情報収集1
〜メルトside〜
11月12日
「そもそも、この地域はね…『神隠しの常代』って言われているの…」
「『神隠し』?...それって、神様が人をさらってしまうと言われる、あれで間違いない?」
「うん、それで間違いなし…それでね、その『神隠し』というのは、不定期にこの村周辺で本当に、起きているんだよ…」
「…それって、体験談?それとも、そう言い伝えられていたこと?」
「体験談…」
…これは予想外だ…てっきり、そういう伝承をこの村人たちは信じこんでいるのだ、と思った…実際にそういうのが起こっているわけがないと思った…だって、もしこれが事実なら、一つ重大な疑問が残る…
「そんな大事件が起こっているのに、なんで君たちはこの土地に居続けるのかい?」
そう、思った疑問をぶつけてみた…
「…居続ける…というか…私を含むこの村の住民って、そもそも他に住める場所がないんだよね…」
「ん?どういうことだい?」
「…私たち、村人たちって、そもそも戸籍と人権がないんだ…」
…いよいよ、闇深い話になってきたな…戸籍と人権がないということは、すなわち、正式に働くことができない…かなり、金を手に入れる手段が限られてくるわけだ…それだけじゃない…学校にも行けない…正式な結婚もできない…生まれた子供もまた無戸籍、無人権になる…法に関して素人同然の僕でもこれくらいのことはわかる…だとすると、本棚に置いてある教科書やその他の本はどこで手に入れたのか気になるところだが、今は大神の話が優先だ…
「村八分ならぬ、国八分のような習慣が今もこの村には続いているということかい?」
「うん、端的に言えば、それであっている…アイヌ民族って知っているでしょ?」
「うん。今は、北海道の北の方面に住んでいる北海道の原住民たちでしょ?だけど、厳密に言えば、アイヌ民族はもう絶滅した。純血のアイヌ民族はもう存在しないって聞いたけど?」
「その認識であっているよ…実際、なんの危害のないその人たちでさえ差別を受けているんだけど、戸籍と人権が与えられている時点で、私たちの差別は、その人たちとは比べ物にならないほどだよ。何が起きても、自己責任、国は何にも保証してくれないし、一万円を手に入れるのにも、1ヶ月くらいかかる…病気を発症しても、病院には行けない…国から保障を受けられないから、ただ風邪でもすごく高額な値段が必要なの…だから、もともとこの村には他にもたくさん人がいたんだけど、その大多数は、…病気で死んじゃった…それと当然だけど、電気、水道、ガス…このどれもこの村にはない…だけど、それらを被るにもそれ相応の理由があるんだ…」
「…、...」
…まぁ、戸籍と人権がない時点で、おおよそ想像していたが…結構な大問題じゃないか…
「私たちは、神の一族なんだって…さ…どういうわけか知らないけど、私たちの一族は、大神という一族の生き残り…らしいんだ…その証拠に、私を含めて村人全員が、普通の人にはない特別な力を持っている…といっても、流石に潮彩さんレベルの能力は、この村はもちろん、誰も持っていないと思うけど…」
…まぁ、持っていたら、逆に怖いけどな…
「私の能力は、怪力…かな?...昨日、見たと思うけど、あれが全力。限界まで頑張っても、潮彩さんくらいの痩せ型の人をひきずりながら、2,3km走るのが限界…といっても、潮彩さんも私を…その…こほん…運びながら、門までたどり着けたから、そこまで強い力じゃないけどね…」
…いや、平均的なJKの体格で、そこまで動けるようになるなら、十分すぎるくらいすごいよ…そう思わずにはいられないが、…伏せておこう…
「…なるほど…話は見えてきた…つまり、日本政府は君たちのような特殊な人間の集団が、何かしようという思想が芽生える…それを抑制するための徹底的な弾圧…確かに、日本政府にとって見たら、”能力”という現代科学では説明できない意味不明の力を持つ村人たちは正体不明の生命体と同じなわけだからね…、…用心深い日本人らしい考えだ…」
…まぁ、聞けば聞くほど胡散臭い話であるのは違いないが、一旦信じてみることにしよう…何よりも、これが嘘だったら、日足さんは本格的な精神病ということになる…いや、そんな仮定の話をしてもまだ無意味か…
「…日足さんたちが不当な扱いをされているのは、わかった…じゃあ、今度は…大神について教えてくれないかな…」
まぁ、結局はこれが本題だろう…
「わかった…大神は、そもそもここの山に住んでいた神様の分身……もともとこの山に住んでいた神様は、もともとその分身をニホンオオカミとして、この現世にいくつか送って、古来より人々の繁栄に貢献してきたの…人間を害獣から守り、繁栄を影から見守っていた。代わりに、人間から崇め奉られたんだ…しかし、明治以降に、人間たちは自分たちの都合で、その神様の分身を殺戮した…だから、その神様の分身たちは死後の世界、冥界で人類の復讐を始めるの…しかし、いくら、神様の使いでも、冥界から現世への干渉は難しいらしいんだ…だけど、殺された数は、万に及んでいる…だから、何年かに一度…神様にこのような単位をつけるのもおかしな話だけど、一匹?の大神が、現世に干渉できて、この近くに現れるの…そして、最初は、山に『閉じ込める』…その時に、この村の空に、3羽の鳥が旋回した後に、3匹同時に死ぬのがその目印…そうしないと、村人が逃げてしまうから…次に、大神は、最大三人に、『意識をのりうつす』…冥界から現世の人間に意識を移して、その人間の体を乗っ取るの…そして、夜以外の時間帯に、他の人間を冥界送りにする…これがさっき言っていた『神隠し』というもの…だけど、その分身を生み出した山の大神は、最初から今でさえ人間の味方だったの…だけど、その神様も今は死んで冥界入り…現世への干渉がずいぶんできなくなった…だけど、分身の大神とは違って、神様は死んでもなお、この山あたりの現世への干渉力は大神よりも何倍も強い…だから、大神が人を冥界送りにするのを防ぐために
1つ…記憶改竄...現世に現れた大神たちの標的を一度だけ変えることができる能力…2つ、憑依判明…1日に一回、人の意識に映ることで、その人の正体を見分けられる能力…3つ、天乃御鏡…冥界と現世を視認することで、死者の正体を判明する能力…4つ、彌次喜多...この能力を持っている人物は、狼に乗ってられていない。また、同じ能力を持っている人がわかる能力、これだけ、二人が持っている能力…5つ、悪霊結界...大神に襲われても日々に一人だけ守ることができる能力…
以上、5個の能力を村の人に、それぞれに授けたらしいんだ..
この村に伝わる伝承の説明はこれで終わり。
小さい頃は、単なる村の伝承だと思っていたけど、この伝承は実際正しかった…」
情報を用意したメモに書き込む…、…なるほど…北海道なら、ニホンオオカミじゃなくてエゾオオカミではないか、という疑問はさておき、…初対面の時、怖がっていたのは、そういうことなのか…周囲は見ていたが、流石に空、しかも村の空は見ていなかった…、それに、最後の言葉…
『小さい頃は、単なる村の伝承だと思っていたけど、この伝承は実際正しかった…』
それと、前半の話のこの会話…
『「…それって、体験談?それとも、そう言い伝えられていたこと?」
「体験談…」』
つまり、彼女は、過去に上記の方法での神隠しを体験している…流石に大神の被害者になったら、ここで生きているわけがないため、過去に大神の被害にあったここに近い村にいたんだろう…だから、この伝承が真実だとわかっている…、つまり、その時の体験での悲しい出来事、つまり、家族などの親しい人物を大神に殺されたか、あるいは、自分が乗っ取られているうちに村の誰かを殺してしまったことに対する自責の念…これがトラウマの元だろう…、…どこまでも最低な自分に嫌気が差すが、そうだな…ここは少しでも相手を気遣おうか…
「ちなみに、もちろん村人たちは、その大神を見つけないといけない…”伝承”では…どう言われているのかな?」
そういうと、日足さんは、過去の出来事でも思い出したのか、顔がみるみる青くなって、吐き出してしまった…直接的な表現だったら、なおやばかっただろう…もちろん、介抱しようとして、自分の服を雑巾代わりに使おうとしたが、日足さんがその時に、一言…
「…1日の間に会議をして、大神だと疑わしい人を…殺す…の」
…やっぱりか…
「日足さん、ありがとう…あとは、僕が全部、なんとかするから、そこで休んでいいよ…」
「だめだよ…少なくても私もその会議に参加しないと…」
確かに、今の伝承を聞く限りでは、大神になったら、小さいときから一緒に育ってきた村の人たちでも過去の神隠しの大神は見抜けなかったんだ…例え、彼女が大神だったとしても、それは、僕が神様の加護持ちでない限り、判断できないだろう…、…だけど…
「…、…僕が村のみんなをなんとか説得するよ…だから、君を殺させたりしない…”今回”は、休んでいて…」
そう精いっぱいの作り笑いを浮かべた…
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〜メルトside〜
それから、僕は畳にシミがついてしまう前に自分の服を使って、彼女の”もの”を拭いた…その後、洗面台で、自分の服を洗い流そうとしたが、水が出ない…そうだった…この村は水道も通っていないんだった…か…その不便さを早速、身にしみたところで、拭いた服をとりあえず、絞って洗面台に置いた…
「ごめん、洗う場所はどこかな…?」
そう聞くしかない。そして、彼女は、自分がリバースした今の状況を確認できたようだ。視線を僕に合わせ、申し訳なさそうな目を向けた…
「…申し訳ない!!潮彩さん。残念だけど、ここの村では階段を降りないと、服を洗えないから、今は無理だね…」
…無理?...過去に、大神降臨時に、階段に降りた人がいて、それでだめだったのか…
「わかった…じゃあ、他の村人にも聞き込みをしたいから、ここで休んでいて…」
「…、…本当に休んでいていいの…?私も手伝うよ…」
…いや、あえて今回だけは、例えそれで情報が多く引き出せるとしてもやめたほうがいい…話を聞く限りだと、今日中にこの村人の誰かが死ぬ…今日、大神によって一人村人が死ぬ可能性が非常に高い…この村人たち、一人一人のサシで話した情報が欲しい…それに、二回目の時間移動で僕の些細な行動で、何かが変化するかもしれない。だが、昨日から会議が終わる(つまり、大神が勝つか、村人が勝つか)の日にちまで、全く一緒の行動を取れる自信がない…それに、日中の間なら、いつ大神が襲ってくるか、わからないんだ…だから、少なくても昼までにはこの村人、全員の記録を取りたい…さらに、日足さんは、『神隠し』が人智を超えたものの存在による犯行だと思っている…または、思い込んでいる。つまり、そうとしか思えないような『神隠し』を目にしたか、超常的な存在を認めざるを得ないような証拠を彼女の中では見たということだ…『伝承』となるくらいだ…つまり、このような『神隠し』が何年も続いていることを明示している…もしこの『神隠し』が人によるものだったら、それは何年にも渡って、この『神隠し』をしている人間がいるということだ…当然、伝承になるほどの長さ、現代の人間が生きていることはほぼありえないため、継承をしながら行っているとしか考えられない…一万分の一よりも低い確率だが、それならば、一応簡単に対策が取れる…その対策を取るためにも、できるだけ早めに情報収集をしないと…そう思って、外へと出る…
現時点で、時刻は7:30…
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とりあえず、日足さんに一番近い家に向かった…と言っても、一番近いと言っても、1kmくらいある…まぁ、村の面積に対して家の数が極端なほど少ないからそうなるだろう…
そう思いながら、青い屋根のアスファルトでできたやたらボロい家へ向かった…、…いや、待て。違う…昨日は暗いせいでよくわからなかったが、他の4軒は全部同じようなボロさだ…つまり、このボロさがこの村では普通…日足さんだけ、普通という名の豪華な家…なんでだ?…村長というほどの若さではないが、…もしかすると、彼女がこの村の長なのかもしれない…そんなかなり低い確率が本当だとしたら、彼女を会議に出さないように説得するのは、難易度が跳ね上がるが、まぁ…なるようになれだな…そう思いながら、青い屋根の家に向かった。だけど、誰もいない…しかし、家のあたりに足跡はある…おそらく、この住民のものだろう…その足跡を追ってみると、家主だろう禿頭の老人が、薪を割っていた…、しかし、その表情は歳のわりに顔に皺の数が多く、妙に、険しさを含んでいた…、まぁ、今の事態を考えれば、そんな顔になるよな…だけど、神の分身による現象…人の方法ではどうにもできないからという諦観…そのため、おそらく普段の日課である薪割りを続けているのだろう…
「…あの〜、すみません…少しよろしいですか…?」
そう声をかける。老人は僕の姿を確認すると、親の敵のごとく睨みながら、言った…
「チッ!!またよそもんか!!...クソ!!昨日のは、お前のせいか…また…余計なことしてくれおって…!!」
…僕のせいで?どういうことだ?
「どういうことですか?」
そう至って当然の質問をしたつもりが、老人はさらに不機嫌になってしまった…しまった、老人の発言に食い下がるように捉えられてしまったか?
「どういうこともクソもねぇよ!!よそものが入ってきて、大神が来たのは、これで、三回目だ!!おりゃ〜、長いこと、この村にいたがな〜、よそものが来たときに限って、大神の野郎が、必ず来た!!つまり、オメェ〜が、大神を呼び寄せたんだろう!!」
…?よそものが来たときに、大神が必ず来る??伝承を信じるなら、大神はそもそも、冥界脱出という低い確率をくぐり抜けてやっと現世にたどり着くんじゃなかったのか?それだったら、日にちを決めることなんてできるわけがない…、伝承が全て真実ではないかもしれない…いや、改めて考えると当たり前のことか…そもそも、伝承はあくまで人が何らかの手段で推し量ったもので、大神本人が伝えたようなものじゃない…しかも、伝承というからにはずっと昔のものだ…参考程度に考えたほうがいいのかもしれない…
「…それに関しては、知らなかったとはいえ、大変申し訳ないです…」
「うるせぇ…そんな謝罪、どうせ、なんの役にも立ちやしない…もし大神を殺す方法が、会議じゃなかったら、わしはオメェを今、殺してたわ…」
…やっぱり、大神に関する基本はわかっている…つまり、彼は大神被害の経験者か…
「さっき、よそものが来て、今回のを含めなければ二回目と仰りましたよね?今回の大神出没の経験者ですか?」
「おうよ…」
まぁ、見た目の年季と長いこと、この村にいたという発言…これらから、大神に関しては、経験者だったのだろうことは確定的だ…とりあえず、話を聞いてみようか…
「この村で、大神の被害は何回目なんですか?」
「なんでオメェに答えねぇといけねぇ…。」
やっぱりかぁ…まぁ、そうなるわな…
「情報が一つでも欲しいんです…この大神出没に関してですが、『できる限り被害を抑えるためには、』僕の知っている情報では手がかりが少なすぎる…できるだけ皆さんの記憶や意見も考慮して会議も進めたいと思っています。」
そう至って、合理的に答えたつもりだ。老人はしばらく、考えた様子を見せると、少しして口を開いた
「…、...そうかい…少しはましなよそもんのようだな…今回のを含めて、7回…わしが、これまで経験した大神は、全部で七回だわ…」
印象が少し良くなったようだ…よかった…この人は実力者のようだし、少しでも信頼が欲しいから尚のことよかった
とりあえず、情報をメモに書きながら思う…7回…それを連続で生き残るのは、確率的に低いのはもちろん、会議で、よほどの実力がない限り、無理だ…少なくても、もし自分に”超回復”がなくて、7回、連続で生き残れと言われても、無理だろう…
「...7回…すごいですね…」
自分では本当に心から称賛したつもりだが、老人はその答えになんとも言えない表情をしていた…
「…わしは、ただ運が良かっただけじゃ…死んだもので、わしよりも優秀だったものは、たくさんいた…そこまで大したことはねぇ…それよりも、おめえさん、いつこの村に入っていた?わしは昨日の夕方までこの村で、色々なことをやってたが、おめえを見たことはねえぞ?」
「僕は夜の10時くらいに、この村に来ました…そして、それと同時くらいに、日足さんが階段の前にいたんです…しかし、その時に、大神も一緒に来てしまったみたいで、日足さんの怪力と必死な村への誘導のおかげで、命拾いしました。」
「…おめえは、どうしてこんな辺鄙な山奥まで来た?」
「ちょっと、僕はいろいろあって、旅をしているんです。と言っても、今日で二日目なんですけどね…それで、初日のバスの時に新千歳…ああ、すみません…千歳市といった方がいいですよね?」
「いや、新千歳でも伝わる…二回目に来たよそもんのおかげで、そこらへんの事情は概ね知っておる…」
「そうですか…それでは新千歳とします…その新千歳のバスで、いろいろあって、ナンパされまして…それで、おすすめの北海道の場所を聞いたら、ここだって言われたんですよ…そのため、ここに来たというわけです。」
「…ナンパ??なんじゃ、それは?」
ああ、そうか。わからないよな…
「女の子たちに喫茶店で、飲みに誘われたんです。とにかく、おすすめされたから来たんですよ。」
「…、…これも大神の呪いなのかのぉ…オメェさんの動機…1,2人目のよそもんと一緒じゃ…場所は一人目、二人目のどちらとも同じじゃないが、奴らも、北海道民の奴らに、おすすめされて、行ったと聞いた…」
…は?...、...事態は凶悪だと思っていたが、さらに認識を改めたいといけないようだ…おそらく、この事件は過去最大に闇が深い…かもしれない…
...はは、ヤベェ...なぁ...更新進度が思ったよりもずっと時間がかかる...後書きは明日に書きます。1話前の後書きもあした書きます...明日の最新話投稿は...できるかなぁ?あと、会議まで話を進めようと思いましたが、会議まで話を進めると、文字数が30,000文字(普段は、1話5000文字くらい)になってしまうので、分割しました...