表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
56/85

054 模索

ベンチから。

櫛引千春視点です。

 

「遅いよぉ!」



 ベンチへと戻ってきた楓が、レイラちゃんこと、顧問の麻木先生に向かって開口一番、声を張り上げた。


「わ、悪かったわね。 そんな怒んないで頂戴よ……」

 レイラちゃんが謝りながら、楓をなだめる。


 スポーツタオルを手に取り、乱暴に汗を拭う楓。


 顔を紅潮させ、かなりイライラしているのが分かる。


 現在のスコアは10-16。


 序盤こそリードを奪った私達すばる高だったが、対戦相手の幕張英修高が請求したタイムアウト後から流れが一変。

 積極的なオールコートプレスから一気に14点を奪われ逆転。

 その間、すばる高の得点は楓が強引なドリブルでプレスを突破して奪った2点のみ。


 相手のオールコートプレスを攻略できず、ボール運びすらままならない状況。

 そんな展開に、たまらずタイムアウトを取ったレイラちゃんなんだけど……。


「とにかく、焦っちゃダメ。 慌てちゃダメ。 パニックになったらダメ。 落ち着いて、でも早くパスを回して打開よっ。 それから環、中央でポストに入って。 34番はともかく、他の子が相手なら高さで勝る環なら、無理せずパスを捌けるハズよっ。 ……それから、ええとっ……」


 レイラちゃんが攻略の手立てを説明していく。

 タイムアウトの時間は長くない。

 説明にもたついている内に、あっという間にその時間は終わりを告げる。


「ああっもうっ! とにかく、皆頑張って動いて、周りを良く見て、冷静にパス繋いで打開しなさいっ! はい、いってらっしゃい!」


 再開を告げるブザーに急かされるように、レイラちゃんが選手達を送り出した。


「……参ったわね」


 ドカリとベンチに座り、ため息を漏らすレイラちゃん。


「大丈夫かなぁ……皆さん……」

「……(ふるふるッ)」


 一年生のベンチメンバーであるブンちゃんと静香も、コートに出た選手たちを不安そうに見つめる。


 ここで流れを変えられずにリードを広げられてしまうと、勝負が決まってしまう。

 すばる高にとっては踏ん張りどころだ。


 審判が、エンドラインの外へ出たお姉ちゃんへとボールを渡す。

 レイラちゃんの指示通り、センターの安藤環さんがバックコート中央へと動く。

 そこへパスが入り、試合再開。


 レイラちゃんの言う通り、環さんが背の高さを生かしてボールを受けたが、環さんからパスを受けた詩織さんの所で詰まり、ボールをロスト。


「ああっ! もうっ……!」

 レイラちゃんが、頭を抱える。


 奪った相手選手がそのまま持ち込み、レイアップで加点。

 状況は変わらない。



 すばる高サイドでのリスタート。

 ボールは再び環さんの元へ。


「こっちっ!」

 ボールを要求すると同時に、楓が動く。


 そこへボールが入る。

 淡々とした様子で、英修の選手がプレスの矛先を変える。


「!? 飛鳥さんナイスっ!」


 そんな楓へのプレスを遮ったのは飛鳥さんだった。

 楓の進路を確保するように、自陣でスクリーンを掛け、相手のプレスを乱す。

 その隙を付き、楓がドリブルで突破。


 速攻のチャンス。


 プレスの最前線を突破した楓へ、後方で待機していた相手選手がカバーに入る。

 激しく身体を寄せに来たディフェンスに対し、楓はボールを持ち替えて躱そうとするが……。


 ピィッ!


 鋭い笛の音が響く。

 審判が、楓に対する相手選手のファウルを宣告。


 ファウルを取られたにも関わらず、その選手を労う様に明るく声を掛けあう英修の選手達。

 対照的に、ファウルを貰った楓は、悔しげに唇を噛む。


 前線に人数を掛ける英修のオールコートプレスは、突破を許すと、失点のリスクが一気に上がる。

 そのプレスのファーストラインをようやく突破した楓にしてみれば、得点チャンスをファウルで上手く潰された形だ。


 それでも、すばる高はボールを失ったわけではない。

 すばる高ボールのスローインで試合が再開される。


 楓がボールを入れ、お姉ちゃんがそれを受けた。

 英修の選手達は、既に全員が自陣に引いていた。

 #1が楓にマークに付き、他の4人はペイントエリア付近でゾーンに構えている。


 ボールを持つお姉ちゃんが迷う。

 楓がピタリとマークされていて、パスが出せない。

 ボールを求めて楓が動いても、#1は離れず付いていく。



 結局お姉ちゃんは、右のアウトサイドに出た詩織さんへパス。

 詩織さんがボールを持つと、ギャラリーから歓声が上がる。


 英修は陣形を乱さない。

 どうぞ撃ってくださいと言わんばかりに、詩織さんにボールを持たせて中を固める。


「詩織! 撃て!」


 環さんの声が飛ぶ。

 その声に反応し、詩織さんがシュートを放つが……。


 ガンッ! 


 ボールはリングに弾かれる。

 そのリバウンド争いを制したのは英修。

 #34が環さんを抑え、ボールを確保した。


 リバウンドからの速攻を英修が決め、10-20。

 点差が二桁に広がる。


 すばる高の攻撃の中心は、誰が見ても楓だ。

 実際、ここまでのすばる高の得点は全てが楓によるもの。

 エース選手を封じようという守り方は、これまでの対戦相手も当然取ってきた手法でもある。


 楓が抑えられた時に、すばる高が頼りにしてきたのはセンターの環さんだ。

 でもそんな環さんも、ここまでは相手の留学生センターを相手に、まったく良いところがない。


 そして英修は再びオールコートプレスの構えをみせる。

 パターン化された英修のディフェンスに、すばる高は簡単にボールを失い、失点を重ねていく。


 私が出れていれば……。

 そんな言葉が頭に浮かぶ。


 ボールを運ぶのは本来、ポイントガードの仕事だ。


 お姉ちゃんを責める気持ちは無いけど、私ならもっと上手くやれるという思いはある。

 チームの苦境に、楓が苦しんでいる時に、力になる事が出来ない自分が情けない。

 自然と、両手の拳に力が籠る。


 英修がさらに得点を重ね、10-22。

 点差が広がっていく。


 その直後、レイラちゃんがベンチに座るメンバーの方に顔を向けた。


「葵!」

「へ? あたしかー?」


 呼ばれたのは、一際小柄な少女。

 一年生の高木葵だ。


 レイラちゃんは立ち上がり、葵を近くに呼び寄せた。

 近くへと寄る葵に対して口を開く。


「詩織と交代でいくわよっ! 準備して」


 葵に対し、交代の意志を告げる。


「おー、マジかぁ……」


 手早く上着を脱ぎ、ユニフォーム姿になる葵。

 そんな葵の肩に、レイラちゃんがガシっと腕を絡める。


 背の小さな二人。

 メンバー中で唯一、レイラちゃんが肩を並べられる相手が葵だ。


「葵の仕事は一つ。 とにかく無事にボールを運んで」

「う、うす。 大丈夫かなぁ……」


 不安を口にしながらも、葵の表情は変わらない。


「葵の一番良いところを出してきなさい。 大丈夫! 葵なら出来るっ!」

「ちゅ、抽象的だなぁ……」


 レイラちゃんの言葉に、葵は苦笑いを見せた。


「私には分かるわっ! 大丈夫! あんたのボールハンドリングとすばしっこさがあれば、相手も簡単にはボールを奪えないわ。 いつも通り、落ち着いてチームを助けて頂戴。 ……チビッ子魂、見せてきなさいっ!」


「お、おー!」


 無理矢理と言うか、葵が控えめに拳を突き出し、気勢をあげる。

 その後、オフィシャルの元へ交代を申告しに行った。


 葵の起用は良いかもしれない。

 むしろ現状の打てる手としては、それしか無い。


 レイラちゃんの言うとおり、葵はボールハンドリングのスキルが高い。

 身長は低いが、それを生かした重心の低いドリブルは小回りが利き、ディフェンスとしては奪いにくいはずだ。

 スピードもあり、ボールの運び役としては適任だと思う。


「葵!」

「頑張ってですぅ!」

「(ふんっふんっ!」


 その名を呼びエールを送ると、呼応するようにブンちゃんと静香もエールを送る。


「おー!」


 葵は笑いながら、ドンと胸を叩いて見せる。


 葵の最大の武器は、この明るさだ。

 きっと流れを変えてくれる。



 ゲームが途切れ、交代のタイミングを得る。

 その直後、ブザーが鳴った。



「んじゃ、行ってくるぜー!」


 こちらを振り向き、笑顔を見せる葵。

 詩織さんに替わり、葵が交代でコートへと足を踏み入れた。


交代の描写を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ