表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

第14話:大都市ヴァルハイト:支配の心臓

レイジたちは、支配システムの頂点、大商業都市ヴァルハイトに潜入。そこは、商業論理が究極まで効率化された冷酷な理想郷である。


「支配のコア」へのルートを特定したレイジの前に現れたのは、システムの一部と化した元奴隷仲間レン。


システム破壊か、旧友の救出か。レイジの創造の意志は、倫理と破壊の境界線で試される。

I.支配の心臓部への潜入:冷酷な理想郷ヴァルハイト

1.ヴァルハイトの光景:システムの完璧な具現化

レイジ、サキ、ゴウの三人は、リコの協力と創造の魔術で偽装された秘密の輸送ルートを経て、ついに大商業都市ヴァルハイトへと到達した。都市の入り口は、ゼフィールとは比べ物にならないほど厳重な警備が敷かれていたが、彼らは商会の廃棄物運搬路というシステムの死角を、サキの緻密な解析によって特定し、潜入に成功した。


ヴァルハイトは、ヴァレンシュタイン商会の本部が位置する、世界の支配システムが最も効率化された「冷酷な理想郷」だった。街は、機能性、美しさ、そしてエネルギー効率の極致を追求して設計されており、無駄な装飾や非効率な感情の入り込む余地は一切なかった。


都市の建築物は、均整の取れた優美な曲線と、最新の魔力工学を組み合わせたデザインで統一され、白い特殊合金と青い魔力ガラスで構成されていた。空気は、高性能なフィルターシステムによって清浄に保たれ、街の至る所に、ヴァレンシュタイン商会のロゴが権威の象徴として刻まれていた。


サキは、この都市の魔力的な構造を解析し、その圧倒的な支配力と完璧な統制を悟った。


「レイジ、この都市の魔力監視システムは、ゼフィールの数百倍以上の密度です。街全体が単一の巨大な、知的なセンサーとして機能している。魔力的なノイズだけでなく、人間の思考パターンすら、ある程度の確率論的予測に基づいて監視され、潜在的な脅威としてマーキングされています」


2.都市の圧倒的な階級構造と絶対的な分離

ヴァルハイトの階級制度は、物理的な高低と魔力的な密度によって、絶対的かつ厳格に分離されていた。


【最上層(支配と孤立)】


空中の居住区:都市の上空に浮かぶ、反重力技術で維持された球状の居住区。商会役員や最高位の転生者のみが住む。


特徴:彼らは、富と莫大な魔力に満ち溢れた空間で生活し、下層の犠牲を「経済の当然のコスト」として認識していた。彼らの生活は、下層との物理的接触を完全に断ち切ることで、倫理的な負荷から解放されていた。


【中間層(統制と服従)】


地上階層の上部:事務、管理、高度な技術職に従事する者たち。


特徴:彼らは、厳格な労働契約と情報統制のもと、システムの一部として扱われ、反抗の意志を完全に奪われていた。彼らの労働時間や成果は、秒単位で計測され、非効率な感情はシステムの障害として排除されていた。


【隠蔽された最下層(存在の抹消)】


地下深部の隔離区:ゼフィールでは最下層が存在したが、ヴァルハイトでは「非効率な存在」は都市の地下深く、廃棄物処理やエネルギー生成エリアに隔離・隠蔽されていた。


特徴:彼らの存在は、商会の公式記録から完全に削除されており、彼らの労働は「コストゼロの自動システム」として計上されていた。これは、支配のシステムが目指す「完璧な世界」の非情さの具現化だった。


ゴウは、その冷酷な光景を見て、怒りを内に秘めた沈黙を保った。かつて自身がシステムの一部であったことへの贖罪の念が、彼の巨体を押しつぶすようだった。彼は、自身の肉体の衰えを強く感じながらも、レイジの盾となる決意を新たにした。


4.潜入と偽造の魔術:システムの隙間を縫う

三人は、中間層と下層の境界にある、労働者階級の居住区に潜伏した。レイジは、創造の魔術を駆使し、偽造文書、IDカード、そして商会内部のアクセスキーを創造し、潜入の足場を固める。


【偽造品の創造プロセス】


レイジは、周囲の廃棄された金属片と合成樹脂をリビルドし、極めて精巧な偽造品を生み出す。


これらの偽造品は、サキの解析によって得られた「本物の魔力認証パターン」を原子レベルで再現し、微細な魔力的な指紋までも偽装していた。


サキの解析:サキは、商会内部の通信ログから、警備員のIDと認証パスワードの生成ロジックを傍受。そのロジックに基づき、「システムが次に生成するはずのID」をレイジに提示し、完璧な偽造を可能にした。


この「偽造魔術」は、システムを物理的にも魔力技術的にも欺くための、レイジの知的な創造力の極致だった。



II.「支配のコア」への手がかりと敵の警戒の増幅

1.「支配のコア」の構造と位置の特定

サキの主な任務は、商会本部の複雑な構造を解析し、「支配のコア」の保管場所と、そこへ至る唯一のルートを特定することだった。リコから得た情報は断片的だったが、サキはそれを起点に、都市のエネルギー供給システムとの関連を洗い出した。


サキは、街の魔力通信のノイズを傍受し、本部の設計図の断片、警備員のシフトパターン、そして魔力防衛システムの起動ログを、時間をかけて抽出し、立体的な仮想モデルを構築した。


「解析完了。コアは、本部の地下深くにある中央演算室にあります。そこは、都市全体の巨大なエネルギー供給ラインと直結している。コアの防御は、物理的な障壁と、カストル独自の転生者魔術師による魔力的なロックの二重構造です」


サキの解析によると、コアは「世界の支配システムの頭脳」であり、都市の魔力と奴隷の労働力の全てを制御・演算している、商会とカストルの連携の象徴だった。


2.ゼータの報告による警戒レベルの極限的な上昇

ゼータの報告は、ヴァルハイト本部に予測不可能な波紋を呼んでいた。


「レイジの魔術は、既存の論理に基づく解析を拒絶する」という事実は、論理と効率を至上とする商会にとって最大の恐怖であり、論理的な防御の限界を意味していた。


結果として、商会本部の警備は、論理的な限界を超えたレベルで物理的・魔術的に大幅に強化されていた。


物理的警備:警備員の数と巡回ルートがAIによって生成された無作為パターンで増加。


魔術的警備:レイジの魔力使用を事前に検知し、自動的に広域破壊魔術を起動させる対創造魔術防御システム(ゼータの緊急提言)が導入されていた。


レイジは、創造の魔術を、戦闘ではなく「システムを欺く」という極めて知的な領域で使わざるを得なかった。彼の魔力は、静かなる意志として、都市の隅々に潜んでいた。



III.旧友との再会:創造と破壊の境界

1.カストルの影:元奴隷仲間レンの変貌

情報収集のため、三人が商会本部の資材搬入エリアに潜入した際、レイジは、かつての魂の絆を強烈に感じた。


その人物は、カストルのもとで共に過酷な奴隷生活を送っていた元奴隷仲間(転生者)の一人、「レン」だった。レンは、かつては温厚な性格で、レイジとゴウと共に自由を夢見ていた、希望を失わない数少ない仲間だった。


しかし、今のレンは、商会の上級警備員として働いており、完璧にシステムに組み込まれた存在となっていた。彼の瞳には、かつての人間的な温かみはなく、空虚な論理と疲弊した忠誠心だけが宿っていた。


レンは、レイジの偽装を見抜くことなく、冷徹に資材の搬入チェックを行っていた。彼の手首には、奴隷の枷ではなく、警備員のIDと魔力認証装置が光っていた。彼は、自らシステムの一部となることが、「生き残るための唯一の論理的な選択」であり、「自由」だと信じ込まされているようだった。彼の心の奥底の「魂の残響」は、システムの論理によって完全に沈黙させられていた。


2.レイジの葛藤:創造と破壊の境界線

レンの姿は、レイジに強烈な衝撃を与えた。彼がシステムを破壊することで救おうとしていた「奴隷」が、自ら進んでシステムの維持者となっている。


(俺は、このシステムを破壊しなければならない。しかし、破壊は、レンが命と引き換えに手に入れた「安定」を奪うことになる。レンを救うことは、システムの一部を破壊することに繋がるが、全体戦略の障害になるかもしれない)


レイジの心の中で、「システム破壊」という巨大な破壊の目的と、「旧友の魂の救済」という小さな創造の目的が激しく衝突した。彼は、創造の意志が、破壊と救済という倫理的な境界線の上で試されていることを悟った。


サキは、レイジの内面の葛藤を察知し、静かに、しかし強い論理で警告した。


「レイジ、感情は非効率です。私たちの目標は『コアの破壊』。個人の感情で、全体の戦略を危険に晒すことは、論理的に許容できません。レンは、過去のデータです」


3.ゴウの沈黙の諫言:贖罪の経験

ゴウは、レンの姿を見て、自身の贖罪の過去を重ねていた。ゴウは、サキの論理的な正しさを理解しつつも、レイジの肩に手を置き、強い握力で沈黙の諫言を行った。


(レンは、かつての「鎖に服従した俺自身」だ。だが、救うとは、破壊とは限らない。レイジ、お前の創造の力で、破壊せずに救う道を見つけろ。お前の創造は、破壊ではない、再構築のはずだ)


ゴウの沈黙の圧力は、サキの論理的な警告よりも、レイジの創造の意志に深く響いた。それは、「創造は、破壊よりも難しい」という、厳しい現実を突きつけていた。



IV.侵入計画の策定と二つの創造への決意

1.最終ルートの特定:冷却・エネルギー供給システム

サキは、レンの出現によるレイジの動揺を理解しつつも、冷徹な論理で解析を続けた。彼女の解析により、コアへの侵入には、商会本部の地下にある冷却・エネルギー供給システムを通る「唯一のルート」が存在することが判明した。


ルートの特徴:このシステムは、都市全体の魔力供給を担っており、その重要性から自動防衛魔術が敷かれているが、商会の警備員による直接監視は少ない。システムの自動化が、人間の目の死角を作り出していた。


レンの関与:さらに、この冷却・エネルギー供給システムの特定のセクションが、レンが管理する警備エリアと密接に関わっていた。レンのアクセス権がなければ、侵入は不可能に近い。


「レイジ。『支配のコア』への侵入は、レンを巻き込むことを意味します。これは、システム破壊と旧友の救出という二つの目的を同時に達成する唯一の機会です。しかし、リスクは極めて高い」


2.破壊と創造への決意:システムからの再構築

レイジは、深く息を吸い、迷いを完全に振り払った。彼は、創造の魔術で、偽造したアクセスキーを握りしめた。その手には、揺るぎない決意の熱が宿っていた。


「俺は、レンを破壊しない。システムを破壊する。そして、レンの魂を、その鎖から解放する。システムに組み込まれた魂を、自由な存在として再構築リビルドする。それが、俺の創造の意志だ」


レイジ、サキ、ゴウは、「支配のコア」への侵入を決定。レイジは、システム破壊と旧友の救出という二つの創造を成し遂げるため、支配の心臓部への潜入計画を始動させた。彼らの背後には、冷酷な理想郷の静かなる監視が迫っていた。

第14話をお読みいただきありがとうございます。


レイジたちは、支配の心臓であるヴァルハイトに潜入し、「支配のコア」への唯一のルートを特定しました。しかし、そのルートは、元奴隷仲間レンが管理するエリアと密接に関わっていました。レイジの創造の意志は、システム破壊と旧友の救出という、二つの倫理的な課題に直面します。


次話、第15話:「システムへの侵入と旧友の再会」――レイジたちは、レンの警備エリアへと侵入。旧友の魂を取り戻すための非破壊的な戦いが始まります。レンの冷徹な論理を、レイジの創造の意志は打ち破れるのか?そして、彼らは「支配のコア」に到達できるのか?


第2部の物語は、倫理と創造の深淵へと深く切り込んでいきます!どうぞご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ