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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
58/85

056 白熱

なんか長くなってしまった…!

 

 国府台昴と幕張英修の試合は、第1Qを終えて19-31。


 英修の12点リードで2分間のインターバル、休憩を迎えたところだ。


 英修のプレスディフェンスに圧倒され、点差を広げられる展開は、葵の投入によって何とかギリギリ踏みとどまる事が出来たけど、ベンチの空気は決して明るくない。


 劣勢には変わり無いからだ。


 葵の投入は攻撃面では効果的だったと思う。


 相手が仕掛けるオールコートプレスに、ボール運びすらままならかった状況は改善されたし、ボール運びに苦戦していた千秋をそのプレッシャーから解放した事で、千秋が持つ得点力を生かす事にも繋がった。


 けど、ディフェンス面では問題が残る。


 攻撃の時には、抜群のスピードとクイックネスを見せる葵も、守備時にはどうしてもその体格がハンデになる。


 当然、英修はその弱点を付いてくる。


 145cmしかない葵は、誰をマークしても高さのミスマッチが生じてしまう。


 葵の頭上はパスの直通状態だ。


 そのパスの先にいる選手がまた厄介。


 英修最大のストロングポイント、背番号34を付けた留学生選手、リタ・イドバーエヨバ。


 英修は彼女のポストプレーを中心に攻撃を組み立ててきた。


 彼女には、ウチで一番背の高い環さんがマークについているが、そんな環さんを以てしても抑えることが出来ない。


 それだけ、相手のフィジカルは圧倒的だった。


 反則だろ、あれ……と、思いっきり愚痴を零したくなる。


 センターの選手にはまず第一に高さとパワーが求められる。


 相手のイドバーエヨバは、テクニック自体はイマイチでも、身体能力で圧倒してしまう。


 県大会レベルで彼女のような選手と対戦する機会は滅多にない。


 高い身体能力とバスケセンスを持つ環さんでも、いきなりあんな選手と対戦して抑えろというのは、ちょっと無理な話なのだ。


 そもそも、日本の女子バスケには高さと強さを兼ね備えたインサイドプレーヤーが圧倒的に少ない。


 環さんクラスでも他のチームからすれば歯軋りしながら羨む存在だろう。


 留学生選手が高校バスケ界を席巻する理由が良く分かる。


 そんなセンター対決の趨勢は、ディフェンスだけでなく、オフェンス面でもネカティブな要素だ。


 第1Qでの環さんの得点はゼロ。

 すばる高にとって、環さんは貴重なスコアラーでもある。

 ここまでの試合も、私と環さんの二人で得点を重ねてきた。


 私がダメなら環さん、環さんがダメなら私。


 得点源が二つある事で、ダブルチームのような対策を取られても、跳ねのけられる。


 環さんがイドバーエヨバ一人に抑えられている状況は、そのまま私への負担が大きくなる事を意味する。

 私には途中から、英修の1番、初瀬巡がフェイスガードを仕掛けてきていた。

 私がボールを持っていなくても、決して私から目を離さず、密着してくる。


 勿論、まったくマークを外せないワケじゃないけど、マークを振り切ってボールをもらうために運動量が多くなるし、体力的な消耗は覚悟する必要がある。


 何より鬱陶しい。


「さて、そうは言っても負けてる状況だし。 このままじゃジリ貧よね。 何か手を打たないと……、詩織」


「……はい」


「キャプテンとして、何かあるかしら?」


 先生が詩織さんへと話を振る。


 詩織さんはこの試合に先発として出場したものの、相変わらず動きに精彩を欠き、葵に代わってベンチに退いている。


 そのせいか、表情はメンバーの中でも飛びぬけて暗い。


 麻木先生は、詩織さんの意見が聞ける場面では必ず彼女に意見を求める。

 

「えと……、すみません……考えが上手く……」


 自信なさげに口を開く詩織さん。


 そりゃそうだ。

 ぶっちゃけ詩織さんにリーダーシップなんて求めるだけ無駄。

 加えて、あんな精神状態。

 あの人から有効な策なんて期待出来るわけがない。


 インターバルの時間は短い。

 ぐずぐず話してる暇なんてないのに。


 そう思い、無理やり会話の主導権を握ろうと思ったら――。


 ふうっと息を吐きだした麻木先生が、詩織さんから視線を切り、私より先に口を開いた。



「仕方ないわね。 じゃあ私から」


 そう言って、先生がプランを口にする。

 やれやれ、と言った感じで話し出した割に、生き生きと語り出したその内容は、簡潔で分かりやすいものだった。

 

 だったんだけど……。


「……大丈夫ですか? それ」

「練習でもやったことないけど……」

「でも……このままじゃ負けるだけだしなー……」


 その内容を聞いたメンバーからは、不安の言葉が次々と口に出る。


「大丈夫じゃないけど大丈夫よっ! ね? 楓」

「え、なんで私に振るんすか……?」


 急に私に同意を求めてくる先生。

 でも……。


「そうですね、上手くいくかは別として……」


 自然と口元が緩む。


「嫌いじゃないですね」


 


 


 **********


 

 インターバルを終え、両チームの選手が再びコートへと戻る。


 すばる高に選手変更はなし。

 英修側も顔ぶれを見る限り、選手交代はないようだ。

 


 英修ボールのスローインで、第2Qが開始。


 スローワーの私が葵にパスを入れると、私には#1のマンマークが付き、他の4人はゴール前でゾーンを形成した。


 ハーフコートでのディフェンス時、英修は「ボックスワン」と言われるゾーンシステムで守ってくる。


 ウチの場合は私だけど、得点源となる選手を抑える事を目的としたシステムだ。


 英修がすばる高の事を、私のワンマンチームと認識している事が分かる。


 そんな英修の選手達も、すぐに私達の変化に気付く。


 すばる高はボールを持つ葵、アウトサイドプレーヤーの千秋、私に加えて、飛鳥さん、センターの環さんまでが、アウトサイドにポジションを取っていた。


 私をマークする初瀬巡は、こちらの配置を確認すると、ふんっ、と鼻で笑うように声を漏らす。


「随分思い切りがいいじゃないか」



 私だけを視界に捉えながら、煽るような口調で、初瀬巡が話しかけてきた。


「そりゃ、どーも……」


「君らは……そんな付け焼刃の攻撃が通用すると思っているのか?」


 初瀬巡は尚も話しかけてくる。

 なんだこいつ。

 意外とお喋りだな。


 そう思いつつ、言葉を返す。


「さぁ……どうでしょ」


 そう言った後、私はすっと自分のいたポジションを空ける動きを入れる。


 私が動いた事で出来たスペースには、コーナーから環さんが走り込む。

 そこへ葵からパスが出る。

 ボールは環さんへと渡った。


 ふうっ、と一気に息を吐き、環さんがドリブルを始める。

 その動きを見ながら。


「知ってます?」


 ポジションを移す私にも、ピタリとくっつき離れない初瀬巡。

 そんな彼女に対し、今度は私から言葉を贈る。



「センスのある人は、何をやらしてもだいたい出来ちゃうんですよ」

 



 私が言い切るや否や、環さんがドライブを仕掛ける。


 が、その進路には相手の包囲網。


 スリーポイントラインを越えて守備範囲に侵入してきた環さんを、ゾーンを敷く英修のディフェンスが迎える。


 二人がかりで進路を塞ぎ、環さんの侵攻を阻む。


 そんな相手の前で、環さんはくいっと体の向きを斜めに変えると――。


 タタンッ、と跳ねるように後方へステップバック。


 重心が後ろにかかっていたディフェンス二人との間に、再び距離が生まれる。


 環さんはそのままボールを持ち替え、ジャンプシュートを放った。


 ただでさえ背の高い環さんの、ステップバックからのシュート。


 ブロックなど到底無理と悟った英修の選手は、環さんの手から放たれたボールの軌道をただ見送る。

 

 ガコンッ、と力強くバックボードを叩いたボールが、リングへと吸い込まれていく。


 21-31。


 第2Q最初の得点を、すばる高が奪った。


「「ナイッシュー!」」


 味方の、祝福の声が重なる。


「ほら、ね?」


 ボールの行く末を見ていた初瀬巡に対し、そんな言葉を口にすると、親指を立ててサムアップ。

 リアクションを待たずして、私はバックコートへと引き返した。



 環さんをインサイドではなく、アウトサイドで勝負させる。

 麻木先生の作戦だ。


 勿論、確かな勝算があっての策では無い。

 練習でも試したことはない。


 どうせインサイドで思う様にプレーさせて貰えないなら、思い切って外でプレーさせてみる。

 そんなダメ元の策だったけど。


「よく決めれましたね」

「君が練習でやってたプレイを真似てみただけだったんだが……、思いのほか上手くいったな」


 帰りしな、環さんにそう声を掛けると、そんな答えが返ってくる。


 確かに、私も良く使うスキルではあるけど……見真似で上手くいくほど、簡単なプレーじゃないんだけどなぁ……。


 シュートが入ったのは幸運もあっただろうけど、一連の動きにはまったく淀みが無かった。

 この人の運動神経とセンスには、ホント驚かされる。


「さぁ、ディフェンスだ! 一本止めるぞ!」


 環さんが声を張り上げる。


 普段からして表情に乏しい人だけど、その顔はわずかに紅潮していた。

 ようやく一本決めたことで、以外にも昂ぶっているのかもしれない。


 得点の喜びもつかの間、英修の選手達が攻め上がってくる。


 今度は英修のオフェンスを受ける番だ。

 そのディフェンスにも、第1Qからの変化がある。

 ボールを持ちあがる相手のポイントガード、初瀬巡マークに付くのは私。


 そしてもう一人。

 これまで環さんがマークしていた相手のセンター、#34 リタ・イドバーエヨバには飛鳥さんが付く。


 私と葵、環さんと飛鳥さんのマークを入れ替えた形。


 初瀬の前、じりじりと彼女との距離を詰めていく。


「愚かだな」


 近づく私に、初瀬が吐き捨てるように言う。


「マークを変えたぐらいで、リタを止められると思ってるのか?」


「どうでしょね……それも……」


 初瀬が右、左とドリブルでボールを動かす。



「やってみなくちゃ分からないっ!」

 

 初瀬がドライブを仕掛ける。

 横ステップで、その進路を塞ぐと、相手はくるりとターン。

 ボールを引き出すように顔を出した#7へパスを出した。


 #7には葵が付く。

 相手が変わっても、葵にとって高さのミスマッチは解消されない。


 #7は、その葵の頭上を越えるパス。


 パターン通りの攻撃で、ハイポストにポジションを取る#34にボールが入った。


 隙あらばターンする機会を伺う#34の背中を、そうはさせまいと飛鳥さんが全身で受け止める。力押しにもギリギリ負けていない。


 そこへ、環さんが寄せる。

 二人で挟むように#34を囲み、ボールを奪おうと手を伸ばす。


「出せ! リタ!」


 初瀬が指示を飛ばすと、#34は、ボールを持つその長い手を頭上高く伸ばし、周囲を見る。


 やがて、完全にフリーとなった#8を見つける。

 本来、環さんがマークを担当する相手だ。


 #34から#8へと、天から落とすようなパスが出る。

 #34からボールが離れるや、一転して環さんは#8のマークへと戻る。

 ゴール下へ走り込んだ#8がそのボールを受けシュート体勢を作るが――。


「!?」


 その手から離れるボールに、身体を伸ばした環さんが手を伸ばす。


 わずかに触れたか、軌道の変わったシュートは、リングに弾かれた。


「リバウンド!」


 落ちてくるボールに両チームの選手が群がる。

 リバウンドを取ったのは、好位置をキープした飛鳥さんだった。


「飛鳥っ!」


 相手の追撃の手を凌ぎ、飛鳥さんは近くにいた千秋にボールを預ける。


「楓っ!」


 ボールは千秋さんから私へ。


 私に寄せる#1初瀬がスティールを狙うが、一歩早く前に出てそれを阻止。


「そっこ――!」


 葵の指示を聞くよりも早く、ボールを得た私は、くるりと反転してドリブルを開始。


 下がりながら、必死に食らいついてくる初瀬巡を片手で制し、スピードに乗る。


 次の一歩で置き去りにするし、完全に抜け出した。


 こうなれば私の得点パターンだ。


 フロントコートには、素早く帰陣したディフェンスが待ち構えているが、関係ない。


 一人、二人と躱し、シュートを決める。


 23-31。


 連続ポイントで。点差を再び一桁台に戻す。


 英修も黙ってはいない。

 再び、#34を起点としたポストプレーから、今度は強引なターンで仕掛ける。


 食い下がる飛鳥さんを無理やり下し、ゴール下からのシュートを決め返してきた。


 そこからは、一進一退の攻防が続く。


 すばる高が点を取れば、英修が取り返し。


 英修がすばる高の得点を阻止すれば、負けじとすばる高が守りきる。

 すばるが善戦している、といって良い展開だ。


 ディフェンス時、#34に対しては、飛鳥さんと環さん、二人で対応する。


 飛鳥さんが先生から託された指示は#34にターンをさせない事、これだけだ。


 #34はその圧倒的な高さとパワーで、英修の攻撃の起点となるが、プレーのパターンは少ない。ハイポストかローポストでボールを受けて、味方にパスを出すか、ターンしてイージーショットを狙うか。


 そのパターンの内、失点に直結するターンからのプレーを抑える。

 それだけに飛鳥さんを専念させる。

 パワー勝負なら、飛鳥さんも負けていない。

 加えて、ボールが入った時には必ずもう一人がダブルチームに行く。


 その役割を主に担うのが環さんだ。


 簡単に言えば、飛鳥さんを#34のマークに専念させ、環さんが#8と#34の両方をカバーする。


 それでも#34を完全に抑える事は出来ないが、第1Qに比べてディフェンスは格段に安定した。


 すばる高がじわじわと、その点差を詰めていく。


 ――そして。


 すばる高ボールのオフェンス。


 葵がフロントコートへとボールを運ぶと、すばる高の5人は全員がアウトサイドにポジションを取る。


 英修はオールコートプレスがハマらないと見切ったか、第2Qからは通常のハーフコートディフェンスに切り替えている。


 私には相変わらず、#1初瀬がフェイスガードで付く。


 タイトなマークが付く私をフリーにする為、飛鳥さんがスクリーンをかけてくれる。


 それを利用し、マークから逃れた隙に、パスが来る。


「スライド!」


 すぐに#1が私に付き直す。


 五人全員がアウトサイドに出ているお蔭で、中にスペースが生まれていた。


 一対一が仕掛けやすい状況。

 ボールを受けると、すぐにドリブルを開始。


 クロスオーバーで揺さぶり、ドライブで切り込む。


「ヘルプ!」


 スリーポイントラインを越え、中に侵入すると、すぐにヘルプのディフェンスが体を寄せてくる。


 ディフェンスとディフェンスの間に体をねじ込むように捻り、さらに踏み込んでいく。


 そのままボールを持ち、ステップを踏む。

 ゴール下、最後の砦として守る#34が、その長い手をこちらに伸ばしてくるがーー。

 そのブロックの手を掻い潜り、ボールをリングに向けて送り出す。


 ボールはやがて、音を立ててネットを揺らした。


「っしゃっ!」


 小さくガッツポーズ。

 33-37。


 これで2ゴール差だ。


 ブ――ッ。


 ブザーが鳴る。

 英修が、後半2回目のタイムアウトを取った。


 


 


 **********



「よーしよしっ! 作戦大成功ねっ!」 


 第2Qが終了し、ハーフタイムを迎えた。


 スコアは41-44。

 すばる高が遂に3点差まで詰め寄ったのだ。


 


 流れは完全にウチのペースだ。

 インターバルの時と違って、控室での雰囲気も明るい。


「あ゛―、しんどー」

「大丈夫? お姉ちゃん」

「大丈夫大丈夫、まだまだいけるっ」


 千春が姉の千秋に声を掛ける。

 第2Qの攻勢には、千秋の貢献も大きい。


 アウトサイドでのプレーに専念してからの千秋はシュートが当たり、2本の3ポイントを沈めている。


「今頃相手の1番、怒り狂ってるかもねー」

「あいつの顔見た? マジ真っ赤にしてキレてたし」

「見た見た、マジ笑だわー!」


 夏希さんと理香さん、二年のギャルコンビが、相手を揶揄するように笑う。

 ……暢気ですね、あなた達は。


 相手の1番、ポイントガードの初瀬は、第2Qの出来にかなりフラストレーションを溜めているようだった。

 私の相手に手を焼き、リズムを崩したのか、シュートも当たっていない。

 彼女のシュートがことごとく入らなかったことも、英修が第2Qで失速した要因だ。

 チームとしても誤算だっただろう。


「環、飛鳥。 二人と良く頑張ったわっ」


 麻木先生が二人を労う。

 第2Qは何よりも、この二人の活躍が大きい。

 環さんは第1Qとは打って変わり、攻守に存在感のあるプレーを見せ、飛鳥さんは体を張って相手の留学生を止めてくれた。


「ただ、飛鳥。 もうファウル3つだから気を付けて頂戴っ。 環も。 今あなた達が抜けるのはマズイからね」


 麻木先生の言うとおり、相手の攻撃を凌ぐ代償として、二人はファウルが嵩んでいた。


 飛鳥さんが3つ、環さんが2つ。


 バスケでは、1人が合計5つのファウルを取られると、5ファウルで退場処分となる。

 チームを支える二人がこの試合から抜けてしまうと、ウチはかなり苦しくなる。


「楓ちゃんも、大丈夫ですぅ? すごいいっぱい動いてたけど……」

「……(コクッコクッ)」


 私を心配してか、同じ一年のブンちゃんと静ちゃんが声を掛けてくれる。

 ブンちゃんの言うとおり、相手のフェイスガードを剥がすために、私はいつも以上の運動量を強いられていた。 だけど……。


「全然っ。 むしろ身体が温まってて絶好調って感じ?」


 強がりで言っているワケではない。

 本当に調子が良かった。

 一試合目を適度に力抜いてプレーしたのが良かったのかもしれない。

 いい感じにエンジンがかかった状態というか。


「さぁさぁ、この調子で後半もいくわよっ!」

 ハーフタイムの終わりが近づき、麻木先生がハイテンションで盛り立てる。


 後半残り20分。

 このままいければ、充分に勝機はある。


 さて、いくか。

 そう思って立ち上がった時だった。


 ――あれ?


 異変を感じる。


 足が、腕が、全身がダルい。


 なんで? さっきまでは、なんともなかったのに……。

 身体に感じる違和感に動揺する。


 すると、心臓の音がドクドクと音を立てていることに気付く。

 その音を自覚してしまうと、益々鳴り止まずに大きくなっていく。


「……楓?」


 私の様子を不審に思ったのか、千春が声を掛けてくる。


「どーした?」

「……別に? 何か変?」

「いや、変なのはいつもの事だけど」

「おい!」


 そんなやりとりを交わすと、鳴り響いていた音がやわらいでいった。


 大丈夫。

 まだいける。


 そう自分に言い聞かせ、私は歩みを進めた。


 


 


 **********


 後半開始に備え、会場へと戻る。


 一足先に、英修の選手たちが戻ってきていた。


 後半の指示を聞いているのか、コーチを囲む一団の中には、5人のユニフォーム姿の選手達が見える。

 やがて英修の選手たちは円陣を組み、体育館に響く高い掛け声をあげた。


 その内の一人に、自然と目が留まる。


 すらりとした均整の取れた体型に、「13」と表記された英修のユニフォーム。

 後ろ姿から除く横顔からは、大人びた印象を受ける。


 円陣を解き、ばらばらとユニフォーム姿の5人がコートへと出てくる。


 13番を付けた選手と、目が合った。


 すると、大人びた表情は一転、無邪気で幼い表情に変わる。


 忘れていた。


 英修にはまだ、チカちゃんがいるんだ。


 斎川(ちか)


 彼女がついに、コートへと出てきた。



 

 

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