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接触/ダッシュツ

ボクは今17年の人生の中で初めての、生命の危機というものに直面していた。



脳の奥から、逃げろ逃げろと切実な願いが体の隅々まで伝達されているけども、そんなこと出来たらとっくにやってるわ!!



アホだな脳。ボクのだけど。


何故逃げ出すのが無理だというと、位置関係が、扉、道化仮面野郎(仮)、ボクとなっているからだ。


まさかナイフ持った奴に特攻はないだろう。避けて通ろうとしても、部屋の中心に置いてあるこの無駄にでかいテーブルが邪魔になってるので厳しい。


ならばどうすればいいのか。



対話だ。



「と、とりあえずそんな危ないもの持ってないで、一緒に平和的解決を目指しましょうよ…」



不法侵入しておいてこの傲慢な態度は何なんだろうとか思ったけれど、危機的状況で頭が回ってないので、まあしょうがないだろう。この道化仮面野郎が平和的解決を望んでくれるのを願うばかりだ。


一婁の望みを賭けてとは、こういうことを指すのだろう。




「………名を名乗れ」


「…えっと…」


おお、日本語だ。ここは日本圏なのか?


てかそれを知らずに日本語で話しかけたボクって一体、どこまで切羽詰まっているのだろう…?これくらいの修羅場ならば、日常茶飯事だったというのに。



「……名を名乗れと、言っている」


「か、神崎…葵、です」


何故この時本名を名乗ったのか、自分でも解らなかった。理解に苦しむ。論理的でない。


明らかにおかしかったのに。道化の仮面に、血塗れたナイフ。一から十まで、最初から最後まで、普通じゃないのは理解したはずなのに―――。


言い訳をさせてもらうとしたら、恐怖に飲まれていたとしか、言いようがない。…こんなところをあの兄に見られたら、爆笑されるに違いない。腹筋崩壊クラスでだ。


もしかしたら見限られて、そこで切り捨てられるのかもしれない。


どちらにしてもそれは兄がこの場にいないと成立しないので、取り越し苦労ではあるけれども。


そして取り越し苦労であったとしても、問題解決には至っていないのが事実だ。


「くくっ…、正直だなお前。その正直さを讃えて馬鹿という勲章を与えよう」


「勲章じゃねえよそれ」


「いやいや、感服してんだよ。この状況にしても、その名を名乗れるなんてなあ――」


一頻り喉の奥で小さく笑うと、再び静寂が流れる。



「上の奴等はろくな抵抗もなく死にやがったんでな。精々楽しませてくれよ――『楽園の終わり(エンディングエデン)』の卷属さまよぉ!!」




…………。


何て言うかその…、…凄く…厨二です…。




恥ずかしくないのだろうか?聞かされたこっちが赤面してしまいそうだ…。


まあ冗談は置いといて。


道化仮面野郎(仮)改め厨二野郎(仮)は右手のナイフを一度胴体の後ろまで振りかぶって、ボクの首目掛けて薙いだ。刃渡りに纏わりついた血が、飛沫となって飛んだ。



「ホラホラホラァッ!!避けられるもんなら避け――」


「ていっ」


何撃かいなして、ナイフが引き戻されるタイミングで、その右手を蹴りで弾く。ナイフは緩い弧を描いて壁に刺さる。



「なっ……!?」


「使い方がなってないんだよ。そんなリーチ短いのをブンブン振り回してたら隙だらけになるに決まってるじゃないか……ナイフというのは人体の急所を的確に切り裂くのが主な戦闘方法であっておわ危ねえッ!!?まだ喋ってる途中だろうが!!」


「んな事知るかよ!」


折角説明してやってるのに、ボクの顔面目掛けて懐から取り出したナイフを投擲しやがった。


ヒーローが変身中に攻撃されないのはご都合主義というか、お決まりというか、まあつまりそういうものなんだろう。


ボクがヒーローじゃないから、攻撃されたのだろう。


残念では、無かったりする。


「ならば食らえ!!」


「おわ危ねえ!?何しやがんだ!?」


「さっきの言葉をそのまま返してやろう。んな事知るか…よッ!!」


「ぐふっ…――」


投擲され壁に刺さっていたナイフを、そっくりそのまま返してやった。驚いている隙に鳩尾に肘鉄を入れて、ボクはそのまま唯一の出入り口から脱出した。


出たら外界、という訳はなく、普通に廊下だった。


「どっちだこれ…?」


夜の暗さも相まって、先がどうなっているのかよく分からない。


「―――うらぁっ!!」


うわ、復活早っ。


厨二野郎はナイフによる突きを放ってきた。ボクは何の造作もなくヒラリと避ける。


「しつこいなあ。いい加減諦めようよ」


「うるせー!テメエはこの都市に存在すら許されてないんだよ!!」


「何それ酷い!?」


来て早々いらない子宣言されちゃった!?てか好きで来たんじゃないやい!


まあ望んだけどね!!


しかし、そんな人様の勝手なルールに殺されるなんて堪ったもんじゃない。




…ルールに厳しいと言えば、あの兄もそうか。彼は自分自身に、幾つものルールを付けて、幾つもの枷を掛けて、幾つもの鎖で絡めて、がんじがらめにして、史上最弱になった。


彼はルールを決して破らない。彼の最弱は、妹の為にあるのだから。


全く物好きだなと、思う。まあでもそうしないと地球が滅亡してしまうので仕方ないっちゃ仕方ない。


閑話休題。正に他人事だ。


物凄くしょーもないことを考えている内に、廊下の先の扉まで走りきっていた。


ここを開けて外に出れなかったら……、まあその時に考えよう。


扉を蹴破った。



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