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バレンタイン1話完結短編 孤独なふたり

作者: 五歩進三下


私はチョコレートが大好きだ。

ほぼ毎日チョコレートを食べている。

だからバレンタインデーも当たり前のように自分用のチョコレートを食べる。

あげる相手がいないからとか、そんな理由ではなく、ただひたすらにチョコが好きなのだ。


どうやらバレンタインデーに1人でチョコを食べる女の子は世間では珍しい。

だから私はクラスでは変人扱いされている。


クラスメイトには知られてないけど、私にはもう一つ変な習慣があるかもしれない。

毎日夜に1人で公園に行ってボーっとするのが好きなのだ。

その時間にチョコを1人で食べることもある。


数ヶ月前から公園で過ごす風景に変化がある。

公園に私が居る時はほとんど誰も周りにいない。

私が行く公園は昼間や夕方はにぎやかな時が多いけど、夜の19時を過ぎるとほとんど人がいない。

それを知った上で私は人がいない時間に公園へ行っている。

だけど、数ヶ月前から1人の男の子が私と同じように孤独な雰囲気を漂わせて夜の公園に現れるようになった。


なんとなく「1人でボーっとしたい」気持ちをお互いに察していたのだと思う。

私も男の子も話しかけるどころか目も合わせることはなかった。


そして数ヶ月が過ぎた。


2月14日。

バレンタインデーだ。

私はそんなことはおかまいなしに1人で公園に行き、チョコを食べていた。

いつもの男の子も1人でボーっとしていた。

もしかしたら普通はこういう状況は気まずいのかもしれない。

でも、2人は相変わらず孤独な時間を好んで過ごしていた。


ハプニングというのは人の性格や行動を瞬間的に変えてしまう。

私は2月14日にそれを経験することになった。

公園のブランコに乗っていた男の子がバランスを崩して地面に転がり落ちた。

もちろん、例の男の子だ。

彼は普段からブランコに乗っているのだが、いつも涼しい顔をして軽やかに揺れている。

だから、まさか彼がバランスを崩すとは思わなかった。


孤独を好む私とはいえ、目の前で転んでいる人を見過ごすわけにはいかない。

私はとっさに駆け寄って話しかけた。


「大丈夫?」


私は勝手に彼を同い年くらいだと思っていたので「大丈夫ですか?」ではなく「大丈夫?」と言った。


「ああ、大丈夫だよ。」


どうやらケガをしたわけでもなかった。


これが私と彼との最初の会話になった。


彼が転んだことよりも、彼と会話したことに私は動揺してしまった。

何を思ったのか私は「チョコレート食べる?」と言って、持っていたチョコを渡した。


彼は微笑みながら「ありがとう。」と言った。


その後の時間はあまり覚えてない。

「名前は何ていうの?」くらいの会話をした程度だったと思う。


翌日、私はいつもの時間に公園に行った。

無意識に彼の姿を探した。


彼はいなかった。


私の定位置、いつものベンチに座ろうとした時だった。

ベンチの上に手紙らしきものが置いてあった。


「チョコレートありがとう。僕は明日この町から引っ越すのでもう会えないね。でも、いい思い出になったよ。」


それが私にとって初めてのバレンタインデー。

男の子に渡した最初のチョコレート。


嬉しさと寂しさが胸にこみ上げてくる。

私は彼がいないブランコを愛おしく見つめた。


完。










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― 新着の感想 ―
[良い点] チョコレートの食べ方の描写が素晴らしかったと思います。日常的なところをリアリティたっぷりに、個性豊かに描き上げるところに、ユニークな面白みを感じました。 [気になる点] 男の子が公園に来た…
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