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殺人のすすめ  作者: ふたりぼっち
学園編
37/43

七人の死刑囚

 






 少年Fを車へと積んだ後、次の目的地を目指した。

 それを繰り返すと四人の少年が集まり、車が一杯になったところで一旦見張りの元へと向かうことに。

 ここまでは予定通り。


 そして、山の中にある小さな倉庫へと辿り着いた。


「ここだ」


 どうやら間違いではないようだ。

 見るからに倉庫は小さく、大風が吹けば飛んでいってしまいそうではあるが。


 俺達が車から降りると、中から人が出てきた。

 その数は三人。

 倉庫の大きさは二メートル四方程度。大の大人が三人も入れば、立っていても息苦しさを感じる狭さだ。


「運びましょう」

「助かる。一人一人は大したことないが、数が多いからな」


 三人の内一人がNo.4へと話しかけた。

 どうやら運んでくれるらしい。

 車の後部扉を開くと、中には縛られて眠っている少年が四人見える。


「任せる」


 そう言葉を残し、俺は車から離れた。


 どうするのかと見ていたら、一人が一人ずつ担いで倉庫へと普通に向かっていく。


 すると……


「任せた」

「ああ」


 No.4が厭らしい笑みを浮かべながら、最後の一人を運べと伝えてきた。

 それに普通に応えると、小さな舌打ちと共に『やっぱ、つまんねーな』という呟きが聞こえた。


 俺はお前を楽しませる要員ではない。


 少年を担ぐと、そのまま倉庫へと向かう。

 中に入ると、そこには地下へと続く階段があった。


 恐らく普段は鉄板などで蓋をして隠しているのだろう。


 階段を降りると下は広々としており、俺は肩の荷をその場へと降ろすと、三人に任せる旨の確認をしてから戻ることに。


 標的は後三人。ここまで掛かった時間は二時間ほど。

 夜中ということもあり、少年達の不在に気付かれるまではまだ少し余裕があった。


 時間的余裕はあるが、任務的な余裕は感じていない。

 しかし、別段焦ってもいない。つまり、普段通りということ。


 心体の確認をして、No.4の待つ車へと向かっていく。




















 夜明け前。

 遂に全員の確保に成功する。

 任務の失敗は許されるものではないが、もう少し梃子摺るだろうとは予想していた。いい意味で予想が裏切られた形だ。


「にしても、みんな真面目で助かったな」

「ああ。全員が家にいたのは僥倖だった」


 少女を強姦し、死に追いやったのだ。

 何人かは素行に問題を抱えてはいたものの、今日に限っては家できちんと休んでくれていた。


 情報から、深夜徘徊するルートも確認していたが、探す必要がないというのは実際に助かっている。

 イレギュラーは常に想定し、又覚悟しなくてはならないが、ないに越したことはない。


「じゃあ、いくぜ」

「了解」


 No.4が車を走らせる。

 目的地はすぐそこだ。













「準備できました」


 見張り要員の一人が告げる。

 少年達を捕獲したが、そこで終わりの筈はなく、最後の仕上げへと入る。


 時刻は四時。

 冬の朝は遅いが、それでも後三時間程度で陽は昇る。


 言葉と共に三人は階段を登り消えていった。


 残されたのは椅子に縛られた少年達七人と、エージェントの俺たちのみ。


「じゃあ、クランクインといきますか」

「起こす順番は?」

「主犯格のAを最期にしたいが、何もしなくてもどうせ起きるだろ。これからここは地獄絵図となるんだからな」


 阿鼻叫喚。

 まさにそうならなければいけない。

 それが依頼主の目的なのだから。


 No.4はカメラの録画を始め、道具箱から注射器を取り出して、一人の少年へと近づいていく。


 これから始まるのは拷問。

 吐かせるのは懺悔の言葉と、被害者への謝罪の言葉。

 恐らく梃子摺るだろうが、俺達に残された時間はたっぷりとある。

 俺は春休みに入り、次の依頼まで時間が取れる。

 No.4はわからないが、少なくとも俺よりは時間的余裕があると思われる。


 注射をされた少年は覚醒し、自身の状態に驚き、そして俺達を見て震え、周りを確認して叫び始めた。


「お前達!起きろっ!ヤバいぞっ!」


 俺達は素顔を見られるが関係ない。

 彼等がここから生きて出られる可能性はゼロなのだから。












『ぎゃーーっ!?言います!言いますからぁっ!?』


 少年は全ての爪を剥がされ、そこへ一つずつ丁寧に焼き鏝を当てられている。


 常人であれば目を背けたくなるような映像だが、稼業柄見慣れているので問題はない。

 しかし、ここにはそれを見慣れていない人物が二人もいる。

 どうだろう?


「ははっ!やったわっ!美優!」

「おおっ…済まない…済まない…」


 母親は娘の名を叫び、興奮冷めやらずの状態。

 父親は娘の写真へと向けて、終始謝っている。


 二人の心境は誰にも計れないが、どうやら満足はしていただけた様子。


 ビデオはまだまだ続く。


 全裸で椅子に縛られている少年達で無傷の者は一人しか残っていない。

 その一人を残し、他の全員は痛みのあまりショック死した。


『た、たすけ…助けて…』

『美優という名の少女は、お前達に助けを求めなかったのか?』


 まだ何もされていない。

 しかし、されている光景は死ぬほど見させられている。


 少年Aはとうに失禁し、恐怖のあまり何度も気を失っては覚醒させられていた。


 精神状態は既に普通ではないだろう。


 この問いかけにも、自己保身の言葉しか出すことが出来なくなっていた。


 椅子に並ぶ死体は六つ。

 その全ての陰部は切断されているが、どこにも見当たらない。

 全て本人達が食べさせられていたからだ。


 自身にされることも容易に想像出来る。

 俺はこの後、爪を全て剥がされ、焼かれ、指を落とされ、食べさせられ、最期にアソコを切り落とされて、また食べさせられるのだ。と。


 しかし、そうはならなかった。


 ここから先はさらに悍ましい光景が繰り広げられていく。

 元友人たちだったものを死姦、食人。この辺りでさえ、その光景からすれば生優しく感じられた。


 その光景を、父親は嘔吐しながらも(まなこ)へと焼き付け、母親は終始狂喜乱舞していた。


 俺達は必要悪であり、悪ではない。

 この光景は悪夢そのものだが。
















「何処行ってたのよっ!?」


 日本中を飛び回り依頼を熟して数日。

 久しぶりに家へ帰ると、無人の筈の我が家に何故か人がいた。


「泥棒?」

「違うわよっ!」


 いや、不法侵入者が偉そうに。


「返せ」

「な、何を?」

「鍵」


 俺が倒れた日、次に何かあると危ないからという理由で、スペアキーを一つ取られていた。

 見られて拙いものは見つからない場所に隠している。その油断が現状を生み出してしまっていた。


「な、なんでよ?」

「安否確認以外に使ったら取り上げる約束だっただろう?今がその時だ」

「これも安否確認よ!五日も留守にして!何かあったんじゃないかって、心配したんだからねっ!」


 たった五日だろ…?休み明けに学園に出てこないとかでもあるまいし。

 まぁ、高校生が五日も家を空けることが少ないのも事実だが。


「今回限りだ。次からは留守が長くても、不在票でもポストに入れておくんだな」

「不在票って…私はウーバーじゃないのよ?」

「確かに全く便利ではないな」


 便利どころか不便でしかない。

 三船は役に立ちそうだが、香織に何かを頼む未来は視えない。


「ちょっとっ!!私も役に立つんだからねっ!」

「…何処が?というか、帰れ」

「帰らないわよ?これから夕飯を作るんだから!」


 不便だ……









「どう?美味しい?」


 何が嬉しいのか、俺が食べるところを見てばかりいて、香織はちっとも箸を進めていない。


「ああ」

「やった!…良かったわ。今日こそ食材がお母さんに取られなくて」

「ん?まさか、いない日も買い物をしてから待っていたのか?」


 そんな馬鹿な?

 いや、馬鹿なのだが。


「…そうよ。仕方ないじゃない!連絡先も知らなくて待つしか出来ないし、用意していなかったらいらないっていわれちゃうもの!」

「確かに。よく理解しているな」


 今も、食材が無駄になるからと、半ば強引に夕飯を食べさせられていた。

 もし、買い物すらまだなのであれば、いくらでも取り返しがつくから、そこで断れたものを……


 馬鹿ではなかったか。

 理由がわからないから、結局は馬鹿としか思えないが。


 その労力を勉強に使えば、テスト前に焦らなくても済むのではないだろうか。


 しかし、香織の料理は美味い。

 最近はこれに慣れつつあり、薄味のいつもの食事が少し物足りなく感じてしまっていた。


 勿論、我慢という程のものではないが、やはり環境の変化は人を良くも悪くも変えてしまうものだと再認識させられている。


「あ。砂糖とお塩と醤油と料理酒と味醂は置いたままにしておくわね。

 というか、せめて砂糖と塩くらいは置いておきなさいよ。

 普段何食べてるのか怖くなるわ」

「俺が使うことはないから、邪魔にならない所に置くのであれば構わん。

 普段は配達の食事があるって言っただろ?だから調味料とは無縁なんだよ」


 はあ。話疲れた。

 飯はいいが、早く帰ってはくれないだろうか?


「そ。でも、食材が無駄にならなくて良かったわ」

「昨日まではどうしていたんだ?」


 流石に勝手に上がり込んで、勝手に飯を作って、勝手に食って、勝手に片付けたとは言わんよな?

 馬鹿を通り越して、俺でも不気味に感じるぞ?


「お母さんに渡したわ。恐らく昨日渡した材料が、今日のウチの晩御飯になっていると思うわ」

「そうか。無駄になっていないのなら良い」

「無駄よっ!私のお小遣いが…無駄になったわ…」


 それは知らん。

 だが、そうまでして、俺に晩御飯を作る理由がわからん。

 理由は全くもって気にならないが、後が少々怖い。


 無理矢理押しかけて料理を作り、それを盾に無理難題を言わなければいいが……


 そもそも断っても、それを理由に無理難題を言われる為、断ることすら出来ない。


 そう。初めから詰んでいるのだ。


「料理は美味かった。だが、貸し借りは無しにしたい。俺が返すものは金銭のみ。いくらだ?」


 お金は駄目と言われても、もう遊びに付き合う気はない。

 これ以上許せば、際限なく要求されるからな。


「お金!?いいのっ!?」

「…ちょっと待て。元々の狙いはなんだ?」


 様子がおかしい。

 これまでだと、理解不能な要求をされてきた。

 今回も同じだろうと思えば、欲しいのは金銭。


 金が欲しいのはわかる。


 だが、今回に限り、それだとおかしい。


 ここまでは、返ってくるかわからない出費を重ねたはずだ。

 それは投資とは呼べず、ドブに金を捨てる行為に等しい。


 それなのに、求めたのは金。


 益々、コイツのことが理解できなくなった。

 そんな夜は、まだ終わらない。

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