だめだった?
かくして、さまざまなトラブルと冒険をへて、無事誕生会の日を迎えたひろは、今日という日のために準備してきた装備を整えて深呼吸をする。
(大丈夫、わしはよくやった。今日、新たな人生が始まるのじゃ)
「あらあら、ひろちゃん今日は面白い恰好してるわねぇ」
「ふふふ、母上よ、これは新たな友をつくるためのリーサルウェポンというやつじゃよ」
ひろはニヤリと不適に笑う。
普段ぼっちなひろ、しかしそんなひろにも唯一話せる相手は何人かいる。
その一人が母、ゆかり。
ところどころ抜けているところと、感性がズれている所はあるが、立派なお母さんである。
しかしそのズれている感性のせいで、ひろがここまで手遅れになったのは言うまでもなかった。
「では、行ってくる!」
「いってらっしゃーい」
母に見送られ、勇気を出して一歩、玄関の扉を開く。
今日こそは友を作る!その決意を胸にひろは学校に向かう。
そして道行く人はそんなひろを見てひそひそと会話する、いつもの流れだ。
それは、かわいらしい女の子が歩いてるからという理由もたまにあるのだが、こと今回に至っては別の理由である。
ひろの今日の服装、それは星形のパーティー眼鏡に本日の主役タスキ、そして目立たないようにという配慮からのジャージ姿だった!
目立つ!このうえなく目立つ!
せめて学校についてから装着すればまだ救いはあったかもしれない、いやないが。
そんな姿のまま、ひろはいつものように極力人目を避けるように挙動不審に歩く!
「きょ、今日はなんだか視線が多いな・・・うへへ、やっぱりこの格好のおかげかな」
昨日勇気を出してよかったと、ひろは一人勝ち誇ってしまった!
(しかしこの世界は人が多い、前世でこれほど人がいる所など王都ぐらいであったな)
ひろは一人黄昏る。
その周りはモーゼの奇跡よろしく、ひろを中心に人が割れているのだが、そんな事には気づかない。
そんなこんなで無事教室の前にたどりついたひろは深呼吸をひとつ。
教室のドアに手をかける。
そして元気な声であいさつを
「おひゃ・・・あ、なんでもないです・・・」
できるわけがなかった。
和気あいあいとしていた教室は一瞬の静寂、そして同時に全員がひろから目を逸らす。
『おい・・・あれ何?』
『誰かつっこめよ・・・』
(あれ・・・誰も反応してくれない・・・)
ここにまた一つ、ぼっち歴史が刻まれることになるのだった。