2年目までに
手から落ちた御朱印帳が床に落ちた衝撃でバラバラとページが開く
蛇腹の間に挟まれた半紙の紙が1枚、ぴらぴらと少しだけ飛んで目の前に居るソレの足元の落ちた。
「大丈夫ですか?」とソレが喋った。
続けて「車内は大変揺れやすく、時折唸り声をあげますのでご注意ください」と言った。
ゴトゴトと床が動いている、そう言えば交通電子カードの残高が残り僅かだったのを思い出した、たしか500円を切っていたがそれで間に合うだろうか。改札口で止まる様な間抜けな姿は誰にも見せたくない、前に一度、梅田の駅でピンポンと大きな音をたてて止められてから、それをやるのがとても怖い、あの時後ろにいた中年サラリーマンの睨み顔をいまだに思い出す。
声を掛けてくれた、ソレは車掌さんのような格好をして紺色の帽子を深くかぶっていた、八重歯を見せながら床に落ちた御朱印帳を拾ってくれた。
「これは、あなたのですか?」
そう聞かれると私はこれを「私の物ではありません」と答えた。
私の手にあって、私が落とした御朱印帳だがこれは私の物ではない。
「そうですか、良かったです。」
最後に、それではと言って御朱印帳を手渡されて隣の車両に消えていった。
それから何度か駅のような場所に停留して何人かの人が乗ってきたが、途中下車する人は誰もいなかった。
そのまま終点駅に着いて、全員が降りていくのを横目に見ながら自分も降りるべきか悩んだ、車内アナウンスではこのまま乗っていれば元の停留所に戻れると案内しているからだ。
なんだか途端に迷子の子のように泣きたいほど寂しくなってきた。
「戻ろうかな」
この先進んで良いのか、これ以上行けばきっと戻るのに苦労しそうな気がする。
でもここまで来るのにも正直苦労した、先を望んで来たのだからここで下車しない選択は無い、きっとこの心細さは1人でこんな遠くまで来たからだ。
車内から外に出ると、意外と太陽がサンサンと降り注いでいて日焼け止めクリームを持って来なかったことに後悔した。
「死後の世界にも太陽はあるのね」
誰もいないホームに自分の独り言がポツリと落ちた、電車のドアが閉まりゆっくりと動き出す。
車内には何人か人が乗っている、彼等はそのまま戻れるのだろうか
それとも何度が往復した後にどちらに降りるか決めるのだろうか
どちらに降りても大変なことには変わりないのだろうから、どうか本人たちにとって悔いのないように死後の世界を歩んで欲しいと思った。
「切符も交通電子カードも持ってない」改札口を前にしてようやく気付いた、この世でも切符をなくしたら始発駅からの料金を払わされるのだろか
改札横の窓口でさっきのソレと風貌が似たソレに話しをかけたがとくに怒られることも料金を払わされるわけでもなく
「そのままどうぞ」と窓口前の改札を通してくれた。
「君はそのまま2番乗り場から乗ってね」
改札を通った後に背後からそう言われた、後ろは振り向いてお辞儀をするとソレは手を振ってくれた。