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珠音いろ  作者: 今安ロキ
第1章 高校野球編
29/75

5回裏 ―追風― 2.風を受けて

高校野球生活に残された時間はあまりにも短いが、自身らにできる全てのことをこなしても、珠音たち女子選手出場に向けた突破口を見出せないでいる。


そんな中、千葉県大会で選手どうしの接触による事故が発生する。

部員たちは未然防止を兼ねたミーティングとして、視聴覚室に集められた。

2.風を受けて


 追風。

 水田舞莉が二神に対してそう表現した後押しは、暴風となって唐突に押し寄せた。

「大会も始まっているのに、今更ミーティングって何だろうな」

「何かあったのかな?」

 浩平と珠音が扉を開くと、既に多くのチームメイトが先に来て席についていた。

 夏の地方大会が開幕し、暑さをさらに加速させるかのような高校球児による熱戦が各地で繰り広げられている。

 鎌大附属硬式野球部もその例に漏れず、前週の土曜日に1回戦、週明けの月曜日には2回戦で無事に勝利を収め、チームは週末に控えた3回戦に向け調整に励んでいた。

 そんな中、練習開始前に視聴覚室へ集合するよう鬼頭から指示を受けた部員たちはその真意が分からないまま、取り敢えずすぐに練習に行けるようユニフォームに着替え、呼び出した張本人の到着を待ち続けていた。

「夏菜、何か知らない?」

「いやー、私の耳にも何も入ってきてないな」

 情報通の夏菜が分からないのなら、この場にいる1人を除いて事態を知っている可能性はないだろう。

「舞莉先輩は......あぁ、琴音へのインタビューを手伝うって言ってたか」

 夏菜とは別次元の情報通である舞莉は、琴音とともに吹奏楽部の練習もこなす日々を送っている。

 吹奏楽コンクールが近く2足の草鞋を履く厳しい日程ではあったが、スタンドでの演奏応援にまで励む姿には頭が上がらない。

 珠音程ではないが、ユニフォーム姿でアルプススタンドに立ちフルート演奏を行う琴音の姿も徐々に注目を集めており、立花によるインタビューがこの日に予定されていた。

「みんな、集まっているな」

 鬼頭が視聴覚室に到着し、室内を見渡す。

 事前に参加が難しいことを伝えられていた舞莉と琴音を除いた全員の顔を確認した後、鬼頭は部屋の電気を消しプロジェクターの電源を入れる。

「大会期間中にも関わらずこうやって集まって貰ったのは、高野連から選手や指導者に注意喚起するよう通達があったことに由来する。先に言うが、残念ながら我々の望んだ結果に関するものではないぞ」

 大会期間中での制度変更など考えられず当然のことなのだが、思わず溜め息が漏れる。

「千葉県大会で走者と守備の接触プレイが発生し、大怪我をした選手が出た。その事に関して改めてのルール確認をして欲しいとのことだ」

 接触プレイという言葉に、部員たちの頭に疑問符が浮かぶ。

 コリジョンルールの適応以降、走者と守備の接触プレイは殆ど無くなっている。

 考えられるのは守備陣の声掛け連携不足による接触だが、鬼頭の言葉には間違いなく"走者と守備"の言葉があった。

「あの、守備妨害とか走塁妨害があったってことですか?」

 鬼頭が手元のノートパソコンを操作するなか、珠音が手を上げ質問を投げかける。

「まぁ、そういうことだ。うちは競技年数の短い部員も多いし、改めて全体として確認するのもいいだろうと思ってな。ちょうど動画撮影されていた試合で入手できたから、これから再生するぞ」

 カーソルを再生ボタンに宛ててクリックすると、バックスクリーンを背景にした球場全景を映しだした動画が開始され、あるポイントで一時停止ボタンを押す。

「状況は2対1の接戦で攻撃側が負けている。アウトカウントは1、ランナーは1塁だ。土浦、どう判断する?」

 鬼頭に指名された浩平が立ち上がり、この状況から推察される戦術を説明する。

「打者はバントで送るか、一二塁間方向へ進塁打を狙います」

「その通りだ。この場面で攻撃側は強攻策に出て、ヒッティングを作戦として選んでいる。それじゃ、続きを再生するぞ」

 鬼頭が再生ボタンにカーソルを合わせてクリックるすると、動画が再開される。

 打球が一二塁間方向に向けて転がり、併殺打を狙った二塁手がゴロを処理すべく守備位置より前進する。

「あぁ...」

 打球が飛んだ瞬間、その場にいた全員がこの先に起こるであろう事態を正確に予測する。

 守備側の大柄な二塁手のチャージを小柄な一塁走者がかわし切れずにタックルを受ける形になったばかりか、双方の選手の脚が不運にも絡まってしまい、走者の左脚部が遠目で見てもあらぬ方向に曲がった様子が映し出されていた。

「痛ましい事故だ。伊志嶺、この場面だが、審判はどのような宣告をするか分かるな」

「はい、これは守備妨害が宣告されると思います」

「理由は?」

「打球を処理する野手の行動が優先されるので、この場合の一塁走者は二塁手の守備を妨げたという判定を受け、二塁手による走塁妨害ではなく、一塁走者の守備妨害が成立すると思います」

「その通りだ、ありがとう」

 まつりが席に座ると、鬼頭が教壇から語り掛ける。

「見ての通り、全力プレイの最中で起こる接触は、大怪我に繋がりかねない。この場にいる全員が走者となるし、内野手は守備側として巻き込まれる可能性がある。事故はどんなに気を付けていても起きてしまう時は起きるものだが、注意すればするだけ程度を下げることもできるだろう。全員、ルールを確認して留意しておくように」

『はい』

 全員からの返答を聞いて鬼頭は小さく頷く。

 高野連から指示された内容は果たした。

「あの、二塁手―セカンド―と走者―ランナー―はあの後どうなったんですか?」

 パソコンを閉じた鬼頭に、珠音が立ち上がって質問を投げかける。

「あぁ、それを説明するのは俺じゃない約束になっているんだ。入ってくれ」

 鬼頭は視聴覚室の外に向かって呼びかけると、見慣れた3人の顔が現れる。

「立花さん?」

 ユニフォーム姿の舞莉と琴音に続いて現れたのは、野球部にはすっかりお馴染みの存在となった立花真香だった。

Pixiv様でも投稿させて頂いております。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19835547

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