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殺人のすすめ  作者: ふたりぼっち
学園編
40/43

始まりの時1

時系列は昭和後期となります。


時の政治家達の裏の話のようなものになっています。


↑『の』が多いですね……

 






 苦戦…いや、元々無謀だったのだ。


 大国であるアメリカ合衆国と戦端を開いてしまった日本。その戦争も終盤へと差し掛かり、遂に本土決戦をするところまで日本は追い詰められていた。


『我が大日本帝国軍に敗北はなしっ!』


 時の首相並び、軍事総司令官は檄を飛ばす。


 しかし、何事にも終わりはあるのだ。

 終わらせる形は様々ではあるが。


『戦争とは、あくまで外交手段の一つにしか過ぎない。国を荒らしてまで続ける道理無し!』


 時の(みかど)その人は、この戦争を終わらせることに決める。


 首相や総司令官を含めた軍部のトップは内心反対をする。

 何せ、責任を取らなくてはならない立場にいるのだから。


 それでも帝に対して面と向かって反論するほどの非常識人も、またいなかった。


 かくして、日本は戦争に敗れた。


 負けたからには犠牲を払わなくてはならない。

 それは無条件降伏までいかなくとも、日本の領土を別つ程度には重い犠牲だった。


 日本がアメリカに対して払った物は、北海道の一部と沖縄。

 それは、アメリカに日本が挟まれる形になるというもの。


 この条件を飲む代わりに、日本はこれまでと同じく自由な国家運営を手にすることが出来た。


『ここまですれば馬鹿なことは出来まい』『いざとなればすぐに日本を滅ぼすことが出来る』


 とは、アメリカの考え。


『責任を北海道と沖縄へ押し付ける形にはなったが、他は変わりない。必ずや憎きメリケンに…』


 とは、日本の考え。


 アメリカとすれば、軍の犠牲なく日本の領土を削ることが出来た。

 その領土も戦争により疲弊したものではなく、殆ど無傷と言える。

 大国から見た日本は小蠅同然だが、日本の領土は位置的にも魅力を感じていたので、これ幸いとこの降伏条件(提案)に飛びつくことになった。


 日本とすれば、敗戦の汚名は被ることになるが、天皇家を遺すことが出来、さらには誰一人責任を負わされない。

 この条件が通るほどアメリカが甘いとは考えていなかったので、首脳陣は大変驚いていた。


 勿論この条件を喜んでいたのは上層部だけで、戦時教育を受けていた国民は悲観に暮れていた。


 そして、誰も気付いていない。いや、気付く術などないのだ。


 核兵器による攻撃が歴史から消えていることを。


 日本の迅速な判断により、こうして史上初めてとなる戦争での核使用は歴史から抹消された。


 それ故に・・・・・






 この地球でも、アメリカとソ連が互いに核ミサイルを向け合う冷戦が始まった。

 日本は外交上の理由からアメリカ側に付くが、それは完全なる独立を果たすまでと、期限付きの味方でもあった。


 冷戦が始まると、これまでの戦争とは使用する武器が全く異なってくる。

 冷戦の主力武器は、情報。

 それを扱うのは機密組織。


 そう。軍人ではなく、スパイが台頭する時代が到来した。


 そしてこの時代に、一人の英雄が誕生する。








「エージェント『ワン』。この望みを叶えられるのは、君しかいない。

 日本国を…この国の未来を託したい…」









 日本が戦争に敗れてから25年。

 現在は1970年を迎えていた。

 五年前、敗戦の賠償として一時アメリカへと渡していた領土は返還され、日本は元の姿を取り戻していた。


 返還理由は勝手なもので、冷戦期となってからはアメリカも植民地を持て余すようになり、その影響から返還されることとなった。


 アメリカの監視が弛んだことにより、日本も返還後である五年前から独自の道を歩み始め、諜報員(スパイ)の養成に本腰を入れ始める。

 遂に日本もまた、戦争へと介入する時代がやってきたのだ。此度の戦争は冷戦なれど、それも戦争である。


 まず大前提として、冷戦に参加する為には必要となってくる物がある。

 それは、核ミサイル。

 核兵器が使用されなかったこの世界では、その威力こそ周知の事実ではあったものの、実際の被害は想像の域を出ない。

 日本国民も核保有を反対することもなく、真似をするという技術に於いて日本の右に出る国もなく、核ミサイルはすぐに開発され、また実装された。


 これで大前提は整う。

 次に目指すは、ちっぽけな島国を脱する為に始めたが終ぞ成し得なかった世界進出。

 後は諜報員の育成だけとなった。


 但し、冷戦に本腰を入れ始めて気づくこととなる。


『日本所属の諜報員が海外で失敗をすれば、それ即ち我々の責任問題になるのでは?』

 と。


 それに気付いた当時の高官達は、一つの方策へと舵を切った。


『諜報員を育てるのではなく、それらを纏める組織を創り上げる人材を育成してはどうか?』

 と。


 それにより、日本に独自の諜報組織が誕生するのだが、ノウハウが無いところからでは上手く機能しなかった。


『育つのを待ってはいられないぞ!?』


 冷戦は経済戦争も引き起こしており、諜報活動が機能不全を起こしている日本は、このまま行くと諸外国から取り残されてしまう。


 これまで格下と相手にしていなかった近隣国にすら追い越されてしまう。それは看過できなかった。


『一つ…良いだろうか?』


 国を動かしている政治の場で、一人の男が居並ぶ重鎮たちに遠慮しつつ手を挙げた。


『皆さんはご存知だろうか?国内には既に諜報組織が幾つか存在していることを』


 重鎮たちにとって、その言葉は寝耳に水であった。


『恥ずかしながら、私は一度失敗をしましてね。それを帳消しにする為に伝手を頼ったところ、一つの組織を紹介されたのですよ』


 一般人には(誰にも)知られることなく、日本には諜報組織が既に存在していた。


 現在喋っているのは外交を生業としている政治家。

 失敗とは、公的なもの。

 それを取り返す為に、その時件の諜報員へと依頼をしたのだ。


『どうやったのかはわかりせんがね。結果は先程話した通りでしたよ』


 無理難題を依頼したが、結果は成功。

 それを聞いた他の政治家達は前のめりで告げる。


『その組織を国の傘下にっ!』


 同じような言葉が並ぶも、言い寄られた件の政治家は毅然とした態度で突き放した。


『分からないのですか?彼等は勝手が分からない筈の他国で結果を出したのですよ?

 我々が強引な手段を取れば、その牙がこちらへ向くことになるのは明白だと』


 諜報員は明らかに日本人だった。

 それなのに欧米にて結果を出したのだ。


 日本にいる自分達など、簡単に丸裸にされてしまう。


 暗にそう伝える男に、先程まで詰め寄っていた政治家達の勢いは消えた。


 政治家とは、票を集めてなんぼである。

 それには保身に長けているという能力も必要不可欠。


 ここにいるのはそんな政治家達。


 すぐにその言葉の意味に気付くと、話題を変える。


 その話題とは、現在日本にある諜報組織について。


 上級国民(じぶんたち)ですら知り得なかったのだ。

 それは秘匿に長けていることの証左でもあった。


 伝えた男も恐ろしかったのだ。


 ここで伝えたことにより、何かしらの報復が待っているのではないかと。


 それも踏まえて伝えたところ、この場にいる者たちは満場一致で、この情報が漏洩しないように対策を講じるのであった。



 そして、時は過ぎ。

 日本の経済危機が訪れた。


 この危機の理由は明白。

 技術大国である日本が邪魔になったアメリカとソ連が協調し、経済的な破滅への道を用意したから。


 その道とは、為替操作。


 技術は売れる。そして、それが邪魔になるのは大抵が大国。

 自国の製品が日本製に置き換わることにより、金の流れが日本へと傾いていくことになるからだ。

 金のない小国ではそもそもそんな製品の輸入量は知れている。

 故に大国のみ、敵に回したのだ。


 ドルやルーブルが円へと置き換わっていく。

 それを指を咥えて眺めているほど、両国は甘くなかった。


 日本の勢いを止める手段は、先程伝えた通り為替操作。


 輸出入には必ず円と取引国通貨でのやり取りが発生する。


 円高になれば輸入が強くなり、円安になると輸出が強くなるのは多くの人が周知する事実。


 しかし、大国が目指すところはそんな生易しいものではなかった。

 事は全てを置き去りにする、大国ならではの手法だ。


『え…円が…世界中で売られていますっ!』


 異変に気付いたのは、東京為替市場の職員。


 そこから波紋は広がり、政治家達の耳にもすぐに届いた。


『急激な円安が起こっています』


 報告するのは為替市場のトップ。

 ここは総理官邸にある対策本部。

 居並ぶのは現在の日本を動かしている政治家と官僚達。


『アメリカとソ連が主導して、世界中で円を売る動きが出ています』


 二大国が引き起こした円安の動きは凄まじく、先程まで一ドルを百円程度で買えていたのに、今では百八十円も掛かってしまう。


 現在日本国内にも相応のドルはある。もちろんルーブルも。

 しかし、一番多く持っているのが自国通貨であるのは疑いようもない。


 個人は勿論のこと、企業…輸出入を生業としている商社ですら。


『殺しに来たか…』


 アメリカとソ連という二大国家。

 日本に輸出規制を掛けることは容易く、しかし安易にそれに甘えないが故の大国なのだ。

 出る杭は潰される。

 圧倒的な財源(ちから)で。


 円の価値は暴落し、遂に親日国からも輸出入が止まってしまった。


 日本は資源に乏しい国なのはご存知だろう。

 この世界の日本も例に漏れず、戦後爆増した人口の食料を賄う為に、他国から多くの食物を輸入していた。


 その輸入は勿論のこと慈善事業ではない。

 取引相手の国も日本に売ったところで一銭にもならないのであれば、その輸出を止める他ないのだ。


 円に価値がなくなるということは、想像以上に様々な被害が出る。


 まさに真綿で首を締めるかのように。


『冷戦に参加したのは時期早々だったのだ…』


 誰となしに呟かれた言葉。


 それは伝播していき、居並ぶ重鎮たちをしてもその空気は払拭されることがなかった。


『誰か…妙案は…』


 あるはずがない。

 あるのならば、この様な事態になどなっていないのだから。


 他の先進国に、情報戦で置いて行かれている。


 ここまでの動きは大国二つだけのものではない。


 他の先進国はアメリカやソ連の動きを掴み、それに乗じる動きを取ったからこそ、この急展開を生み出しているのだ。


 ここにいる政治家達も有象無象ではない。

 それくらいのことにはすぐに気付いていたのだ。


 だからこそ『これはどうしようもない』。

 そう悲観に暮れるのも、なまじ賢いからだろう。


『諜報機関に…』


 頼りませんか?

 そう言いかけ、年若い政治家の口は止まる。


 この国の正規な諜報機関は、世界からみると赤子同然。

 だからこそ、この様な事態になるまで自分達は知り得なかったのだ。

 それに頼ったとて。


『…頼むか』

『えっ…しかし…』


 年若い政治家の言葉を引き継ぎ、戦中から第一線で活躍していた老年の政治家が呟いた。

 その言葉に言い返そうとするも、分かっていながら他に術がないと考えたのかもしれないと気づく。


 しかし、その後紡がれた言葉は、その政治家の知るものではなかった。


『エージェント「ワン」に連絡を』

『エージェント…ワン?』


 この部屋の中で時の総理大臣よりも発言力のある先の政治家が命令を下した。

 その言葉の意味を理解できない年若い政治家。


 しかし、数名の重鎮たちは理解していたのだろう。


『やむを得ず』『うむ…』『素性の知れぬ者だが…致し方なし』

『な、何を?』


 言葉の意味を理解出来ない政治家達は混乱する。

 しかし、理解しているのは絶対的な権力を有する猛者達。

 反論などあり得ない。


 彼等は後に語る。

『この世の中には触れてはならない存在(モノ)がある』と。

まだこの閑話は続きます。

閑話表記にしようかと思いましたが、予定より長くなりそうなので外しました。


『終わりの始まり』の様な厨二チックなタイトルにしようとしていたのですが、やめて正解です。

恥ずかしくなって、書くのをやめてしまいそうですからね。

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