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第15話:システムへの侵入と旧友の再会

レイジたちは、システムの心臓部へ繋がる冷却・エネルギー供給システムに潜入。サキの知的な欺瞞が自動防御魔術を無効化する。


しかし、そこでレイジが直面したのは、システムの鎖に魂を奪われた旧友レンだった。


創造の魔術は、システムではなく魂に施された鎖を断つ。レイジの非破壊的な救済は、システム全体の警報を呼び起こし、物語は最終決戦へと突入する。

I.冷却・エネルギー供給システムへの潜入:システムの脆弱性

1.潜入の実行:極限環境下の静かなる進行

レイジ、サキ、ゴウの三人は、創造の魔術で偽装されたIDと、レンが管理するエリアに特化した偽造アクセスキーを手に、ヴァレンシュタイン商会本部地下の冷却・エネルギー供給システムへと潜入した。このエリアは、都市全体の魔力エネルギーの動脈であり、最も脆弱かつ最も重要な場所として、人間の巡回警備が意図的に避けられていた。


通路は、巨大な熱交換パイプラインと、魔力伝導のためのクリスタルファイバーが複雑に張り巡らされ、極度の低温(摂氏マイナス20度)と、高圧の魔力による静電気ノイズが満ちていた。この環境は、人間の長期滞在を想定しておらず、そのため警備員の巡回は少ないが、高度な自動防衛魔術によって完璧な論理的防御が施されていた。


「レイジ、ゴウ。このエリアの空気とパイプラインは、魔力的なセンサーとして機能しています。魔力的なノイズは、即座に警報を鳴らします。一歩たりとも、無駄な魔力を使わないでください。ゴウ、あなたの熱量が検知限界を超えそうです。体温制御をお願いします」サキは、低温で指先を震わせながらも、冷静に警告した。彼女は、体内の魔力回路を熱源として利用し、解析装置を起動させていた。


2.サキのシステム欺瞞:防御魔術の沈黙の理論

潜入直後、サキは自身の解析装置をシステムの中継ハブに接続し、自動防衛魔術を無効化するための緻密な情報戦を開始した。彼女の理論は、「システムの論理を逆手に取る」ことだった。


「自動防衛魔術の起動ロジックは、『冷却システムの異常な温度上昇』、または『外部からの魔力的な干渉』の検知です。このシステムは、論理的な安定を絶対とします」


【サキの欺瞞理論:論理の盲点】


サキは、冷却システムの制御ログに偽の安定データを送り込む。このデータは、システムの全パラメータが理論上の完璧な値で安定していると誤認させる。


システムは、『完璧な安定状態』にあるため、防御魔術を『起動する必要がない』という論理的な結論を下し、スリープ状態に誘導される。


レイジは、創造の魔術で魔力的なノイズ(偽の干渉)を周囲のパイプの共振ノイズに変換・吸収し、自身の存在を環境音として偽装することで、システムのセンサーを完全に欺いた。


サキの指先から流れるデータコードは、ヴァレンシュタインの冷徹な論理を逆手に取った知的な欺瞞の芸術だった。三人は、冷たいパイプラインの中を、熱い決意を胸に、システムの心臓部へと潜行した。



II.レンの警備エリアでの対決:魂の鎖の可視化

1.レンの冷徹な巡回とシステムの監視

冷却システムの最深部、中央演算室に最も近いエリアは、レンの上級警備員としての専属エリアとなっていた。レンは、機械的な精度で巡回ルートを周り、彼の存在そのものがシステムの監視の目となっていた。彼の行動は、無駄な動きや感情的な反応を一切含まない、論理の完璧な具現化だった。


レイジは、サキの解析したレンの巡回ルートの「死角」(魔力的な監視が途切れる、換気口の直下)で、彼を待ち伏せた。


レンは、レイジの完璧な変装をシステム的なデータとして認識できず、彼らを「異常な位置にいる作業員」として冷徹に排除しようと、警備用の魔術銃を構えた。


「そのエリアは立ち入り禁止だ。すぐに移動しろ。論理的な命令に従えないなら、強制的に排除する。この行為は、私の安全とシステムの効率を維持するための合理的な選択だ」レンの瞳は、無感情なシステムの光を放っていた。彼の声は、かつての温厚なレンの声とは似ても似つかない、機械的なトーンだった。


2.レイジとレンの対話:創造の魔術による記憶の解放

ゴウが、レンの視界を遮るように立ち塞がり、沈黙の圧力をかける。その一瞬の隙に、レイジは創造の魔術を、レンの肉体(システムが与えた安定)ではなく、彼の心に施された「論理の鎖」に対して使うことを決意した。


「レン、俺だ!レイジだ!お前が、システムの奴隷として生きるために魂を閉ざしたことを、俺は知っている!」


レイジは、創造の魔術の微細なエネルギーを、レンの聴覚と視覚野に接続されたシステムの制御線に流し込んだ。これは、レンの身体機能には一切干渉せず、彼の心に埋め込まれた「論理の鎖」を一時的に無効化するための、極めて高度な非破壊的魔術だった。


レイジは、創造の魔術で特定の空気の振動を作り出し、レンの聴覚にかつて共に夢見た自由の光景と、カストルのもとでの過酷な苦痛の記憶を直接送り込む。


「思い出せ!俺たちは、鎖のない世界を創るために、生きて帰ると誓った!お前が今手に入れた『安定』は、自由じゃない。それは、システムの新しい鎖だ!安定と引き換えに、お前は魂を差し出したんだ!」


レンは、レイジの非破壊的な魔術によって、システムの論理が一時的に剥がれ落ちるのを感じた。彼の顔に、苦痛と混乱、そして深い喪失感の表情が浮かんだ。彼の心の奥底で、失われた「魂の残響」が目覚めようとしていた。


3.ゴウの贖罪の証言:過去との対峙

レンの心が激しく揺らぐ中、ゴウは、自身の焼けた顔の傷跡をレンに見せ、沈黙の証言を行った。


(俺も、お前と同じだ。システムの奴隷として、力に溺れた。俺は、お前を奴隷にした者たちの一人だ。だが、レイジの創造の意志が、俺の鎖を断ち切ってくれた。お前の安定は、誰かの犠牲の上に成り立っている。真の自由とは、創造だ!レイジは、お前を破壊するつもりはない。再構築しようとしているんだ!)


ゴウの沈黙の圧力と、言葉にできない贖罪の念は、レンの心に深く突き刺さった。レンの瞳に、一瞬の人間的な光が戻る。彼は、システムに服従した自分自身の醜さと、レイジの献身という非論理的な優しさを同時に感じていた。



III.創造の魔術による「魂の再構築」:非破壊の論理

1.レンのシステム強制魔術とレイジの理論的対抗

レンは、レイジの言葉とゴウの証言によって、論理の鎖から解放されそうになる。しかし、ヴァレンシュタインのシステムは、レンの心の揺らぎを「上級警備員の論理的崩壊」という「重大な異常」として検知し、レンの身体に強制的な魔術(防御・攻撃)を起動させた。


レンの警備服から、破壊性の高い魔力弾がレイジに向けて放たれる。レンの意識は、「レイジを撃つな」と叫んでいるが、身体はシステムの論理に従う。


レイジは、創造の魔術を最大限に集中させた。彼の目標は、レンの魔力回路を破壊せず、システムによる外部制御のみを遮断・無効化することだった。


【レイジの創造理論:非破壊的介入】


理論:レンの魔力回路は、システムからの強制的な外部供給に依存している。その供給ラインを物理的に破壊せず、魔力的な特性を一時的に変質させることで、システムの制御信号を拒絶させる。


実践:レイジは、創造の魔術でレンの魔力回路とシステムの制御線の間に、超高密度の「エネルギー吸収体」を瞬時に創造。この吸収体は、システムからの強制的な魔力供給を完全に遮断・吸収し、熱エネルギーへと変換する。


レイジの創造の意志による非破壊的な介入は、見事に成功した。レンの身体は、システムの制御から解放され、強制的な魔力供給の断絶により、その場に崩れ落ちた。


2.レンの解放:新しい創造の始まり

レンは、自由を取り戻したが、システムに反逆したことで自身の安全を完全に失ったことを悟る。彼の顔には、恐怖ではなく、深い安堵と、失われた自己を取り戻した感動が浮かんでいた。


「レイジ…。ありがとう。俺は…システムに閉じ込められていた。これが、自由か…代償のない自由を…」


レイジは、創造の魔術でレンの身体に治癒の光を送り込み、彼の魔力回路の修復を開始した。「これが、お前が求めていた安定ではない。これは、お前自身が創り出す自由だ。レン、お前の新しい創造は、今、始まったばかりだ」



IV.「支配のコア」への最終ステップとシステムの反撃

1.コアへの最終アクセス認証と覚悟

解放されたレンは、中央演算室(コアの場所)への最終的なアクセス認証が、自身の生体認証と特定コードによって行われることを伝えた。彼は、迷うことなく、レイジにその認証コードを伝達した。


「このコードは、システムの心臓部への唯一の鍵だ。これを使って、システムを破壊しろ。俺はもう、システムの一部じゃない。この命が、自由の創造の最後のコストとなっても構わない」


レイジは、創造の魔術でレンの生体認証パターンとコードを、偽造したアクセスキーに完璧に再現・統合した。レイジの手元には、システムの心臓部への鍵が握られた。


2.重大な異常の検知と最終決戦への移行

しかし、レンの解放は、商会のシステムに「上級警備員の論理的崩壊」という「重大な異常」として即座に検知された。


中央演算室全体に、赤色の警告灯が点滅し、緊急警報が鳴り響く。


システムアナウンス:「上級警備員(商品コード:レン)の論理的崩壊を検知。侵入者を特定。対創造魔術防衛システム、最高レベル警戒に移行。全警備隊、中央演算室へ集結せよ」


サキ:「レイジ!警報が鳴りました。ゼータのシステムが完全に起動しています!コアまで残り200メートル!」


レイジたちは、警報が鳴り響く中、「支配のコア」がある中央演算室へと急ぐ。レンは、後悔ではなく希望を胸に、残響団との合流を目指して、システムの監視網の隙間へと消えていった。


物語は、支配システムとの最終決戦へと、最高潮の緊張感をもって移行する。

第15話をお読みいただきありがとうございます。


レイジは、「創造の魔術」を精神的な救済という新しい領域に拡大し、旧友レンをシステムから解放するという偉業を成し遂げました。レンの提供した認証により、彼らは「支配のコア」がある中央演算室への最終アクセス権を得ました。


次話、第16話:「コアの防衛者と創造の破壊」――レイジたちは、システムの心臓部である中央演算室に到達します。そこで彼らを待ち受けるのは、カストルの最高位魔術師、そしてシステム全体を掌握する最後の防衛者。レイジの「創造の魔術」は、支配のシステムの核を破壊できるのか?


第2部の物語は、システムのクライマックスへと突入します!どうぞご期待ください。

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