マル秘 異世界転移メカレディ [試作]
「レディ。全システムオールグリーン。いつでも始められます。」
「…そうか。これよりV-67εの稼働実験を開始する。」
そう言いながら男は“始”というボタンの書かれたボタンを押した。
ガコン。
重々しくボタンが押された瞬間男達がいる部屋の至る所で機械が忙しなく動き始めた。
「電源班より、主要電源起動。これよりミスタリウムの活性化をお願いします。どうぞ。」
「こちらミスタリウム管理班。ミスタリウム活性開始。活性完了まで残り五、四、三、二、一、活性完了。」
「次、人造脳へミスタリウム結合開始。衝撃に備えてください。」
ドン!
建物ごと揺らす大きな衝撃が部屋にある者たちに襲いかかった。
「反応終了。所長、第一関門突破です。」
「そうだな。急ぎ今の衝撃による破損を調べよ。」
「ハッッ!」
部屋中に声が響き渡る。
ここまで順調にいったのはいつぶりか。
多くの職員が今度こそは、と意気込んでいる。
「所長。破損の有無、確認終わりました。破損はありません。」
「それではこれより第二フェーズに移行する。各員配置につけ。」
「これより生体起動を行います。万が一の場合は…分かってますね?」
部屋中の全員が神妙に頷く。
「生体起動開始。瞼が開きます。確認を。」
「こちら生体起動確認班。瞼の開閉を確認。異常なし。」
「続いて声帯確認。確認を。」
「わ…わたし…は…。」
「おぉ」
部屋中からざわめきが起こる。
V-67ε、呼称イプシロンは少女のような外見を持つ。
もちろんその声帯も少女のものに近い。
「発声確認。しかしわずかにノイズがみられます。」
「かまいません。起動を続行します。最後に動作確認を行います。万が一の時はお願いします。」
「大丈夫ですよ。元々死ぬ運命だった命だ。役に立てるんなら本望ってもんですわ。」
「ありがとうございます。開始!」
実験を指揮していた女性はそういうと“最終”の字が書かれたボタンを押した。
今度はポチという音を立てて凹む。
少女の指先が動いた。
最初は小さく、だがやがて手をグーパーするほどに大きく。
次に膝が曲がり手を使って体を起こした。
そのまま体育座りのような体型へ移行して首を動かす。
首を上下左右、ぐるんと一回転させそのまま近くにいる所員の方へ向く。
瞳孔が開いたり、閉じたりして目のピントを合わせる。
「動作確認終了。これにて第二関門の突破を確認。少しの休憩の後第三フェーズに移行します。」
その号令とともに張り詰めていた空気が緩いものへと変わる。
所員は安堵の表情を浮かべ各々でコーヒーを取りに行った。
そんな中ひときわ疲れた表情の女性に近づく者の姿があった。
「おつかれ、ミハルくん。」
「あ、所長。お疲れ様です。第三までこれました。次はいよいよ最後のフェーズ。頑張っていきましょう。」
「そうだね。やっと…やっとここまできたんだ。あと少しだ。」
所長はどこか懐かしそうな顔をしていた。
「これより第三フェーズに入る。これで最後だ。皆、気張れよ。」
「おうっ!」
「まずは会話を行う。もしもし、イプシロン。私の言葉が理解できますか?」
少女はその放送に首肯した。
「それではいくつか質問をします。あなたの開発コードは?」
「V-67ε。通称イプシロン。」
チェックを入れる。
「次にあなたの全権管理者は?」
「イラ・ハコミネ。プロジェクト『メカレディV』の発案者にしてボクの開発者筆頭。そしてこの研究所の所長。」
チェックを入れる。
「あなたに与えられた至上命令三則は?」
「一、人間に危害を加えない。
一、自己の防衛。
一、マスターへの絶対服従。
なお、マスターからの命令次第では前二則は効力を発揮しない。」
チェックを入れる。
「オーケー。質問は終わりです。では次は私の指示に従って外骨格のミスタリウムの形状を変化させてください。」
「それはマスターの命令?」
「そうです。」
「わかった。」
「まずは右腕前腕部をガトリングガンに変えてください。」
少女の右腕前腕がグネグネ動き始めた。
次第に銀色だった外骨格の色も変化し赤や青、黄色へと変わり最後に黒くなった。
少女の右腕前腕部にはガトリングガンが生えていた。
まるで最初から生えていたかのように。
つぎはぎではなくそれがあるべき姿であるかのように。
「左腕前腕部にミサイルを出してください。」
先程の変化のようにグネグネとカラフルに変化を始めた。
前腕上から生える中指程度の大きさのミサイルがあった。
「背中に翼を生やしてください。」
少女は翼を生やした。
しかしそれは鳥が持つような翼ではなく非常に機械的な翼だった。
コウモリの腕のように細い機械の翼の至る所から謎の粒子が飛び翼の体をなしている。
バサっというのではなくキュイーンという音も出ている。
「それはなんですか?翼ですか?」
「マスターの趣味です。」
所員全員から避難の目が所長に集まる。
所長は若干いづらそうな雰囲気だ。
「まあいいでしょう。次は全身です。」
少女は首肯する。
「自動車になってください。」
少女は車になった。
デロリアンだ。
「随分古いものですね。少なくとも私が生まれる前です。」
「これもマスターの趣味。」
またも所員が避難の目を向けると所長は目を逸らしながら「バックトゥザフューチャーていう昔の映画があってだね?」なんて言い訳をしている。
老齢の職員のみがいい笑顔でサムズアップを決めていた。
「もっとエコそうな車はなかったんですか?」
当然彼らが生きる時代は電気自動車やら水素自動車やらエコな車が多くガソリン車など一部の富豪が観賞用に持っておく程度しか流通していない。
それこそ映画や創作物のなかでは似たような車のレプリカを使うこともあるがどれも偽物だ。
そもそもガソリンが枯渇しもう取れないのだから仕方ないのだ。
「マスター曰く“最近の車は浪漫が足りねえ”だそうです。」
「そうですか。次は航空機になってください。」
少女は航空機へと変化する。
今度は到底技術的に不可能である形状の飛空船だ。
甲板があり各種武器が揃っている。
航空機というより船という表現が合っているだろう。
しかしサイズが小さい。まるで模型のような小ささだ。
「それでは人が入りませんよ。」
「これは五十分の一スケール。本当はこれの五十倍大きい。」
もはやつっこむことすらしない。
「それではこれで第三フェーズは終わりです。最後の最後で何やら遊びが見えましたがプロジェクト『メカレディV』の最終目標が終わりました。皆さんお疲れ様でした。」
「お疲れ様でした」
これにて実験は終了。
皆がそう思った途端虚空に穴が空いた。
人が何人かいっぺんに入れるほど大きな穴。
それは段々と周りのものを吸い込み始めた。
研究資料も機材も何もかも。
そしてイプシロンも吸われた。
「スミレ!」
所長、イラ・ハコミネは飛び出した。
イプシロンに手を伸ばす。
これ以上失ってたまるか、そんな意気込みの感じる強い瞳だ。
ほんのちょっとあとちょっとあと寸分、髪の毛一本分の差でハコミネの手はイプシロンに届かなかった。
だがハコミネも諦めていない。
手が届かなかったからなんだ。
ならば届く位置に行けばいいじゃないか。
ハコミネはもう片方の手を離しイプシロンのもとへ飛び込んだ。
虚空の穴の先だ。
イプシロンとハコミネを吸い込んだ途端穴は閉じた。
大きな爆発とともに。
衝撃波が所員の身を叩く。
研究所も大きなダメージを受け崩れ始めた。
「所長?」
女性ミハルは問いかけた。
今まで穴があった虚空に。
ハコミネとイプシロンが吸い込まれた虚空に。
返答はない。
何度も問うた。
どれだけ問うても返答はない。
その日プロジェクト『メカレディV』はイラ・ハコミネとイプシロン並びに数多の犠牲と研究資料の紛失により頓挫した。
どうでしょうか。メカレディさんの話は未だ構想から発展しずらいですがとりあえずの誕生秘話として色々設定アイデアとかくれると嬉しいかな、と。
補足
ミスタリウム…謎物質。その性質その他全て謎。加工がしやすすぎで怖いくらいしかわからない物質。