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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 3
84/85

081 先制点

 


「……全然入らないな」

「どっちもすごいね……あぁー見てるだけなのにめっちゃ緊張する~!」


 千秋の言葉に、由利さんがブルブルと震えるような仕草をする。

 明青と英修の試合は両チームともに点が入らないまま、3分が経過していた。


「いいぞ西先輩。 ここまでは全然やれてる」


 後ろの席から、サイゾーさんの声が聞こえる。

 その言葉に反応したイト君さんとエイジさんが加わり、三人の会話が弾む。


「思った以上にオールコートが効いてんな。 ハマらなかったらさっさと下がってっていう算段だったんだろうけど」

「それでも崩れないのは流石強豪……って感じだなwww」

「相手が慣れて対応してくる前に、点を取っておきたいところだけど……」

「あのディフェンスを試合通してやり通すのは、流石に無理があるからなwww」


 当然ながら、三人の視点は身内のチカちゃんが居る英修寄りだ。

 三人の会話は続く。


「西先輩的にはこの序盤が勝負のポイントってところだね。 逆にここを乗り切られると――」


 サイゾーさんが話している最中に、試合が動く。

 左コーナーから、ゴール下に入り込んだ#34のセンターに絶好のパスが入った。


「通った!」


 千秋がわずかに身を乗り出す。

 ボールを受けた#34が、その背中でディフェンスを抑えながらボールを高く掲げると、そのままシュート体勢に入る。

 マークを外された明青の選手が背後から必死に手を伸ばすが、ボールには届かない。


 放たれたボールはバックボードを叩き、リングを通過した。


 この試合初めてのゴールに、わぁっ!と、英修ベンチが沸き、まばらに立ち上がる。

 同時に、後ろの三人がほっと深く息を吐くのが聞こえた。


 2-0。 英修が欲しかった先制点を奪う。

 コートを包む空気が一気に弛緩していく。

 その瞬間。


「ソフィ! 出せっ!!」

「ディフェンス! 切り替えろ!」


 コートから二人の異なる声が響く。



 ボール拾った明青の#32、石黒ソフィアがその声に応じて、すぐにボールを中へ入れる。

 そのボールを受けたのは明青の#10 二宮二葉(にのみやふたば)、ニコさん。

 そして彼女にピタリと張り付くように英修の#1 初瀬巡(はつせめぐる)が寄せる。


 二人ともさっきの得点の事なんてとっくに頭の中に無い。

 得点の喜びも悔しさも、余韻を味わう事なく次の戦いが始まる。


 だけど……。


「寄せが甘い」


 背後からぼそっと聞こえたのはエイジさんの声。

 その指摘はすぐに目に見えて現れる。


 リスタートのボールを受けたニコさんは、すぐにサポートに寄ってきた#30 藤代瑠雨(ふじしろるう)にパス。

 英修の反応がわずかに遅れる。


 その隙を瑠雨は見逃さない。

 キレのあるドライブでマーカーを剥がすと、そのまま中へと進出。


「引け!」


 観客席に居てもはっきりと聞こえる声で、初瀬が味方に指示を出す。

 プレスを掻い潜られた以上、一旦自陣に引いてディフェンスを立て直したい。

 だけど、それを簡単に許してくれる相手ではなかった。


 キュッ、と鋭いスキール音をあちこちで響かせ、明青の選手が一斉にポジションを変える。

 瑠雨からパスが出る。

 ボールを受けたのは#8 石黒シルビア。


 遅れて距離を詰めてきたマーカーをあっさりと躱し、ジャンプシュート。

 これが決まり、明青がすぐに点を返した。


「ドンマイドンマイ! 次ッ!」


 サイゾーさんが激を飛ばす。

 なんだか、応援に熱が入ってきてる気がする。


「せっかく苦労して取った点なのに、すぐに取り返されちゃうとガッカリきちゃうね」

「確かに。 まぁ、さっきまでが点入らなさすぎただけなんだけど」

「オールコートを仕掛けている以上、こういう点の取られ方は覚悟の上なんだろうけど……ちょっと勿体なかったかもね」


 由利さんと千秋の話にサイゾーさんが加わる。

 英修の超攻撃的なオールコートゾーンプレスは、ハマればとても強力なディフェンスだけど、前線のプレスを食い破られてしまうと、途端に劣勢になる。


 今のところ英修のディフェンスは明青に刺さっているように思える。

 だからこそ、得点直後のわずかな緩みを突かれたのはちょっと勿体なかった。


 試合に意識を戻す。 英修ボールの攻撃中だ。


 こちらはちょっと低調。 というより、負けじと明青の守備が良い。

 アウトサイドでボールを回してチャンスを伺う英修に、隙を与えない。

 ボールホルダーに厳しくチェックを掛け、プレッシャーを掛け続ける明青の守備。

 頼みの綱ともいうべき留学生センターには、パスを通すまいと明青のインサイド陣が目を光らせている。


 突破口を見つけられないまま時間を削られ、最後は無理気味な体勢でシュートを打たされる。

 ボールがリングに当たり、大きく跳ねた。


 リバウンド争いは明青の#32と#4に対し、英修の#34が一人。

 三人が一斉にジャンプ、ボールに向かって手を伸ばすが……。


強い(つんよっ)!?」



 ボールを取ったのは#34。

 二人に挟まれ不利な状況にも関わらず、強靭なフィジカルと長いリーチでボールを確保する。


 フォローに来ていた味方の選手、#18にパス。

 さらに#18から外で構えていた#6の選手にボールが渡り、今度は体勢充分で3ポイントシュートを放つが、これもリングに嫌われる。

 再びのリバウンドボール。

 今度は明青の#32と#8、石黒姉妹がボールにアプローチ。

 が、これを蹴散らすように英修の#34が再度リバウンドを制する。


 ボールを掴んだ手を挙げたまま着地すると、味方の#18へパス。 まるでさっきのリプレイを見ているみたいだ。

 

 ゴール下の戦いから、コート全体に視点を変える。

 ポツンと一人、右サイドのコーナーに英修の選手が開いていた。


 その選手にパスが出る。

 ボールを受けたのは#1 初瀬巡だ。

 ボールをキャッチし、そのままシュート体勢に入る。


 遅れてニコさんがブロックに行く。

 初瀬がシュートモーションをキャンセルし、ダンとドリブルを1つ入れ、ニコさんのブロックを躱す。

 一歩分横にスライドすると、今度こそ完全にフリーの状態になった。


 落ち着いてボールを構え、両手でシュートを放つ。

 綺麗な弧を描いたボールが、鮮やかなネット音を響かせた。


 わぁ、と歓声が上がった後、タイムアウトを告げるブザー音が鳴る。


 この試合最初のタイムアウトを取ったのは王者、明青学院だった。



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