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5.言霊



 ――場所は、スターマックスコーヒーという全国展開のコーヒーチェーン。

 チョコラテを購入して着席したあと、落ち着きのない指で”好きな人に振り向いてもらう方法10選”をスマホで検索した。


「”相手の長所を褒める”かぁ……。勅使河原くんの長所は優しいところだと思ってたけど、案外ひねくれているから褒めたとしても怒られるだけかな。……うー、次つぎっ! えっとぉ……”二人きりになる回数を増やす”。そうねぇ、学校だと二人きりになるのは難しいかな。さっきみたいにスタマに誘っても『絶対に行かない』って断られるだろうし」


 ブツブツとつぶやきながら店内を見渡せば、若者中心とした客層が各々の時間を満喫している。店内でこんなものを検索しているのは自分だけだろうと思い肩を落とす。


「あー、地味に落ち込む……。チャンスをくれるって言ったんだから、少しくらい歩み寄る姿勢を見せて欲しいね。悔しいから次を調べてやる! 次は、えーーっとぉ……。”協力者を見つける”?」


 協力者かぁ。彼は人間関係が薄そうだから適任者がいないかも。

 それなら、私の周りの人?

 友達の中で唯一恋愛をしてるのは真妃(まき)しかいないから、相談すれば少しは今後の糸口が見えてくるかな。真妃は小学生の頃からの親友で私のことを一番よく知ってるし……。

 さっそく連絡先をタップしてからスマホを耳に当てると、彼女は2コールもしないうちに電話にでる。


「真妃? いま電話平気?」

『うん。大丈夫。それよりこんな時間に電話なんてどうしたの?』

「あのね、実は大事な相談があって……」


 喋っていると目の前に影ができた。目線を上げると、そこには絶対に行かないと断言していた勅使河原くんの姿が。思わず仰天したままポロッとスマホを落とす。


「てっ、勅使河原くん……。来て……くれたんだ」

「……あぁ」

「来てくれると思わなかった。うわぁぁ、感動〜〜〜っ! 寂しいのを我慢しながら待ってて良かったぁ!」

「ウソつくなよ。いま誰かと電話してたじゃん」

「そんなのたまたまよ、たまたま! ……でも、どうして来てくれたの? 行かないって言ってたのに」

「閉店時間まで待たれたら困るから」


 彼はしかめっ面のまま目線を外す。


「どうしてわかったの?」

「おまえならやりかねないと思ってね。……せっかく来たからコーヒーを注文してくるよ」

「あ、うん。いってらっしゃい」


 私は足元に落としてしまったスマホのことを思い出して、拾ったあとに「あとで電話する」と真妃に伝えて通話終了ボタンを押した。

 カウンターに並ぶ彼。信じられなくて自然と目線が吸い込まれていく。

 自らの意思で来てくれたってことは、少しは脈ありってことかな。


「ふっ……ふふふふっ……」


 身震いするほど笑いが止まらなくなると、コーヒーを持って席に戻ってきた彼は冷たい目を向けた。


「……俺、来ないほうが良かったかな」

「なに言ってるの! 勅使河原くんが来てくれてすっごく嬉しい!! もう最高に幸せ!! 勅使河原くんってコーヒー持った姿がイケてるんだね。いつも本ばかり握ってるから気づかなかったよぉ。さぁさぁ、そんなところにつっ立ってないでこっちに座って座って!」

「……」


 私は向かいの席に手のひらを向けると、彼は口角をひくひくと引きつらせたまま座った。

 ”相手の長所を褒める”もこれでクリアかな?


 でも、こんな近くで勅使河原くんを見つめることができるなんて思いもしなかった。ずっと、こうやって眺めていたいなぁ。

 頬杖をつきながらうっとりした目で見つめていると、気付いた彼はゴホンと咳払いをする。


「ひとつ聞いていい?」

「うん、なぁに?」

「柴谷さんはどうしてミスコンに出たの? しかも2年連続で」

「それはね、友達に優勝するって宣言したから」


 さらりと言うと、彼の眉はピクっと動いた。

 

「……それだけ?」

「ううん。二度目は優勝したら勅使河原くんに告るって宣言したんだよ」

「あのな。宣言しても願いが叶うわけじゃないから。もしかしたらお前は言霊を信じるタイプかもしれないけど」

「そうそう、それ!! 私、昔から言霊を信じてるんだ! 無理を承知で勅使河原くんをスタマに誘ってみたらちゃんと来てくれたし」

「それはお前が『ずっと待ってる』って言うから……」

「本当に気がないから絶対に来ないはず。来てくれたのは少しでも私を意識してくれたから。言わなければ(ゼロ)。でも、思いきって言ってみれば、それが1に生まれ変わる可能性もあるからね」


 上機嫌のままそう言うと、彼は口を尖らせる。


「それで俺は被害者になったけど?」

「ごめんごめん。……でも、嬉しかったよ。チャンスをもらった以上、後悔しないように頑張りたいから」


 フラれた瞬間は未来が遮断されたような気になった。でも、言霊が背中を押してくれたことによって、次のステップへつなげることができたから。


「……お前さ、どうしてそこまで頑張るの?」


 音色が変わったので彼の瞳を見つめると、少し遠い眼差しをしているように見えた。


「えっ」

「いや、なんでもない……」

「えぇーーっ……。続きが気になるから隠さずに言ってよぉ!!」

「うっせ。そんなに頑張りたいというなら明日から試練を与えてやるよ」

「へっ?! し、試練……とは?」

「きっと、その言霊を後悔すると思うよ」


 彼はコーヒーをゴクリと飲み干すと、空のカップを持って出口へ向かう。私は「待ってよぉ〜!!」と言い、トレーを持ったまま後を追った。

 翌日から与えられる試練が、とんでもない悪夢を生み出すことになるとも知らずに……。


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