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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
66/85

064 チカ、再び

戻りまして、茅森楓視点です。


 英修ボールのオフェンス。


 チームの先頭に立ち、ボールを運ぶ相手にプレッシャーを掛けに行く。

 そんなディフェンスに対して、相手は明らかに嫌がる素振りを見せた。


 いける。

 第4Qに入って、確かな手応えを感じていた。


 試合は、63-77。

 第4Q開始時は24点あった差も、14点まで詰め寄っている。

 タイムアウト明けに2点は返されたけど、決して流れは悪くない。



 私のプレスを受けた相手が、早々にパスを選択。

 そのパスを受けた選手には、千秋が素早くプレスを掛ける。


 ここにきて昔取った杵柄というか、中学時代を思い出したように、千秋が私に連動したプレスを掛けてくれる。


 それでも流石は英修の選手。

 際どいところで踏みとどまる様に、パスを繋いでいく。


 すぐに陣形を整え、次の展開に備える。


 英修が攻撃のスイッチを入れる。

 起点となるのは、タイムアウト明けから戻ってきた34番、リタ・イドバーエヨバだ。


 ミドルポストでボールを受け、その恵まれた体躯を活かしてゴールに迫る。


「飛鳥さん!」

「分かってるっ!」


 その背後で、2年の那須飛鳥さんがピタリと身体を寄せた。


 飛鳥さんは既に4つ目のファウルを犯している。

 もう1つのファウルを犯せない、そんな消極的にならざるを得ない状況下でも、果敢なファイトを見せる飛鳥さん。

 これ以上はゴールに近づけさせないという、気迫の籠ったディフェンスだった。

 これに焦れたように、#34は強引にシュートを打った。


「リバウンド!」


 直ぐに反転し、自ゴールの方を向いた飛鳥さんが、今度はスクリーンアウトを掛ける。

 両チームの選手が入り乱れるゴール下。


 リバウンドを制したのはまたもすばる高、センターの環さんだ。

 攻守が入れ替わる。


「こっち!」


 彼女に近付きボールを要求すると、近距離でパスを受けて反転。

 眼前には、2人のディフェンスが迫る。


 その間を縫うようにパスを前に出す。

 サイドを駆け上がる千秋が、そのボールに追いつきキープ。


 私へ寄せてきていたマークを置き去りにするように、私も走り出す。

 リターンパスを受ける為、ボールを持つ千秋が追い越そうとした時。


 ふと、サイドラインに立つ選手が視界に入った。


「楓っ!」

「!?しまっ……!」


 その人物に気を取られ、千秋からのリターンパスに歩調を合わせ損ねる。


 サイドラインを割りそうなボールに必死に手を伸ばす。

 なんとかボールに手を掛けたが、ボールをコートに戻すので精一杯だった。


 誰もいない場所で、ボールが弱々しく跳ねる。


「ルーズボールだ! 奪えっ!」


 誰かが発したその声に、一番近くにいた英修の選手が足を踏み出す。

 そこに――。


 ――っ!?


 ギャラリーの一角から、大きな歓声を上げる。


 身体を投げ出すように、濃紺のユニフォームを着た選手が飛び込んできたのだ。

 その背中に纏う4の数字が、ぐにゃりと不恰好に歪む。


 ボールにダイブしたのは、すばる高キャプテンの中村詩織さんだった。


 造りの良いその顔も苦痛に歪ませながら、青白いその手がボールを掴む。

 遅れて寄ってきた英修の選手が、そのボールを奪おうと手を伸ばす。


「たまっ!!」


 フロアに這いつくばりながら、その手を避けるように詩織さんはボールを放り投げる。

 弱々しく浮かぶそのボールを受け取ったのは、名前を呼ばれた人物。


 誰よりも早くサポートに駆け付けた安藤環さんが、そのボールを手にした。

 詩織さんから環さんにターゲットを変え、英修のディフェンスが襲い掛かる。


 その追撃を、環さんは華麗なターンで躱し、そのままドリブルで前へ。


 ゴール前には戻ってきたばかりの#34。

 仕掛けてきた環さんを見据えて、一歩前に出る。


(たま)っ! お願いッ!」


 環さんの背中を押すように、詩織さんが叫ぶ。


 一対一(1 on 1)


 ――制したのは環さんだった。


 右から相手の懐へ潜り込んだ環さんが、相手に上手く体をぶつけながらスペースを確保し、シュート。

 その機敏な動きに対応が遅れた#34は、後ろから抱きつくように手を出す。


 バックボードを叩いたボールがリングを通過。

 さらに、ピィッ!と強く短い笛の音が響く。


 審判が得点を認め、さらに#34のファウルを示す。


 バスケットカウント。

 すばる高に2点が追加され、さらに1投のフリースローが与えられた。


 ゴールを決めた環さんが、パチンッと自身の両手を叩き、右手で小さく拳を掲げる。



「ナイシュッ!」「やるじゃねーかっ!」「サンキューたまっ!」

 千秋が、飛鳥さんが、詩織さんが、環さんを囲む。


「詩織さん」


 私もその輪に加わり、ゴールを決めた環さんでは無く詩織さんに声を掛ける。

 詩織さんが振り向き、私に顔を向けた。


「……ありがとうございましたっ、ホント助かりました」

「!……うんっ!」


 一瞬目を丸くした詩織さんだったが、嬉しそうに声を弾ませる。

 そしてぐっと拳を握り、胸を叩くようなポーズを取った。


 その透き通る様に白い細腕には、飛び込んだ時に擦りむいたのか、赤い痣が出来ている。

 そんな痛々しい生傷とは対照的に、その表情は明るい。

 頬は桜色に上気しており、さっきまでの蒼白な顔とは見違えるほどだ。


 私のミスをカバーし、環さんのゴールへと繋がったのは、詩織さんのファインプレーだった。

 あそこでボールを奪われていたら、間違いなく失点している。

 詩織さんの頑張りが、失点を得点に変えたと言っていい。


「あと少し……頑張ろうっ!」


 そう言って、詩織さんは私の背中をポンと手のひらで叩いた。


 その眼前では、フリースローラインに環さんが立ち、その脇、フリースローレーンにもそれぞれの選手が移動する。


 ブーッ


 ブザー音が鳴る。


 幕張英修の選手交代だ。

 審判に促され、サイドラインで待機していた選手が、手首をくるくると回しながら駆け足で入ってくる。


 英修の13番、斎川睦が再びゲームに戻ってきた。




 **********



 すばる高ボールのフリースロー。

 これをシューターの環さんがきっちり決める。


 66-77。

 11点差、あとワンゴールで点差が一桁に戻るところまできた。

 エンドラインから入れられたボールを、交代で入ってきたばかりの13番の選手、斎川睦、チカちゃんが受ける。


「さぁー! 一本返そぉ!」


 受け取ったボールを右手でドリブルしながら、左手の人差し指を堂々と掲げる。

 ボール運びを彼女に任せたのか、英修の他の4人は攻撃に備え攻め上がっていく。


「ディフェンスッ!! 死守っ!」


 迎え撃つすばる高ディフェンスの先頭に立ち、後方のチームメイトに声を掛ける。

 逸る気持ちを抑えながらも、足は自然の前へと出ていく。


 間もなくして、ドリブルで持ち上がってきたチカちゃんと正対。


 私の目を真っ直ぐに見つめ、チカちゃんが笑う。


「そろそろ……決めさせてもらうからねっ」


 そう言った瞬間、体勢を低くし――仕掛けてきた。


「左っ!」


 その動きに合わせて動く。

 簡単に抜かせない。

 ドリブルする方向を限定し、それを後方に伝える。


 抜けないと判断したか、チカちゃんは寄ってきた仲間にパス。

 しかし、そのパスはやや弱くふわりと滞空する。


 それをチャンスと見た千秋が、相手の前でカットしようと出足良くアタックを掛けた。


 その瞬間――。


「ターン!」


 チカちゃんがそう叫ぶと、パスを出された選手はギリギリのタイミングで千秋よりも先にボールに触り、

 そのまま体を入れ替えるようにくるりと前を向いた。

 まんまと釣られる形となった千秋を置き去りに、フリーになってしまった。


 英修の選手達が一斉に動き出す。


「ちっ!」


 同様に動き出したチカちゃんのマークを捨てるわけにはいかない。


 ドリブルで突っかけてきた選手に対応したのは、一番近くにいた環さんだ。

 咄嗟に自身のマークを捨て、ボールホルダーに向かう。


 それぞれのマークがズレて、さらにフリーの選手が生まれる。

 その隙を英修は見逃さない。


 ゴール前でパスが繋がり、シュート。


 66-79。

 英修が2点を返す。


「スマンッ!」

「オーケー! 切り替えましょうっ!」


 守備の綻びを作ってしまった千秋が謝ると、即座に詩織さんが返す。

 良く声が出ている。

 前半には無かった光景だった。


「ドンマイです!」

「まだ時間あるよっ! 焦らずいきましょう!」


 ベンチからも声が届く。

 詩織さんだけじゃない。

 試合に出ている私達も、ベンチで見守るメンバーも、誰一人、この試合を諦めていない。


 エンドラインから、詩織さんが私にパスを入れる。


 ボールを受けてすぐに前を向き、ドリブルを開始する。


 その私に張り付くように、チカちゃんが身体を寄せてくる。

 構わずテンポを上げて進む私を、サイドに追い込むようにしながら、そのスピードに付いてくる。


「楓っ! こっち!」


 千秋の声が耳に入る。

 ハーフラインを超える手前で急停止し、ちらりと千秋の方へ体を向け―その動きをフェイクに、再び加速。ところが――。


「っ!?」

「きゃっ!」


 急加速した私の前にチカちゃんが立ちはだかっていた。

 正面からぶつかり、私に押されたチカちゃんが声を上げながらバタリとフロアに尻をつく。


 審判の笛が鳴る。

 オフェンスファウル。

 ファウルを取られたのは私の方だった。


「っ……」

 声にならない声が漏れる。

 ……痛恨のターンオーバーだ。


「痛ったぁ……」

 そんな私を横目に、お尻を撫でながら立ち上がるチカちゃん。

 そんな彼女を、英修の選手達が囲み、労う。


 悔しさが込み上げ、反射的にチカちゃんを睨みつける。


 そんな私の視線に対し、彼女はまた不敵な笑みを浮かべたのだった。


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