バトルもの?
遊園地
そこはひろにとって魔王城にも等しき場所である。
母の友達の親子達と今日その魔王城に行くことになったのだが・・・。
「今日は遊園地楽しみだねー!涼太君!」
「なー!明美ちゃん!」
「あら~ゆかりさんのことろもなの~?」
「そうなのよ~今日だけで三件も!」
広いワゴン車の隅、周りの話についていけず一人じめじめとするひろ。
ぼっちのひろが一人になるのは必然だった。
しかし、こうなることは当然予想済み。
『ドラちゃんや、お留守番は順調かの』
『お留守番等生ぬるい、私がいる限り盗人一人寄せ付けませんよ』
と、頼もしいセリフを念話でおくってくるドラルク。
そう、困った時のドラちゃん通信。
あらかじめドラルクと念話のパスをつなげておく事で、いつでもどこでもドラルクとお話する事が出来るのだ!
だがそのおかげで一人ぶつぶつと喋っているやばいやつとして、周りの子に見られているという事をひろは知らない。
そうこうしてる内に遊園地に到着、ひろは虚無感に襲われながらも車から降りる。
まるで遊びに来た人を溶かすかのような煌びやかな光!
心を壊しにかかってくる音楽!
陽キャたちの叫び声!
ひろはここに来てさらにお腹が痛くなるのを感じる。
「は、母上や、わしはやはりベンチで座って待っておるぞい・・・」
「えー!遠慮しないの!さぁどこから遊びに行こうかしらねー」
母に頭をなで繰りされ、ひろは絶望の表情でゲートへと入場する。
「あばばばばばばば」
入場する前からすごかったが、園内は更に陽キャ二ウムが凄まじかった!
ひろは早々にギブアップするが、そんなの気にせず次から次へとアトラクションに乗る母。
休憩タイムに入るころにはひろは灰になっていた。
「やだもう帰りたい」
1人机に伏して涙を流すひろ。
しかし誰も気づかない!
ここは地獄か!
『助けてドラちゃん』
『zzz』
念話で助けを求めてみたが、かわいい寝息しか返ってこなかった。
「だ、誰かこの地獄を終わらせるのじゃ・・・」
そんな悲痛な叫びを聞き届けたのか、ひろはある気配に気が付く。
沢山いるマスコットの中、その中に今世ではあり得ない気配を感じるのだ。
「まさかこれは魔獣・・・?なぜこのような場所に」
気付いてしまったからには放置するわけにもいかず、ひろは魔獣がいる方向を千里眼でのぞく。
そこはちょうど戦隊ヒーロー物の現場で、魔獣が怪獣のマスコットに紛れて殺気をまき散らしている。
「これはいかんのう、いつ暴走するかわからんぞ!」
急ぎ現場に向かおうとするひろ、しかしその手を母につかまれる。
「次はあのアトラクションに乗りましょう!」
そんな事しったこっちゃない母は、キラキラした顔でそう声にする。
ここはおとなしくついていってあげるのが優しさ・・・しかし放っておく事は出来ない。
ひろは羞恥心を殺しながら、ある作戦を実行する。
「やだやだやだ!ひろ戦隊ヒーロー見に行きたい!」
名付けてだだっこ作戦、自分は死ぬ。
「まぁそうだったの!?じゃあはやくいきましょうねー」
「あい・・・」
何か大事な物を失ったような気持ちになりながらも、ひろは目的地へ向かう。
そこではちょうどヒーローと魔獣が戦っている最中だった。
ひろはすぐさま状況を確認する。
『おい・・・怪獣役今日やたら粘るな』
『勘弁してくれ!もう1時間だぞ!?』
「今日は随分と戦闘シーンが長いなぁ」
「パパ―もう飽きたー」
どうやら魔獣の存在は誰にもバレていないようだ。
このままなんとか排除したいが・・・。
しかし魔獣はヒーローショーの舞台の上、今にも人を殺めそうな殺気を漂わせている。
「どうしたものかのう・・・そうじゃ!」
ひろは悩んだ末に、ヒーローにバフをかけまくる。
その瞬間ヒーローは瞬間移動ともいえる速度で走りだし、そのこぶしはステージをぶち壊す。
これには飽きてきていた観客も大盛り上がり、しかもヒーロー達は自分の変化に気付いていない!
徐々に魔獣を追い詰めるヒーロー。
だが所詮ヒーローショーのヒーロー、とどめはさせない。
怪獣役が倒れた演技をしてくれないと終わる事ができないのだ。
「いたし方あるまい、なむさん!」
ひろはそんな掛け声と共に魔獣の中心に爆裂魔法を演唱、ステージが爆風に包まれる。
客もヒーローも、塵も残さず消え去った怪獣役にポカンとしながら、しかし次の瞬間大歓声が巻き起こる。
そんな様子を片目に、ひろはため息を一つ。
「ふう・・・なんとかなったわい」