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殺人のすすめ  作者: ふたりぼっち
学園編
12/43

祭りの片付け、それは恋の気付き

 





『ありがとうございます!妻は逮捕されましたが、あの男は死にました!それも、忌々しい薬の過剰摂取によって!

 これは少ないですが、ほんの気持ちです!

 えっ?契約通りの金額しか受け取らない?

 いえ、私と娘は大丈夫です。これから新たな気持ちで、娘の為に貯蓄しますから!

 ですから、お気になさらずお納めください。

 えっ?無理?

 …わかりました。では、感謝の気持ち以外、すっかりと忘れてみせます』


 依頼時には年寄りに見えた。

 その男性の顔は従来の年齢通りの輝きを取り戻し、溌剌とした笑顔を振り撒きながら請負人の前から立ち去っていく。


 組織が依頼後に依頼者へと願うもの。それは二つ。

 一つは、契約通りの金を用意すること。

 一つは、以来達成後は全て忘れること。


 これが依頼者との、たった二つの決め事であった。














「いけぇっ!!」


 体育祭も終盤。

 盛り上がりは最高潮を更新し続け、秋の涼しさが漂う校庭は熱気に包まれていた。


 現在行われている種目は学年別クラス対抗リレー。

 ここでの優勝チームが、学年関係なしの代表戦へと駒を進める。


「後少しよっ!」


 香織の激励に、第四走者は最後の力を振り絞った。


「まか、せたぞっ!」


 第四走者の激励を背中で受け止めたアンカーは、ぶっちぎりのトップでバトンを繋いだ。


「翔!転けたら許さないんだからっ!」


 転けたらどうなるのか?

 まさか、毎日嫌がらせの如く家にくるのか?


 翔がそう思ったかは分からないが、気合いが入ったのは間違いないだろう。


 そんな気合いの入った翔はランニング感覚で流し、二着とギリギリの差でゴールするのであった。






「危ないわねっ!何考えてんのよ!?」


 無論、香織は激おこである。

 一生懸命走った結果であれば、例え転んだとしても怒らなかっただろう。


 しかし、翔は明らかに手を抜いていた。


「約束は守った」

「………」


 これを言われては、恥ずかしさから香織も黙るしかなかった。

 逆にクラスメイト達は大盛り上がり。


「ひゅーっ!熱いねぇっ!あれ?まだ夏だったかな?」

「ばかっ!あれは翔の片想いなんだから、熱くはないんだよ!」

「やめなさいよ、男子達!香織が困ってるでしょ!」


 香織は気付いていた。


(やめろっていっている割に、顔がニヤけてるわよ…)


 勿論、嫌がらせではない。

 こういうコミュニケーションなのだ。


「翔。次勝ったら、考えてあげる」

「勝つのが役割だ。問題ない」

「ば、ばかっ!自分でハードル上げないでよっ!」


 何を考えてくれるのか。

 それについてはスルーすることに決めたようだ。

 クラスメイト達も、香織も、翔にとっては理解の外の者達。

 そう割り切ることで考えることをやめたのだった。


 そんな中、盛り上がるクラスメイトを他所に、香織は一人後悔をしていた。


(なんか…ちょっと、今日の翔…カッコいい?まさか…?)


 こんな風に自分の気持ちを揺り動かされるとは夢にも思っていなかった。

 香織は自分自身のことがよくわからなくなり、そうなるくらいなら翔に話しかけなければ良かったと、一人悶々とするのであった。










「それでは、体育祭最終種目。学年対抗リレーを開始します」


 うおおおっ!

 盛り上げ役の男子とは、クラスに1人くらいはいるものだ。それが全校では少なくとも十二人以上。

 所々で雄叫びや歓声があがり、校庭のボルテージも最高潮となった。


 高学年は負けられない。

 低学年は挑むだけ。

 賞品には、その価値がある。


 各学年の代表は三チーム。

 1-A 2-C 3-Bだ。


 全校生徒の視線を欲しいままに、第一走者はその時を待つ。


 パァンッ


 乾いた音と共にスタートを切る選手と、声援を浴びせる生徒達。

 三年の応援は『負けるなよ』が多く、二年の応援は『勝てるぞ』が多く、一年の応援は『疎』だった。


 それはそうだろう。

 他クラスとは未だ部活動以外での交流はなく、入学して半年と少し。

 まだまだ知らない同級生もいる中で、他クラスの生徒が応援に回ることは少ない。


 そう。他クラスは。


「翔に華を持たせてやれー!」「絶対に一位で繋げよ!」「翔を笑い者にするために頑張れー」


 他の学年とは趣の違う応援が飛び交っていた。

 その言葉に香織は顔を赤くしながらも一生懸命に声援を飛ばし、翔は自分の番を静かに待っていた。


「翔?何の応援だ?」「今年の一年は変わってるな」「翔って…あの主席の男子だよね?」


 二、三年は、その応援に怪訝な顔をし、他クラスの一年生は翔という人物を思い出そうとしていた。


 勿論、翔のことを覚えている生徒はいなかった。



 リレーは思いの外デットヒートを繰り広げており、第四走者にバトンが渡るまで、一位と三位の差は三メートル程であった。

 一位はまさかの1-A。二位に3-Bと続く。


 リレーの定石として、アンカーにメンバー最速を置く。

 それはどのチームも同じようで、この段階でまさか一年に負けているとは思いもよらない出来事として捉えられていた。


「くっ!」(抜かせないっ)


 校庭の一周は300m。

 砂地ではなくトラックである。トラックの内側は普段サッカーコートなどに使われており、短めの芝生がきちんと整備されていた。


 本来であれば1-Aのアンカーだった秀平は、インコースへと喰らい付き、抜かせないように走る。


(直線では先輩に勝てない)


 三年の四番手も同じくサッカー部の生徒。

 その実力は重々理解している。


 しかし、後ろを走る三年はそう思っていなかった。


(コイツッ!こんなに速かったのかよ!くそっ!仕方ない…)


 上級生は下級生のことをそこまで意識しないし、相手にもしていない。特に三年と一年では。

 故に、秀平の実力を見誤り、間違った行動を起こしてしまう。


 第四走者、最終コーナー。

 そこでアクシデントが起こる。


「きゃーっ!?」「転んだっ!?」「大丈夫かっ!?」


 1周ずつのこの競技。アンカーが視界へ入る直前、三年生は秀平の踵を踏みつけた。


 コーナーから直線に入る場面。

 スピードを殺さないように立ち上がっていく所で踵を踏まれた秀平は、ツンのめるようにアウトコースへと転んでいく。


「立ち上がったぞ!」「無事か!?」


 転んだ時にぶつけたのか、秀平は額から血が流れることを気にすることもなく、翔に向かって走り始めた。


 三年と二年に遅れること六秒。

 絶望的な差はついてしまったが、秀平は走り切ったのだ。


「悪い!任せた」

「任された」


 バトンを受け取りつつ、背中へ向けて言葉を交わした。


 全校生徒の視線は、三年と二年の争いに釘付け。

 翔を見ている人は誰もいない。クラスメイトでさえも。


 理由はお察しの通り、その場へしゃがみ込んだ秀平の元へとクラスメイト達は駆け寄っていたからだ。


「大丈夫、大丈夫。少しヒリヒリするだけで、何ともないから」

「医療テントへ」

「はい」


 秀平は心配するクラスメイト達へ転んだことを謝りながらも答えていた。

 そこに駆けつけた担任の言葉へと、素直に従うのであった。


「翔……えっ!?」


 誰も見ていなかった。

 故に気付かなかった。


 圧倒的な差で殿(しんがり)から追走しているものだと顔を向ければ、そこに映るのはよもや二位になろうとしている姿だった。


 クラスメイト達は香織の驚いた声に視線を向け、更に香織の視線の先を追った。


「マジかよ…」「うそ…」「勝てるのか?」


 声に出てくるのは驚愕。

 一体何が起きたのか?


 最後のコーナーへと突入するその場面では、二番手だった二年生を抜かし、三年生へと迫る翔の姿。


 そして、最後の直線へと入る。


「すげえっ!一年が迫ってきたぞ!」「抜かせるなっ!」「頑張れーっ!」


 翔は最後の直線で先頭に並ぶと、身体半分の差で先にゴールテープを切ったのだった。


「ウ、ソ…でしょ…?」


 香織は現実を受け止めきれない。


「ど、どうしよう…勝ったら考えておくって…わたし…」


 優勝したことではなく、競技前に翔と交わした約束で頭が一杯のようだ。


「やった…やったぞ!」


 1-Aの誰か。

 余りにも塊っているので、誰が出した声かは不明。

 その不明な声を切欠として、トラックの側にいた1-Aの感情が爆発した。


「やったぁー!」「しょーうっ!俺は信じていたぞ!」「焼肉ぅっ!!」


 様々な想いを爆発させ、翔へと向かって駆け寄るクラスメイト達。

 その場に取り残されたのは三名。


 二名は、怪我をした秀平と付き添いの担任。

 そして、どうすればいいのか。いや、それ以上にどんな顔をして会えばいいのかわからない香織だけが取り残されていた。


 クラスメイト達に取り囲まれた翔は、初めは警戒態勢を取ろうとした。

 しかし、流石にクラスメイトの中に敵対組織の者などはいないと思い直し、されるがままとなる。


「ミッション失敗」

「は?大成功じゃねーか!優勝だぞ!?やったな!」


 翔の呟きを取り囲んでいる誰かが拾うも、その言葉はすぐにクラスメイト達の熱気に掻き消されたのだった。


 こうして、体育祭の幕は閉じた。







 翔の失敗とは、一つしか考えられない。

 それは、能力を見せてしまったこと。


 勿論、考えなしに力を発揮したとは思えない。

 バトンを受け取った時の状況を踏まえ、あの時誰の視線も感じなかったのも間違いのない事実なのだろう。


 だが、それでも学園内で禁止されていた人外の力。


 それを翔が使ったのは、香織との約束があったからなのか、はたまた、額から血を流しても走り抜けたクラスメイトに触発されたのか。


 それは無意識なもの。故に、本人にもわからないことである。


 幸か不幸か、翔の人外の力に気付いた者はいない。

 故に失敗とまでは言えなかったが、元々知っている才原所長はしっかりと見ていたのだった。











 そんな裏で。


「秀平くん。大丈夫?」


 体育祭は終わり、テントから保健室へと移動した秀平をクラスメイトである出席番号四番の三咲 (かなで)が見舞っていた。


「奏か。大丈夫。怪我した場所が場所だから、一応この後検査にいかなきゃならないけどな」

「一応って…しっかり診てもらって!私っ…心配したんだからっ!」

「わ、悪い。ちゃんと診てもらうよ。親父達には奏から伝えておいてくれ」


 うん。

 小さな身体に不釣り合いな大きな瞳。その瞳に涙を溜めて、声にならない声と共に頷く。


 クラスメイトなのだが、この二人は幼馴染でもある。

 少しヤンチャな秀平とは中学以降少しずつ溝が出来ていたが、今回の事故を見て、自分にとっての大切な人なのだと、奏は認識した。

 それが恋なのか、はたまた親愛なのか。


 恐らく、恋なんだろうなぁ。と、奏はこの気付きを大切に胸へと秘めるのであった。

タイトルはクラスメイトのことでした。

これが翔のことであれば、ネタバレが過ぎるというものですからね。

一応、誤魔化しておきます。

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