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殺人のすすめ  作者: ふたりぼっち
学園編
24/43

閑話 自我の目覚め

 





「翔。読んだ?」


 翌朝。冬の晴れ模様、そんな清々しい朝ではあるが、香織は緊張の面持ちである。


「香織からの手紙は二枚とも読んだ」


 今日は暖かいねー。など、様々な朝の挨拶が聞こえる教室。

 その中でも静寂というものは稀に存在する。

 全ての会話の合間が、止まる瞬間が被った故に。


 翔の言葉はそんな合間に発せられ、クラス中の視線が集まる結果に。


「ば、バカっ!声が大きいわよ!?」


 その結果に焦ったのは香織だ。

 よもや時代錯誤のラブレターに捉えられてしまうからだ。


「香織っ!遂に!?」「やったね!香織っ!」


 女子達から祝福の言葉を投げかけられるも、告白どころか弁明の手紙だったのだ。

 香織は違う違うと手をバタバタとさせて騒ぎの鎮静化を図った。


 もう一人の当事者は、いつもと変わらず黒板の一点を見つめていた。




 そんな騒がしい朝を終えて、短い昼休憩の時間がやってきた。

 香織は朝の出来事から食事が喉を通らない為、持ってきた弁当の包みを眺めることでその時間を過ごし、翔は変わらず弁当を食べ終わった。


「翔。ちょっと良い?」


 その誘いに、翔よりも早く周りのクラスメイト達が声を上げる。

『マジかよ…』『良いなぁ』『俺も彼女欲しい…』『香織…』


 一人異色な声が混ざるも、大体は羨むものであった。


「内容による」


 この言葉には男子生徒達の嫉妬が向けられた。

『翔のくせに調子に乗りやがって!』『女に刺されちまえ!』『香織…』


 やはり異色な声が混じる。


「内容はちょっと…ここは騒がしいから、屋上で話さない?」

「少しなら」


 翔の昼休憩は暇なものだが、何もしない時間も必要なのである。

 そんな大切な時間を無駄に消費したくはないが、付き合いの悪さが人間関係に良くないことは翔も知ってはいた。


 知ってはいるが、実践するかどうかは別の話。


 今回は深めた親交を壊さない為の行動に過ぎない。それも譲歩して『少しなら』といった具合に。


 兎にも角にも、騒がしいクラスメイト達を置き、翔と香織は連れ立ってあの時の屋上へと向かう。









「あの時は夜だったから寒かったけど、今日は晴れてるから暖かいわね?」


 平静を装うが、内心はビクビクしている。

 今も高鳴る心臓の音が翔に聞かれていないか不安で仕方がない。


 普通であれば聞こえるはずはないが、翔は香織の心拍数の増加に気付いていた。

 無論、音ではなく胸部の動きから。


「あの夜は二度。今は十度。当たり前に違う」


 翔はその凄まじい記憶力を発揮して答えるも、香織の敷いた罠へと掛かる。


「やっぱり…あの日、この場所にいたのね!」


 元々確信していた。

 寧ろ幻覚や夢だったのならどれ程良かったかと、今でも思っている。

 香織はあの後軽いPTSDを発症しており、黒い服を着た大人の男性を怖がるようになっていたのだ。


 それでも香織は前を向いた。

 過去と事実は変えられない。それなら前に進もう、と。


 その前へと進む一歩が、(たにん)からの事件の確認と、翔自身への自分の気持ちを確認することなのだ。


 後者については確定済み。

 窮地を救ってくれた白馬の王子様に恋をするなんて、私もミーハーなところがあったのね。とは、香織の独白。


 後は自分の妄想という疑いを否定すること。


「・・・・」

「沈黙は、肯定と同じよ?」


 実は本調子ではない。

 あの日。香織の訪問時に倒れてから、翔の中で何かが消え、それが原因となり記憶が曖昧なのだ。


 なので、こんな子供騙しであってもあの時の話であれば引っ掛かってしまう。


「翔。隠し事があるんでしょ?」

「・・・・」


 沈黙が拙いことはわかっているが、頭が働かない。


「別に詮索する気はないわ。私にも隠しておきたい秘密はあるもの。ううん。多かれ少なかれ、生きていればみんな有るわ。それは普通のことよ」

「・・・・」


 香織の言うことも高校生の言うことではないが、そんなことすら気にする余裕がなかった。


(何故、墓穴を掘った?)


 本来のパフォーマンスからはかけ離れた自分自身に不信感を抱いていた。


「事件のことは黙っていてあげる」


 甘い(ことば)

 翔は知っている。

 それには猛毒が仕込まれていることを。


「だから・・・」


 ゴクンッ


 翔が息を呑む。

 こんな事で動揺する082ではないはずだ。

 そう言い聞かすも、その動揺は一般人(かおり)にすら伝わってしまう。


(何を要求されるのか。殺す?脅す?)


 遂に香織殺害まで視野に入る。


「手紙の二枚目を承諾しなさいよっ!」

「…は?」


 自分自身情けないと思う。

 それくらい情けない言葉が出た。


「だ・か・らぁっ!く、クリス、クリスマスに遊ぶって話よっ!」

「あ、ああ…」


 確かその日に仕事の予定は入っていなかったはず。

 軽はずみに受けてしまったが、所長(ボス)も許してくれるだろう。


「ホントっ!?約束だからねっ!じゃ!」


 これまでの鬼気迫る表情から一変。香織は弾ける笑顔を見せて足早にそう告げると、俺の前から元気よく立ち去っていった。


「なんだ?」


 様々な疑問を乗せた言葉。

 それは冷たい風が運んでいってしまった。

重要な話(一つの転換期)ですが、閑話としました。

特に意味はなく、短めに伝えたかったのと、閑話表記にしておけば後からすぐに見直せるからです。


ええ。私は翔のように記憶力に長けていませんから……


これより一人称視点で物語をお送り致します。

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