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コトダマ  作者: 七瀬空
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番外編その2_語られないストーリー

彼は小児癌を患っていた。



私はと言うと、健康的な体で病院に来る理由と言えば骨折した友達とお見舞いだった。


「あの子、どうしたんだろう」

「あぁ、ミヅキ君ね」

「あの子ミヅキ君って言うの?」

「最近小児癌が見つかってここで手術受けてるのよ」

「へぇ」

「どうしたの?りん?」

「え、いや」

正直そこまで興味があるわけではなかった。なにせ無関係なのだから。

でも、彼の本を読んでいる目は生き生きとしていたことだけが印象に残っていた。



それから私は毎日病院に来ていた。友達の骨折が治るまで毎日だ。


だが、来ているうちに来る目的がもう一つ出来た。


あの本を読む生き生きとした目、あの子のことを知りたい。


私は中学生、彼はおそらく小学生低学年だろう。

確実に恋愛関係ではない。



いや、付き合ってみたいな。

ん?

私はなにを考えているんだろう。



と思いながら私は無意識に彼の前に立っていた。


「あ、お、おはよう」

「今昼だよ?」

「え?!あ、こんにちは...」

「こんにちは」

「いつもそこで本を読んでいるよね」

彼は優しい笑みを浮かべ頷く。

「君はいつも友達の骨折のお見舞いに来てるよね」

「え?!知ってるの?!」

「ここは中庭で全病室が見るんだよ。だから全員見てる」

「そうなの?!」

この子は頭がいいのかな...私より頭がキレてる気がする...



それから私は友達が退院した後もこの子と関わりを深め、いつしか仲良くなっていた。

「僕ね、もし癌が治ったらまず一番に自分だけの居場所を見つけたいんだ」

「自分だけの居場所?」

「うん。自分しか知らない場所。一人で読書ができる場所」

私は胸が痛んだ。こんな子でも生きたいって思ってるのに...私は学校でテストがある度に「死にたい~!」などとぬかしている。


「どうしたの?」

ハッとして私は彼の顔を見た。

その顔は不安そうな顔だ。

「体調でも悪いの?」

自分が一番泣き出したいはずなのに私の心配をしてくれる...なんて子なんだろう...

「ううん...なんでもないよ」


こんな子が命を持つ方がいいのに、なんで私がしっかり生きれる人生でこの子は死ぬかもしれない病気になってるんだろう。


「あ、僕これからなにかあるらしいから行くね」

時間を見てハッとした彼はスタスタと走っていった。






「......非常に申し上げにくいのですが...ミヅキ君の寿命はあと1年も持たないでしょう」


ーーこいつはなんて医者だ

ーー子供の目の前で余命宣告を

ーー酷いやつだ

「お母さん?」

「え、いえなんでもないわ」





ーーだれか...この子に命を与えてあげてください。








それから私、りんは彼の余命を聞いた。本気で自分を恨んだ。

病室で彼が寝ているのを見ていると胸が押しつぶされそうになる。



「彼の...!!!彼の命と私の命でいいから交換してあげてよ...!!!!」


こんなことしても無駄だと知っているのに、これしかすることがなかった。



特別な力なんてない。存在しない。



あれからほぼ一年。

ミヅキ君を救えない虚無感から私は森を一人彷徨っていた。

正直目的はない。歩きたいだけだ。

少し...開けた場所に出た。


一つ満開の桜の周りに木が並んでいる。

神秘的な場所だ。


「なにこれ...」

木の裏に文字が彫られていた。

「コノ木ハ永遠ノ木ナリ」

随分前に彫られたのだろう。文字の使いから、彫られた場所の再生具合からも読み取れる。


いや今はそんなことどうでもいい。



「永遠の木なんなら彼に命をあげてよ...!!!」



私がそう木を殴りながら言った瞬間。そう、瞬間の出来事だった。

木からモヤのような光が私を覆った。


「ーーーーーーするか?」


声が聞こえた。

その木とも取れる声の質問に私は迷わず、はいと答えた。




実感ないな...

今木からコトダマの能力を貰ったらしい。




これで...あとは彼のところに...





事実、彼の容体は最悪の一歩手前というところだった。



あと1週間生きれるかどうからしい

医者と親族が全て出て行ったことを確認し、私は彼の手を握った。



「私と、彼の、命を、交換してください」

それ以外はなにも望みません。

と心底願った。

あの木に力をもらった時と同じように白い靄が私たちの体を覆った。





体がどっと重くなった。

「これが死ぬかもっていう恐怖なのかな?」

体は震えていた。

でも...後悔はしてない!!



「これは私が私の運命に逆らっただけ」



さて...どこで死ぬかなぁ。

ここで私、りんのストーリーは終わる。長い長い14年間の月日を終え、りんという主人公は死ぬのだ。

次はこの子に託さなければならない。








手紙に「必ず生きてね!」

とだけ残し私は病院を出た。

この子なら私と違った人生を歩めるかもしれない。









あの...名もない木に感謝しないとな...








だんだん、力が抜け意識が遠のく、

「死ぬってこういうことなんだな...」








ーーとある家庭の自室から中学生のりんさんの死体が見つかりました。現在警察は死亡の原因を探しているとのことです。






「もう、誰とも関わりたくないよ...りん...!!!」















Last end.


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