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前半 Aという男の考え方

「この後カラオケ行く人ー!」


 甲高い女子生徒の声がクラス中に響き渡り、それに反応する生徒たちによって十数人からなる集団が形成された。

 あの人たちは今後クラスの中心になっていくんだろうな。Aは出来上がった人の塊を見てそんなことを思った。


 20××年4月某日、○○高校の入学式が終わり正午が近くなってきた頃、多くの生徒が友達作りに精を出している中、Aは喧騒から逃げるように教室を後にした。くだらない、そう思う頭とは裏腹に体はAを教室に止めようとしてくる。Aはその制止を振り切るように早足で校門をくぐった。

 友達なんてくだらない。あんな生産性のない関係を作るためだけにクラスのやつらは何をあんなに必死になっているんだ。どうせその場限りの関係で高校を卒業すれば、あるいはクラスが変われば関わることなんてすぐになくなる。それなのに友達を作る必要なんてあるだろうか。

 Aは道端に転がった石を蹴とばす。

 大体どうして友達なんて関係が欲しいんだ。娯楽のためか?学業のためか?なんでもいいがそれらは一人でもできるだろう。それが一人でできないから友達を作るというのであればそれは本人の怠慢だ。俺は友達がいなくても問題なく学生生活を送れるから友達なんぞは不要なんだ。

 何かに怒っているような、もしくは言い訳をしているようなことを考えながら歩いているといつの間にか自宅に到着していた。


 Aは玄関のかぎを開け階段を上り自室の扉を開ける。そこで初めて大きく深呼吸をした。自室はAが息苦しい現実から隔離され深い呼吸ができる唯一の場所だ。部屋に入ったAはすぐにパソコンの電源を入れヘッドフォンをつける。開いたソフトはtalkwizというコミュニケーションソフトだ。その画面にはAが友達と呼ぶことのできる名前が十数人ほど並んでいる。

「あれ?A’さん今日入学式って言ってなかった?」A’はAのネット上の名前だ。

「だるいから途中で抜けてきちゃった」Aは笑いながらそうチャットを返した。

「学校とかマジで行く意味ねーわ」「分かるw」「途中抜けナイス!」

 みな口々にAに同調する。それを見たAはぬるま湯に浸かっているような安心感を覚えた。自分の発言に対して期待通りの反応がくることが分かり切っていて、実際にその反応が返ってきたという事実がAを安心させる。

 Aがそれに浸っていたその時、「ピンポーン」と呼び鈴の音がヘッドフォンを貫通して聞こえてきた。Aはヘッドフォンを外しなんか通販で注文してたっけ、と思い記憶を遡ってみるが心当たりはない。きっと新聞か宗教の勧誘だろう、と再びヘッドフォンをつけようとしたAの耳に追い打ちのようにまた「ピンポーン」という音が飛び込んでくる。なんなんだよ、Aはしぶしぶ席を立った。部屋から出て玄関に行くまでの間にも呼び鈴はなり続けている。

「はいはーい、誰ですかー」

 Aが頭を掻きながら玄関を開けるとそこにいたのは近所に住むBだった。


 B、家が近所だったこともあり小学生まではよく一緒に遊んでいたが中学生からはめっきり話さなくなった。校則ギリギリの茶髪に派手なメイク、一目見た印象は世間一般からギャルといわれる人種そのものだ。入学式後に出来上がっていた人の塊の中にいた一人、現実に居場所のないAとは真反対の人間だ。なんでこいつがここにいるんだ。

「久しぶり」Bが何でもないような顔でそういった。Aは「あぁ」とも「おぉ」とも聞こえる返事をした。沈黙。

・・・・・・

「あのさ」沈黙を破ったのはBだった。「今日ホームルームの前に帰ったでしょ」

 どうやらあの後新クラスでの集まりがあったらしい。早く帰りたいあまりそれをすっぽかしてしまったようだ。

「あんたに資料渡せって、先生が。家近いからって」そういってBは数枚のプリントをAに渡してきた。学級通信、今後の学校行事予定表、担任の自己紹介などなど。

「別にこんなもんいらないのに」「は?」ぼそっとつぶやいたAの言葉にBが反応する。

「私カラオケの予定蹴ってわざわざここ来たんだけど。それで感謝の一つもないわけ?」

 しまった聞こえてたか。地獄耳め。

「悪い、ありがとう」

 Aが一言お礼を言うとBはフンと鼻を一つ鳴らし背を向けた。その背中を見送りながらAは小学生の頃のBを思い出した。彼女は小学生まではAの良き友だった。お互いアニメや漫画が好きで、毎日のようにどちらかの家に集まっては遊んでいたのだ。それが今や、Aが関わりたくない現実そのもののような姿をしてしまっている。クラスの一軍集団に所属していて周りには常に人がいる。現実になじめないAにとってBはまさに息苦しさの象徴だ。Aは小さくなるBの背中を最後まで見届けることなく自室に戻っていった。

 久しぶりに会ったのに全然話せなかったな。ただもう関係ない。同じクラスだとしても俺とあいつが関わることなんてないだろうから。そう思っていた。


「ねぇAくん!消しゴム貸してくんない?」

「教科書忘れたから見せて!机くっつけるね。」

「何それおいしそうじゃん。一口ちょうだい」


 いったいどういう状況だろう。Bが、隣の席のBがなぜか執拗におれに絡んでくるんだが。

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