時間を与えました。
次話、第18話:「魔術理論の激突:広域支配の限界とコアの防御」――アルファスは、レイジの創造の魔術を「論理的な破綻」として認識し、コアと完全に同期した最終的な支配魔術、『絶対広域支配』を発動させます。レイジは、創造の刃をコアへの最初の一撃として放つことができるのか?そして、その一撃がシステム全体に何をもたらすのか?物語は、さらに加速します。どうぞご期待ください。




