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3.まさかの✕✕!



 ――翌日のランチタイム。

 私は高校の校門付近の桜の木の下に勅使河原くんを呼びだした。


 片想いが始まってから3ヶ月。

 授業中に黒板の内容をノートを書き写している彼をこっそりと眺めたり、体育の授業中の球技で頑張ってる姿を心の中で応援したり、昇降口を出ていく背中を眺めたり、放課後の誰もいない教室内で彼の机にキスをしたり。

 やはりそれだけじゃ満足できないから、ミスコンで優勝したら告白すると決めていた。


 彼は3分遅れで到着。

 私は二人きりでいるだけでも周りの景色がバラ色に見えるほど浮かれていた。その一方で、緊張によって体が震え始める。

 口から心臓が飛び出しそうになったのは生まれて初めて。そのうえ、家でたくさん練習してきた第一声が出てこない。


「大事な用事があるって言ってたけど、なに?」

「あーーー……、うん。あのね」

「うん」


 先に切り出したのは、彼。思わず心臓がドキンと弾む。

 私に告白してきた男子たちもこんな想いをしていたのかな。

 怖くて逃げ出したいと思う反面、恋人になりたいという気持ちがより強まっていく。勇気を出すか、出さないか。自分に勝つか、負けるか。どちらにしても、勅使河原くんは目の前にいるからもう引き返せない。

 私はギュッと拳を握りしめて、喉の奥から声を絞り出した。


「好き……です……」

「えっ……」

「勅使河原くんのことが好きなんです……。だから、私と付き合ってください」


 いまにも火が出そうな顔面をうつむかせる。

 1分前の自分よりは誇らしい。練習どおり、好きな人に気持ちを伝えられたのだから。あとは彼の返事を待つだけ。返事の先には幸せが待ってるかもしれないから。

 ところが、その期待も虚しく。


「ごめん……。柴谷さんとは付き合えない」


 予想を反した返答が届けられる。真っ白な頭のまま見上げると、そこにはポーカーフェイスな瞳が私を映し出していた。


「えっ……。ウソ……」

「ウソじゃないよ。付き合えないって言った」

「待って……。なにかの冗談でしょ。私、フラれたの?」

「うん。ごめん」

「そっ、そんなぁ…………」


 友達に期待値を上げられていたぶん、現実が受け入れがたい。てっきり恋人になれると信じていたから。

 次第に周りの景色が灰色に見えてきた。恋人になれないどころか、この瞬間から遠い存在になってしまうなんて。こんな結果が待ち受けてるなら告白なんてしなきゃよかった。ハッピーな片想いを続けていればよかったよ……。

 私が雪崩のような後悔に包まれていると、彼の思いもよらぬひとことが後押しする。


「もう戻っていい?」

「へ?」

「話は済んだでしょ? なら、もう行くね」


 ポカンと佇む私に背中を向けて歩き始める彼。まるで、私の告白が無意味だと言わんばかりに。

 失恋のショックに重みを増したが、私はすかさず後ろから彼の手を掴んだ。


「ままま、待ってっっ!!」

「まだなにか?」


 振り返った彼は興味がなさそうな目線を送る。それが身に沁みつつも、私は最後のチャンスに賭けた。


「あ、あのっ……。私と付き合えないんだったら……、フリ……ならどうかなって」

「……は?」

「だから、付き合ってるフリをして欲しいと言うか……」


 恥じらいを捨ててとんでもない提案を切り出すと、彼はプッと吹き出す。


「……それがミス城之内?」

「えっ」

「フラれたら諦めるのが普通じゃないの? さっきから脈がないって言ってるのにさ」


 一瞬で目の前に黒幕が降りた。優しい仮面をかぶっていた彼が別人のように毒を吐き出したのだから。


「ね、ねぇ……。勅使河原くんって、そんな酷い言いかたをするような性格だったっけ。この瞬間にいままでのイメージがぶっ壊れたんだけど」

「じゃあ言わせてもらうけど、いままでのイメージとは?」

「そ、それは……」

「そもそも俺は人に興味がない。柴谷さんがどんなイメージを持ってるかわからないけど、本当の俺は中身がこんなにひねくれてるの。だから、さっさと諦めてくれる?」


 はっきり言って彼は氷以上に冷たい。

 しかし、もう一つの新たな感情が顔を覗かせた瞬間、私の中のなにかが刺激された。そのなにかは、遊園地に行ったときのようなワクワク感を生みだしている。


「…………さ、いこう」

「えっ?」

「最高だよ!! 勅使河原くんって寡黙なイメージがあったけど、味があるならなおさらいい! もっと色んな面が知りたくなったよ」

「は?」

「優しいだけじゃないなんて、さすが勅使河原くん!! いま告白してよかったぁ〜!」

「~~〜~っ!!」


 彼のことを知らなすぎた。

 眺めていた頃は見たまんまのイメージを思い描いてたけど、告白してみたら私の顔に興味を示さないどころか自分でひねくれてるとか言っちゃうし。口を開くたびに意外性がポンポンと飛び出てきたから、もっといっぱい知りたくなっちゃったよ。

 彼は深いため息をついたあと、「とにかく興味ないから」と言って背中を向けた。


「まままま、待って!」

「……まだなにか?」

「友達に言っちゃったの! 私、勅使河原くんの恋人になるって」


 彼は耳をピクリとさせたあとに鬼の形相で振り返り、今日一番の声をあげた。


「はあぁぁぁぁああっ?!?! 一体どうしてそんなウソを……」

「えへへ。てっきり恋人になれるんじゃないかなぁと思ってたし、みんなも絶対にうまくいくって言ってたから」

「俺らはほとんどしゃべったことがないのに、どこにそんな自信が……」

「願ってたら叶うかなって」

「んなわけないだろ。もしそうなら人類の悩みがゼロになるわ」

「だよね……。でも、どうしよう。友達にウソつきなんて思われたくないし……」


 横目でチラチラ見ながら返事を催促する。彼はそれを悪意として受け取ったのか、ふてくされた口を叩く。

 

「自業自得だろ。友達に本当のことを言って謝れよ」

「それは嫌! ミス城之内の名に傷がつくし」

「そんな名は捨てろ。元はと言えば自分のせいだから責任とって間違いを正せよ」

「嫌だ嫌だぁ〜〜っっ!! 2年連続でミス城之内に選ばれたのは、歴代をさかのぼっても私しかいないし」

「はぁぁぁっ…………。なにそれ。柴谷さんってモテるイメージあったけど、中身は残念系なんだね……」


 ため息と同時に毒が吐かれた。彼は心を開いてから毒製造マシーンになってる気がする。

 

「残念系ってなによ……。友達には口を開かないほうがより美人だって言われてるけど」

「俺もそう思う。話は終わったからもう行くわ。じゃっ……」


 彼は呆れた声で再び背中を向けるが、私はすかさず肘を引く。


「待って! 勅使河原くんのためならなんでもします、誓います! だからお願いします。私と付き合ってるフリをしてください!!」

「あのさ、そんな無意味なことしてどーすんの? 付き合ってるフリなんかしても柴谷さんを好きにならないよ」

「いや、私のことを絶対好きにさせる。いっぱい努力して100%の力を出しきるからお願い!!」


 覚悟を決めたからには引きたくない。初めての恋を成就させるんだ。絶対に諦めたくない。勅使河原くんの恋人になりたいよ。


「……じゃあ、やってみろよ」


 意外な返答に「えっ」とまぬけな声が漏れる。


「1週間恋愛テストしてみるから、俺の気持ちを揺さぶってみてよ」

「えっ、恋愛テスト?」

「おまえが合格したら、お望み通り恋人でもフリでもするよ」

「そ、それって……、私次第で付き合える可能性があるってことだよね」

「そう。ただし、失格だったらもう二度と俺に関わるなよ。いいな!」


 ……ビックチャンスじゃない? テストに合格したら勅使河原くんと付き合えるってことだよね。ウソじゃないよね。夢じゃないよね。私にもう一度チャンスをくれたってことだよね。


「もしかして、失恋を一旦保留にしてくれるの?」

「そ。ただし、結果は1週間後に必ず出すから」」

「わかった。じゃあ、全力で頑張るから勅使河原くんの連絡先を教えて」


 私は制服のジャケットからスマホを出してLINEを起動させた。 


「どうして」

「1週間の時間をくれるなら1秒でも大切に使いたいし」

「仕方ない……。その代わり、失格になったら速攻消せよ」

「うーっ……、わかったよ」


 彼がスラックスのポケットからスマホを取り出したとき、私は3ヶ月前のことを思い出した。


「ねぇ、以前スマホを拾ったときから思っていたんだけど」

「なに?」

「待ち受け画面は猫だったけど、もしかして勅使河原くんの飼い猫だったりする?」


 彼は「これ?」と言って私に画面を向けた。そこには先日と同じく猫の画像が表示されている。


「そうそう。以前見たときにかわいい猫だなと思って」

「これはうちで飼ってる猫。元は迷い猫で拾ったときは虫の息だった」

「そんなぁ……」

「……でも、それと同時に俺は人を信じることを忘れたよ」


 最後にボソッと呟かれたひとことに気が止まり、思わず彼の顔を見る。


「えっ」

「……いや、なんでもない。早くQRコードを読み取って」

「あ……、うん。ごめん……」


 私は急いでQRコードを読み込ませて彼の連絡先を登録しながらも、先ほどの意味深発言が脳裏をよぎっていた。

 これが、長年彼の心を縛り続けているトラウマとも知らずに……。


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