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殺人のすすめ  作者: ふたりぼっち
学園編
1/43

その者、掃除屋につき

 





養父(ちち)は真面目な人でした。同業者が違反とは呼べない程度のズルをしていても、養父は決してその様な真似をしませんでした。

 真面目で誰にでも優しく、しかし自分自身には人一倍厳しかった父を……

 あの男は陥れ、自死するまで追い詰めたのですっ!』


 依頼者の慟哭が響き渡る。

 それを聞いていたある組織の請負人は、その依頼を受けることに決めた。


 決め手は一つ。

『悪』には『必要悪』を。















「では。次回の入札の件、確と宜しくお願い致します」

「〓〓〓〓、〓〓〓。〓〓〓?」

「ははっ。これは失礼致しました。先生にとって談合など朝飯前でしたね」


 密談。

 ビルの一室。ここからは窺えない誰かと中年の男性が話しをしている姿が、ガラス越しに見える。


 ここはそんなビルの向かいにある、そのビルよりも少し背の低いビルの屋上。


 それでもその者が会話の内容までも知り得ることが出来たのは、その者が読唇術に長けているからに他はない。


「ターゲットを確認。逃走ルートを確保。目撃者及びカメラ等無し」


 その者の目標は『先生』と呼ばれている政治家。

 その政治家がこのビルに事務所を構えているのは周知の事実。

 そこで先生と呼ばれるのはその政治家のみ。


 ここまでの予備知識なしでは、その政治家を認識することが出来ない。


 つまり。この者が居る屋上からでは、政治家を直接見ることが出来ないということでもある。


 どうやらこの政治家は、方々から恨みを買っていることを理解しており、窓際に立たない程度の安全対策はしているのだろう。

 及び、入室者の身体検査くらいは。


 そしてその者は、その政治家と話す男をガラス越しで見ているに過ぎないのだ。


 それでも……


 パァァンッ


 乾いた音が、何もない上空とビルの谷間へ響き渡る。

 ビルの下は多くの人達が行き交って賑わせており、その喧騒で発砲音は掻き消されていた。


「掃除完了。これより、離脱プランAへと移行する」


 その者は無線機の類を所持していない。

 では、誰と話しているのか?


 答えは、誰とも。


 独り言により全ての動作を確認するよう、その者が造られている為である。

 その為、間違いも起こさないが、知る人であればその者が取る次の行動もわかるはず。


 その者を造り上げた何かは、随分と保身的であることが見て取れるというもの。












 数日後。

 個室の料亭にその者の姿はあった。

 その者に高級料亭は似つかわしくないものの、仕事を選ぶことはない。

 いや、選べない様に造られているという方が、間違いがないだろう。


「ありがとうございました」

「確認した」


 料亭の個室。

 誰にも見られることのない密室でその者が会っていたのは、まさに先日の政治家と話をしていた中年男性その人であった。


 男性が感謝の言葉と共に渡した物は、依頼完遂のサインを認めた書類。

 普段その者が依頼者と会うことはない。


 しかし、依頼者たっての希望ということと、自分に代わり政治家へと天罰を与えてくれたその者に、是非とも直接お礼を、と譲らなかったのである。

 そこで実現した、その者との邂逅であった。


 その者は書類を確認すると、すぐに席を立つのであった。




 その者が事を成した時、当然湧いてくるある二つの疑問が存在する。


 一つは、何故ターゲットの死を知り得たのか。

 それは、現時点で既にわかっていること。

 依頼者が何かしらのサインをその者に送っていた。

 ただ、それだけのことだった。


 もう一つは、その者が見えないはずの標的を何故殺せたのか。


 その者が居たのはビルの屋上。ターゲットが居ると予想していた場所は、そこから見上げる場所に位置していた。

 そこからターゲットの政治家がいた部屋の天井へと銃弾を放ち、跳弾という一定の角度内で弾が弾かれる現象を実行したのだ。


 結果はご存知の通り。

 天井の数少ない硬い部分。そこで弾かれた弾丸はターゲットの頭蓋骨を通り、背中を抜けて床へと突き刺さったのだ。


 もちろん、見えない的。

 それでも人に背を向けて話す者はおらず、また部屋の間取り程度の情報であれば依頼者から事前に得ることも容易い。


 それでも、その者は特Aランクの狙撃を息を吸うかの様に事もなく成功してみせたのだ。




(しょう)じゃない?こんな時間にこんな所で会うなんてね。買い物?」


 その者が料亭を出て二分後。

 その者へと話しかける少女の姿があった。


 少女は何処かの高校のブレザーと思われる服を着ており、垢抜けていて如何にもモテそうな風貌だ。


「君は…出席番号二十六番浜崎香織か」


 女子高生を出席番号で呼ぶことから、その者の表の顔は高校教師かと思われるも……


「アンタ…いい加減にしてよね。フルネームで呼ばれるだけでも恥ずかしいのに、出席番号まで…」

「済まない」

「…ホントに悪いって思ってるの?はあ…まあいいわ。アンタに話しかけた私が馬鹿だったわ」


 少女…浜崎香織は心底無駄な時間を過ごしたと思い、すぐにその場から立ち去ろうとする。

 去り際。


「明日の掃除当番同じ班なんだから、忘れて帰らないでよね」

「善処する」


 吐き捨てる様にそう伝えると、浜崎香織は雑踏の中へと消えていった。


 翔と呼ばれたその者は、未だ高校生である。


 ここは高級料亭などが立ち並ぶ繁華街。

 学生の翔には些か似合っていない場所であった。


「不測の事態に巻き込まれない様、直ちに帰宅する」


 その言葉を残し、翔もまた雑踏の中へと姿を消したのである。













〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 現代とは少し違う、そんなパラレルワールドの地球。

 今から18年前、その地球で産声を上げた者がいた。




「No.069。無事に呼吸を始めました」


 機械が並べられた室内。

 その体育館ほどもある部屋には、所狭しと水槽が並べられていた。


 その中の一つ。

『069』と書かれた水槽、その中身は空だった。


 その水槽のすぐ傍には、長辺が1m程のプラスチック製の箱がある。

 その中では、何かが蠢いていた。


「成功、か?」

「恐らく…ですが、未だ予断は許しません」

「そうか。引き続き実験を続けてくれ」


 そのプラスチック製の箱を眺める二人は会話を終える。

 会話は終わった筈だが、二人がその場から立ち去る気配はない。


「遂に…遂に手に入れたぞ…」


 命令していた男が、噛み締めるように呟く。

 すると、近くの機械からアラームの様な音が鳴る。


「心肺停止!蘇生、開始します!」

「…また…か」


 命令していた男は肩を落とすも、部下の作業を静かに見守っていた。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓












『翔へ。来月の生活費を振り込みました。また連絡します』


 簡素な自室(アパート)の中で、翔は自分宛の手紙を一読した。

 内容は暗号化された物だったが、有事の際以外では簡潔な暗号が使用される。

 今回の手紙はこの様な内容だ。


『エージェント082。報酬は振り込んでおいた。次の依頼を待て』


 ベッドと机とテーブル。それ以外の物が無い部屋。

 その部屋で手紙を読んだ翔は、机の引き出しにそれを仕舞い、何事かを呟く。


「安全を確認。就寝へと移行する」


 何も無い部屋だが、それは見た目だけ。





「寝たか」

「はい。ハニーの就寝を確認しました」


 アパート自体が翔の所属する組織の持ち物であり、ここにいる間は二十四時間監視されている。


 翔から組織へとアクセスする方法は、現時点では確認できていない。

 一方通行の命令なり伝言だけが、翔と組織を繋ぐ鎖として存在しているのだ。


 翔のコードネームは『No.082』。通称082(ハニー)である。

 人を殺すことを生業としている組織には、似つかわしくない名前ではあった。


 しかしその界隈では、その呼び名は酷く恐れられているものでもある。


「体力、筋力共に順調な成長を見せています」


 機械に囲まれた部屋。

 そこは教室程の広さで、室内には二人の人間だけがいた。

 初老の男性はすらっとしたその体型に似合うスーツを着こなしており、40代に見える女性はその凛と澄ました表情から知性が見てとれた。


「うむ。計算通りに進んでいるね」

「はい。所長の悲願は目の前かと」

「目の前ではあるが…未だ技術が足りていない。082の能力開花までに、こちらはこちらで急がねばな」


 その言葉へ女性が頷いて応え、二人は各々の作業へと戻るのであった。

地球とは似て否なる世界なのですが、これはローファンタジーなのでしょうか?

ジャンルがよくわかりません……


幽◯白書とかSPY×◯AMILYの様な地球だと思っていただけたら。



ジャンルは不明ですが、とりあえずこのまま続けていこうかと思います。


宜しくお願いします。


読んで下さり、ありがとうございます。

完結済みの小説もいくつかあるので、読んで頂けたら幸いに思います。

多謝。

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