076 エースキラー
視点変わります。
明青学院 二宮二葉視点です。
「んー」
止まんねぇなー、あいつ。
流星女子のシュートがリングへと吸い込まれていく様子を見ながら、短く息を吐いた。
10-18。
そこで審判がゲームを止める。
ウチのチームの選手交代だ。
ベンチの方へと目を向ける。
サイドラインの脇には、交代で入ってくる選手が立っていた。
交代の指示に気付いた9番のケイがコートの外に出ると、30番を付けた一年生、藤代瑠雨が待ってましたとばかりに勢いよくラインを跨ぐ。
そして、そのままウチのいる方へと駆け寄ってきた。
「悪いねえ、こんな早い時間からのお勤めで」
そんな彼女を迎えるように、皮肉の言葉を添えて右手の手のひらを差し出す。
瑠雨の手が、パチンと音を立てた。
「大丈夫、こんな時もある。 気にするな」
ふてぶてしくも、そんな台詞を吐くこのクソ生意気な一年生。
蹴りでも入れてやろうかと思ったが、残念ながら試合中だ。
瑠雨はそのままウチの元を離れていき、鋭く整った目でキョロキョロと周囲に目を配る。
うん、集中してんな。 問題なさそーだ。
「ボール!」
そう要求すると、エンドラインの外で審判からボールを受けた味方が、ウチに向けてパスを出す。
試合再開。
ボールを受け反転すると、ゆっくりとドリブルをしながら相手陣へと運ぶ。
「さぁさぁ! まだまだこれから!」
腹の底から声を出す。
相手のディフェンスが、じりじりと距離を測りながらウチの方へと近づいてくる。
タイムアウト中、コーチの荻センからの指示は「もっとスピードをあげろ」。
アシスタントコーチの涼子チンからは「もっとシンプルにインサイドで勝負してもいいんじゃない?」との助言。
まぁ、ごもっともなんだけど。
どうも外から見てる大人たちには、攻撃がチンタラしてるように見えて、お気に召さないらしい。
別に言われるほどここまでの組み立てが悪かったとは思わないけど、まーウチもまだまだ若輩者ですから。
反抗したくなっちゃうんだよねぇ。
仕掛ける。
スクリーンを使ってマークをズラし、左からドライブ。
相手のマーカーがスイッチ、ウチをフリーにさせないように付いてくるが、構わず強引に内へと潜り込む。
ペイントエリアに侵入すると、ボールを持ってステップを踏み、シュート体勢に入る。
呼応して、相手のセンターが前方を塞ぎにかかる。
そこでパス。
絶妙のタイミングで中へ入ってきた味方がボールを受け、フリーでシュートを打つ。
バックボードに当たったボールがリングへと収まった。
「ナイッシュ!」
ゴールを決めた相棒を労うと、それに軽く右手を挙げて応える。
5番の石黒シルビア。
同じ二年のシルは、ウチにとって相棒と呼ぶに相応しい頼れる仲間だ。
そのままディフェンスへ。
ボールを運ぶ相手の#4に対し、近い距離でプレッシャーを掛ける。
「こっち!」
右後方からボールを呼び込む声。
#4はパスを選択。 そのまま左へと流れていく。
その動きを追いながら、パスの出た先、ボールホルダーの位置を確認する。
ボールを持つのは流星女子の#15。
その対面には低く腰を落とし、間合いを測る藤代瑠雨の姿。
#15が右からドリブルで仕掛ける。
瑠雨よりさらに低く、沈み込むようなドライブ。
抜かせまいと瑠雨がサイドステップで進路を閉じる。
すると#15がボールを左に持ち替え、今度は左から瑠雨を揺さぶる。
これにも瑠雨が即応、#15に決め手を与えない。
それでも#15は動きを止めない。
瑠雨から距離を取るようにドリブルを進路を取る。
その瞬間、ウイングの位置から斜めに入ってくる選手が見えた。
「7番! 中!」
走りこんできた#15がそこへパスを出すが、察知した味方がすぐにマークにつく。
辛くもボールをキープした#7だが、そこで動きが止まる。
「奪える!」
二人がかりで#7を囲うと、慌てた#7が体勢を乱し、やがてボールがその手から零れる。
味方がそれを回収すると、すぐにウチへ預けられた。
全員が相手コートに向かって走り出す。
その後を追うように、ドリブルで加速。
ウチの前に見えるのは味方が四人と、慌てて戻る敵が四人。
ハーフラインを超え、相手陣内へ侵入すると、相手ディフェンスの一人が、ウチに対応する為に寄ってくる。
アウトナンバー。
数的有利な状況を確認すると、冷静にフリーの選手を探し、丁寧にバウンドパスを出す。
ボールを受けたキャプテンのヨリさんが、きっちりとレイアップシュートを決めた。
「よーしよし、ナイスー!」
これで14-18。
確実に点を返していく。
「瑠雨も! ナイスD!」
ゴールを決めたヨリさんに続いて、瑠雨にも声を掛ける。
瑠雨は一瞬こちらに目線を向けるも、すぐにそっぽを向き、特に反応する事なく#15のマークへと戻っていった。
うわっ、可愛くねー奴。
思わず口元が緩む。
「ドンマイ! 落ち着いて、冷静に!」
流星女子の#4が、落ち着けというジェスチャー付きで味方に声を掛ける。
イイネ! 大事だよーそういうの。
心の中でその呟きにハートマークを押す。
彼女が流星女子のキャプテン、ポイントガードの蒔田ちゃん。
対戦する相手の事は事前に仕入れる。
ウチのマネージャー陣は優秀だからね。
結構知ってるよ、キミの事。
三年、158cm、おとめ座。
同じバスケ部に付き合って半年の彼氏アリ、ちな年下。
チームメイトの信頼厚く、シュート並、ボールハンドリングは良い。
シュートに自信が無いから、あまり積極的に自分では打ってこない。
「一本! 落ち着いていこう!」
ボールを運びながら、再度味方へ激を飛ばす。
そんな彼女に対面し、自陣へと迎える。
「実はそーやって味方に落ち着けって言ってるとき、一番落ち着ついてないのは自分なんじゃない?」
やべっ、声に出ちゃった。
言われた蒔田ちゃんが眉間に皺を寄せる。
まぁいいか。
ホレホレ。
クイクイっと、彼女だけに見えるように左手で挑発。
一瞬、彼女の瞳に怒りの炎が見えたような気がしたが、ふぅ、と中くらいの息を吐き、彼女はボールをリリース。
ポストの位置から引いてきた味方へ一旦ボールを預けると、右へ位置取りをズらし、味方からパスバックを受ける。
「ミア!」
そのタイミングでスクリーンをセット。
ボールを受けなおした#4が、スクリーンを利用してウチのマークから逃げる。
やや遅れて、それを追う。
ホラ、打ってもいいんだぜ?
中への進路だけ切りながら、#4との間隔を空ける。
シュートを打とうと思えば十分打てる距離だ。
だけどコイツは打たない。 いや、打てない。
自信が無いから、踏ん切りが付かないんだよな。
「パス!」
そこへ、またも#15からパスを求める声が飛ぶ。
#4はあっさりと、その求めに応じた。
つまんねぇ奴。
バスケの面白さは一対一だろ? チャレンジしろっつーの。
そいつ見たいにさ。
ボールを受けた#15が、再び瑠雨と対峙する。
良い顔してる。
細い目をギラリと開き、闘争心を隠そうともしない。
自信があるのか、プライドか。
さっきの借りを返す気満々って感じだな。
流星女子の15番は上月 明。
明と書いてアカリと読む。
一年生、166cm、ポジションはフォワード、出身は仙台。
紛れもなくこのチームのエース。
一対一に自信アリ。
スピードに乗ったドライブが武器。
事前の情報よりずっと良い選手だ。
正直ビックリしたわ。
#15がグッと一歩、右足を出し牽制。 瑠雨は動かない、
出した足を素早く元に引くと、今度はクイッと短いシュートフェイクを入れ、左から仕掛けた。
フェイクには反応しなかった瑠雨が、ドライブに即応する。
一定の距離を取りながら、ドリブルコースを限定、相手の動きを見極めようと目を凝らす。
#15がボールを右手に持ち替え、進路を急に変えながら、ボールを晒す。
それからまた、ボールを左手に持ち替え左からゴールを狙う。
残念、そこは藤代瑠雨。
今がアカリちゃんの相手してるそいつは。
バスケを始めた時からずーっと。
キミよりもっと凄い一対一バカを相手に。
散々一対一を繰り返してきた奴だから。
半歩、前にでた#15が、ボールを持つ左手を高く伸ばす。
その左手からシュートが放たれるその瞬間。
瑠雨の伸ばした左手が、完璧にボールをブロックした。
明青学院、30番、藤代瑠雨、一年。
スリーポイントシュートが得意なアウトサイドプレイヤー。
だけど本質、一番の武器は一対一に滅法強いディフェンス。
藤代瑠雨はウチ自慢のエースキラーだ。




