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殺人のすすめ  作者: ふたりぼっち
学園編
38/43

新米家政婦

途中から別視点に変わります。

 





「机は触るな」


 春休み最後の長期依頼へと出かける前。

 新しく雇った家政婦へ向けて禁止事項を伝える。


「はいはい。それは何回も聞いたわよ」

「掃除が終わったら帰れよ?」

「それも三回目よ?」


 この家政婦は雇われている自覚がない。

 エプロンに身を包んだ香織に見送られ、俺はアパートを出た。

















 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 テストも無事に終わり、後は二学年へと学年が上がることを待つばかり。

 そんな長期休暇に入ったのはいいのだけど、翔と遊ぶ約束が出来ていない。


 友達はみんなして『香織は翔くんに会うから忙しいよね?』なんて揶揄ってくる。

 勿論、会うどころか連絡手段すら持っていないことは秘密にしている。

 つい…『もちろんよ。もう少し休みが長ければ、遠出なんかも出来たけど、残念ね』なんて言ってしまった。


 翔が忙しいのは知っているけど、どうにかして会わないと。

 会いたいのは勿論なんだけど、こうなったら意地ね。


 この春に翔とどうこうなれるなんて淡い期待はしていない。

 でも、全く会えないのはイヤ。


 兎に角、いつもの方法しかなさそうね。


 私は決意を新たに、鞄へと大切に仕舞っていた合鍵を確認した。





「でも、用もなく行けば、絶対に構ってくれないのよね」


 あの男はその辺りイカれている。

 同性でも異性でも、理由なく会う時くらいあるはずなのに。

 それが全くない。


「この春休み、友達と遊ぶのをいくらか我慢すれば、お小遣いは残る…はず」


 バイト禁止の学園生活では、親が与えてくれるお小遣いが全て。

 学費も高いから、あまり無茶は言えないし。でも、友達ともカフェに行ったり、可愛いお洋服も欲しい。


「…スーパーに行けば、何かは買えるわよね?」


 春休みには、既に予定がいくつか入っている。

 遥香とカフェランチ、結衣とカラオケなどが。


 残されたお小遣いは少なく、しれている。

 でも、これが全て。


「…お母さんに野菜もらえないか聞いてみよっと」


 節約できるところは節約する。じゃないと…カップ麺になってしまうから。


 きっと食べてくれない。

 翔はああ見えて、健康オタクなんだから。









「もうっ…いつ帰ってくるのよ…」


 翔の夕食を準備して早三日。

 出費に出費を重ねている私のお小遣いは風前の灯。

 そんな時、待望の待ち人が帰ってきた。


「泥棒か?」


 私が待っていたのはきっとこの人じゃない。

 そう現実逃避しかけたけど、翔はいつもこんなだったわ。


「金銭で済ませたい」


 こっちが勝手に作ったのに、何故か負い目を感じた翔が提案をしてきた。

 その提案は、私にとって渡りに船。


 この時ばかりは翔のことが神様に見えちゃったかも。


「じゃあさっ!そのお金で晩御飯作りに来るね!」

「いや、いらん」

「だっておかしいでしょ?働いたわけでもないのに、お金だけ貰えないわよ」


 翔は借りを作ることを嫌う。恐らく…何故か…私にだけ。

 でも、私も譲れない。


 お金さえあれば夕食を準備するという(てい)で、ここへ来る口実が作れるから。


「わかった!じゃあ、私を雇って!勿論、大金は望んでないし、お小遣い程度でいいから!」

「雇うって、何が出来るんだ?というか、必要がないのだが…」


 グイグイ攻めると翔はたじろいだ。後少し。もう一押しよ。


「掃除洗濯料理は出来るわ!翔は今日みたいに家を空ける日が多いでしょ?さらに忙しいし。だから私が掃除をしたり洗濯したり、この家にいる日がわかれば食事の用意もするわっ!ねっ!お願い!」

「………聞いてみる」


 やったっ!

 多分親に聞いているのね。翔は携帯を取り出すと、メッセージを打ち込んでいる。


 ピロンッ


「…構わないそうだ。給料はいくら欲しい?」

「やったぁっ!給料…?いいよ。ご飯の支度が出来る程度で」

「駄目だ。技術と労力には対価が発生する。それを受け取らないということは、責任も生まれず、こちらとしても任せられない」


 給料なんて大層なモノは受け取れないわ……だって、料理も大したものは作れないし。

 それに、助けや支えになりたいけど、重荷にはなりたくないの。


 既に押しかけているから言えた義理はないけどね。


 話し合いの結果、食費プラス一食二千円貰えることになった。

 掃除と洗濯はサービスで、その代わり、いつ来ても良いという許可を得られた。

 いつも勝手に来てたけど、許可があるのとないのとでは大きく違う。


 これでみんなに胸を張って言える。

『春休みは一人暮らしの翔のお世話をしていたわ』ってね。


 私って、こんなに見栄っ張りだったかしら?

 翔のことになると、なんだか見栄を張りたくなるのよね……


 自分自身の新しい発見は、これまで理解出来なかった見栄というものだった。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
















「じゃーん!今日は唐揚げと、豆腐サラダと、お浸しと、かぼちゃスープと、オムライスだよ!」


 あの日以来、今日まで翔が家にいる日はなかった。

 毎日午前中には顔を出していたけど、そこは間抜けの殻。

 今日の昼前に来てみると、机の上には置き手紙があった。


『今日は家で夕食を摂る。作れるなら任せるが、無理ならこの手紙を残したままにしてくれ』


 速攻でゴミ箱にインしたのは言うまでもない。


「これは2人分か?」

「え?私も食べて良いの?一応翔の分だけのつもりよ?」

「…多すぎる。食べていってくれ」


 食卓というには小さなテーブル。

 そのテーブルの上には所狭しと夕食が並べてある。

 夕食は基本翔の分だけの約束だったけど、上手くいったようね。


 これで、もう少し一緒に居られるわ。


「今ダイエット中だけど、時間もあるし、別に構わないわ」

「そうか。後、炭水化物はここまで必要ないから、米は半分でいい」

「アンタ…私よりちゃんとダイエットするのやめてくれる?」


 翔は器用にオムライスを半分にすると、お皿に取り分けて渡してきた。


「ダイエットなどしていない。動く量とそれに必要な栄養。そこに成長期を当て嵌め、本日必要な量だけを摂取することにしている」

「うっ…今日は間食したから、私もやめようかな…」

「香織にダイエットは必要ではない」


 えっ?

 私のことを見てくれていたの?


 私が嬉しいような、でも少し恥ずかしいような気持ちを抱いていると、翔は言葉を続けた。


「女性は妊娠と出産を控えている。その為に必要な体力…ここでいう脂肪が、香織には少し足りていない。だから、必要ではないんだ」

「…アンタ、外でそんなことを絶対に言わないでよね?」


 完全な女性差別の発言。

 今時、ウチのお父さん世代でも言わないわよ。


「…それより。何で、私の体型を確信してるのよ?」


 私が気になったのはここ。

 今は冬だから、仮に…仮によ?仮に私が太っていても、厚着のお陰で体型は隠せる。というか、隠せているはず。

 この部屋は寒いから薄着にはならないし。


「バレているから言うが、屋上から理事長室へ運んだ時に把握した。身長は見た目から165cm。あの時は制服だったから、服の重さも分かる。

 つまり、持った重さから服の重さを引けば香織の体重が分かり、身長と体重の相互関係から肥満度を弾き出すことが出来るんだ。

 だから、知っている。香織には必要ないと」


 うん。殺そう。殺すしかないわ。

 乙女の最大の秘密を覗いたのだから。


「何をしている?」

「鈍器の代わりになるものを探しているのよ」

「何に使うんだ?」

「アンタを殴って、その時の記憶を消去するためよ」


 私が立ち上がり家の物色を始めると、翔が聞いてきた。

 記憶を司る機能って、後頭部?それとも側頭部?


「馬鹿なことはやめろ。さっさと食べるんだ」

乙女の秘密(私の体重)を言いふらすんじゃないわよ?」

「俺が誰に、どこで言うんだ?」

「…なんか、ごめん…」


 翔は浮いている。本当に飛んでいるんじゃないかと思うくらい、クラスで浮いている。

 そんな翔に話しかけるのは、私を除いて極小数。


 この一年である程度は打ち解けたと思うけど、それでも態々話しかける相手は少ない。

 翔の方から用もなく話しかけるところは見たこともないし。


 普通であれば居心地の悪い空気が流れるけど、翔に限ってそんなことはなく、私が座ると普通に食事を始めた。


「これはニンニク…それと醤油…豆板醤・・・」

「アンタの舌はどうなってんのよ?何で唐揚げの味付けがわかるの!?実は料理出来るんでしょ!?私の拙い手料理を陰で笑っているんだわっ!そうねっ!?」

「煩い。料理は作ったことはない。だから、出来るか出来ないかすら不明だ。

 これは…魚介の出汁と醤油…それから…」


 次はお浸しのレシピが暴かれた。

 煩いのはどっちよ……私のHPはもうゼロよ……

 死体蹴りはやめて……

香織視点はシリアスさがありませんね。

偶には…ということで。

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