情報収集2
〜メルトside〜
…僕を含めて、この村出身ではない、かつ、村に入ることができた人間は、三人…外部の人間もこの出来事に関わっていることが確定的だと考えられる人数としては、少々少ない感じもする。
この時代、北海道のおすすめの場所を知りたいなら、ネットで簡単に知れる…大抵の人間は人に聞くよりもそっちを選ぶだろう…もし仮に地元民から聞いた場合でも、こんな辺鄙な場所を知っている地元民なんて、どれくらいいる?...
「あの〜、一応聞きますが、ここって結構有名な場所なんですか?」
「ん?...わしは、よそのことなど知らん…」
…まぁ、そうだよな…、実際、…神隠しのような人智を超えた出来事が聞く限りでは起きているんだ…村の人たちが知らない間に、知るひとぞ知る秘境になっていることだって考えられる…、…とりあえず、メモだけは必ずしておこう…
「…一応、確認なんですが、この村では、過去に7回、大神が出没したんですよね?」
「おう。」
…そうか…つまり、この老人は、ずっとこの村に過ごしていたわけか…だったら、この可能性は高いかもしれない…
「それでは、今回を除く、第6回目の大神出没って大体何年前くらいでした?」
「5年前じゃ…」
…5年…それだったら、
「それならば、この村人は全員、大神を過去一回だけでも体験したことがあるわけですよね?」
その可能性が高いだろう…
「いや、一人だけ、体験しておらん…わしの孫の伊賀 砥弘じゃ…」
最新の大神出没は5年前、この村人たちは、日足さんの説明通り、村から出ることはできない…ならば、大神を経験していない人は、5年前には存在しない…つまり、生まれていない人となる…幼児が一人いるわけか…もちろん、幼児がこの大神のことはおろか、そもそも今の事態に気づいていないことは十分あり得る…つまり、幼児には今の少ない時間で話を聞くだけ無駄だろう…だったら、聞くべき人が一人分減らせて、ラッキーと言えるだろう…
「もちろん、このような事態自体が特殊なんですが、特に過去に大神の件で特に変わったところってありました?」
「変わったことかのぉ…、…、…、…わしは今まで、幸運か不運かわからないが、大神にのりうつられたことがない…だから、今、こうして生きていられるのじゃが、…奇妙なことはいくつもおった…、まず、憑依判明の加護を受けたものが、大神だったことがある…」
「ん?それって別に普通じゃないですか?もし、真の憑依判明の加護者が自分は加護者だと正体を明かしたら、ただでさえ人数の少ない大神側の生存は絶望的。だから、大神側の一人は憑依判明を騙ると思いますが?」
これは、まぁ、定石の手段といえば、定石だ。そもそも、このルールだと大神にとって、不利すぎる…大神は疑われないように、かつ、大神側の味方ができるだけ犠牲にならないように、会議を誘導する必要な時が存在する…その時点で怪しまれる上に、加護持ちという大神側からしてみたら、脅威でしかない存在をいち早く冥界送りにしないといけないのだ…そして、もちろん、大神側はできるだけ自分に有利な状況を作りたい…自分の命もかかっているんだ、だから、圧倒的に有利な状況に立ちたいはずだ。だったら、やることは何か…憑依判明の加護者を騙る…これは失敗してしまえば、大神の味方が一体死んでしまうのは確定だが、逆にいえば、成功すれば、ほぼ大神側の勝利が確定する…だって、『乗っ取りが成功すること』=『騙った憑依判明の加護者が村人は本物だと認めること』に繋がるからだ…つまり、そのあとは、騙った人間は、村側だと思われるため、進行係になる。つまり、この会議の主導権を握るわけだ。一人の味方を賭ける代わりに、勝利がほぼ約束されるのだから、これをやるのは定石である。
「いや、そういうのじゃ、ありゃせん。憑依判明と言っとったのが、一人だけじゃ…それも誰も死んでいない初日の出来事じゃった…だから、わしも村のみんなも全員本物じゃと思っとった…だけど…この村にも医者がおってのぉ…そいつが残してくれた手がかりのおかげで、そいつが最後の大神だとわかったんじゃ…」
…、…そんなことってありえるのだろうか?
「…憑依判明の騙りを理解できなそうな人ってその時いましたか?」
「いや、いない…それだけは断言できる…その時、一番バカなわしでもそのことは理解できた…」
…、ありえるとしたら…日足さんの序盤の発言…
「ッツッ大神が…来るの!!もし、ここを逃げられなかったら、食われちゃう!!だから、すぐに、村に向かって!!」
…もしかすると、村のみんなが知らない間に、外から誰かが来て…だけど、その人は状況が何が何だかわからず、そのまま間に合わずに死んだ??...のか??...そして、神様は、その外から来た人物に、憑依判明を加護したが、運悪く死んでいた…?だから、憑依判明を騙ることができた?...、それ以外に考えられる可能性は?...憑依判明の加護者は逆を言えば、大神に狙われやすい…つまり、命が一番狙われる可能性が高い…悪霊結界の加護者は、大神を判明できる憑依判明の加護者を守るはずだ…それが一番、村側の生存を考えた上では重要な加護であるから当然だろう…だけど…それは、理屈で考えた時の話だ…もし悪霊結界の加護者が自分は死にたくないから、自分にずっとその加護を与えていたら…さらに、憑依判明の加護者が命が狙われるのが怖くてそのことを黙っていたら…とにかく、色々な理由が考えられる…けど、この村の狂気は奥が深い…そのことは、もうわかっている…だから…本来ならば、絶対に質問しないことを…してみた…
「…もし自分が狙われるのが、怖くて加護者が本来の役割を果たさないことってあり得ますか?」
人間ならば…欲深い人間ならば…そんなの答えは決まっている…特に自分の命の危機なのだ…だから、ありえる以外の答えはない…
「…??…そもそも、そんな選択なんてあるのか??」
老人が放った言葉の異様さを、老人自身も気付いていない…そのことがこの村の異様さの証拠としては、十分すぎるほどだった…やっぱりか…やはりこの村は狂っている…そもそも、この村の住民は、大神の生みの親には、神『様』呼ばわりするのに対して、その分身には、大神と呼び捨てだ…まだこの村の住民がみんなこの老人のようだと決めつけるのは早いが、もし全員こんな感じなら…大神を打ち倒すのに自分の命など賭けること前提の村人…、逆に言えば、それほどまでに大神を忌み嫌っている村だと言える…仏教で極地に至るためには結果的に、死ぬことが前提だ…だけど、そんなお坊さん、数えられるくらいしかいないだろう…世界的に広まっている仏教ですらそんな状態である…みんな、信じてようとはしているが、それでも死ぬのは怖いのだ…だが、この村人たちはみんなそんなのを気にしていない…そういう事になる…大神を打ち倒すにはこれ以上にないほどありがたいが、人間的なものが欠落している村なのかもしれない…しかし、もしそれが前提なら、外から来たものが憑依判明の加護者であるとしか現時点では考えられない…、とにかく、今感じたことと事実をメモに書き込もう…
「…すみません。なんでもないです。僕が会っていないこの村の住民ってあと何人ぐらいいますか?」
この数によって、聞きたいことはだいぶ変わってくる…良い返事を期待したいところだが…、果たして…
「…十二人…じゃな…、じゃが、…オメェさん…これからその全員に聞き込みに行くのか?」
「ええ、そうなりますね。」
当然だろう、ただでさえ、見たことのない未知の脅威なのだ。情報は多ければ多いほど良いというものだろう…人数に関しては、家の数が少ないから、2桁も行かないくらいだろうと思っていたが、これは驚いた...人数が多いことは、この大神では結構良いことだが、今の場合は、不運だな...
「じゃったら、綾上様の家に行くと良い…綾上様は、代々、大神の情報を集めておる巫女さんたちじゃ。他の奴らよりも彼の方らから聞いた、情報を優先した方がええ…所詮、わしらが体験したのは、何百回、連綿と続く大神出没のたった数回じゃ。先祖から続く綾上様の実記とそれに付随する卓越した知識には、村の誰にもかないわせん。」
…明らかにおかしい点があった…
「…その綾上様というのは、大神が出没するこの村でも先祖に繋がる子孫を残せているんですか?」
それは、この大神が出没する村ではあり得ないことだ…
「…そうじゃ。お主は信じられないかもしれないが、この村には人ならざる力を持った人間が何人もおる…綾上様は、その大神に襲われても、冥界送りにされない能力が、先祖代々から遺伝されとるらしい…じゃから、このように連綿と大神についての記録ができたとわしは聞いておる…」
…先祖代々の能力の遺伝…これはあり得ない…親と子供の能力が超低確率で同じだったというのならまだありえるが、先祖まで能力が遺伝することなどあり得ない…そもそも能力というのは、遺伝などしない。個人個人の感情の大暴走が原因となって、初めて付随する力なのだ。しかも、その獲得する能力の種類は、さまざまな要素によって、変化する…それを知っている人間としては、そんな天文学的確率よりも天文学的な確率、到底信じられない。しかし、たとえ先祖まで能力が遺伝するのが本当じゃなかったとしても、少なくても目の前の80、90歳くらいの外見の老人が、そう思うくらい、同じ能力が遺伝されたのを確認したということだ…、…まぁ、その時点で事実なのは、ゆるぎはしないだろう…
「…日足さんからそのことについては教えてもらいましたし、昨日、日足さんが僕を引っ張りながら、あの階段を登り切ったことから、そのことについては疑ってしません…ですが、その綾上様のその能力って、どうやって確認したんですか?」
「わしが、この目で見た…」
…、…この目で??...
「大神ってどうやって人を黄泉送りにするんですか?」
「…時間が止まるんじゃ…そして、止まっている間に、人間に触れる…そしたら、一瞬で人が消えたんじゃ…」
老人は平静を装っているが、声の震えが所々に見える…流石に年長者だけあって、日足さんのようにはならなかったが、こわばった顔でその激情が察せる…そうか…『この老人は、大神を体験したことがあるのか…』そもそも、老人の今の発言は矛盾している…大神が時間を止められるなら、大神にのりうつられたことがない村人側のこの老人はその現場を見ることはできないはずだ…大神にとって、時間止めは最大の不利な状況下での許された唯一の村人に対抗できるだけの武器…時間を止めるとか、もはや神の領域を超えている気がするが、細かいことは後で考えよう…とにかく、そんな貴重な武器をわざわざ使わない手はない…となれば、この老人は自動的に、大神の経験があることになる…制限がなければ…の話だが…
「その時間を止めるのは、何か制限とかってあったりします?」
「…ない…いつでもできおる…」
…だったら、この老人が大神であったのは、ほぼ確定的だ…、…それならば、話が変わる…さっきまではこの老人の言う通りに、綾上様のところへ向かおうと思っていたが、もう一つ聞くべき話がありそうだ…
「あえて聞きます…なんで、大神の役を続けられたんですか??」
これは聞くべき話のトップに入るようなネタだろう…