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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
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068 エピローグ

 

 首と脇の下にキツイ冷たさを感じ、意識がはっきりする。

 目を開けると、右目の奥にズキズキと脈動する痛みが走った。


 やけに重たく感じる両腕で、ゆっくりと上半身を起こすと、ぼとぼとっと何かがずり落ちた。

 何かと思って見てみれば、真っ白なシーツの上にやけにファンキーな柄の氷嚢(ひょうのう)が転がっている。


「お、起きたか」


 声に反応して顔をあげる。

 知らない部屋の窓際に、良く知る顔の人物が腰かけていた。


 良く知る顔、といっても妹ではなく姉の方だけど。


「……熱中症だとさ。 楓、昨日ちゃんと寝たか? どーせ試合が楽しみであんまり眠れてないんだろ。 ……少し休んで良くならないようなら病院連れてくってレイラちゃんが言ってたけど、大丈夫か?」


 柔らかい表情で、千秋が私を気遣う。


「うん、だいぶ良くなったと思う。 まだちょっと頭が痛いけど」


 そう伝えると、千秋は手にしていたペットボトルのキャップを軽く開封してから、ほいとこちらへ投げて寄越す。


 慌てて両手を出し、それをキャッチした。

 どこの自動販売機でも売っている清涼飲料水。

 その青いラベルを見た瞬間、強烈な喉の渇きを感じた。


「しっかしまぁ、派手なぶっ倒れ方だったなぁ……覚えてるか?」

「……うん……、なんとなく」


 まったく意識が無かったワケではない。

 朦朧とした意識の中でも、自分の行動には何となく覚えがあった。


 受け取ったペットボトルのキャップを左手で捻るが、指が小刻みに震え、思う様に力が入らない。

 一度キャップから手を離し、左手を握ったり開いたりしてみたが、やはりぷるぷると小刻みに震えていた。


「負けたんだね……」

「まぁ、順当にね」


 私が言うと、千秋はさも当然というような口調で答える。


「千春は?」

「病院行った。 あのバカ、結構痛かったクセに我慢してたみたい。 一応、由利が付き添ってる。 他の皆は……待機場所でミーティングしてるよ」


 千秋の声を聞きながら、もう一度ボトルのキャップに手をかける。

 今度はすんなり開けられた。


 唇を添え、口の中に流し込む。

 喉が渇いていたからか、いつもより美味しく感じた。


「はぁー、強かったねぇ。 英修は」


 千秋が伸びをしながら言う。


「……そうだね。 ……強かった」


 その言葉に同意を示す。

 けど、勝てない相手じゃなかった。


「もう少しだったんだけどまぁ、良くやったよ。 楓も、私も、チームのみんなも。 な?」


 腕を組み、わざとらしくうんうんと首を縦に振る千秋。


 その言葉には答えなかった。


 ここは医務室だろうか。

 誰もいないその部屋に、一時の静寂が生まれる。


 その静寂を破るように、千秋がまた話し出した。


「最後のプレーさ、パスがくるような気がしたんだよ」


 そう言って、右手で左手を掴む千秋。

 そのまま言葉を続ける。


「なんていうかさ……、きっとパスがくるって、変な確信があったんだよねぇ。 今思えば不思議なんだけど。 楓からパスが来て、それを受けてシュートを打って。 それが入るまでのイメージが、鮮明に頭に浮かんでさ。 ……私にもついに見せ場が来たか!って。 いや、全然根拠なんてないんだけどな?」


 そういって、千秋が苦笑いを浮かべる。

 私は、笑う事が出来なかった。


「……夏希もさ、きっとそうだと思うんだよ」


 そう言って、千秋は優しげに笑う。

 夏希さんの名前が出て、思わず手元のシーツを握り込んだ。


 それからまた、二人して黙り込む。



「あーあ……、夏もこれで終わりかぁ」


 千秋は私から目を逸らすと、窓の外に目を向けながらそう呟く。


 まだ6月じゃん。

 夏はまだこれからだと、そう口に出しかけて思い出す。


 千秋はこの大会を最後に、バスケ部を引退する。

 ついさっき終わったばかりのあの試合が、千秋にとって最後の試合になったんだと。


「まぁ、なんだかんだ楽しかったよ」


 そう言って窓の外を眺める千秋の横顔に、西日が差し込む。


 その頬を伝うように、キラキラと何かが光っていた。



二章締めです。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


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