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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
55/85

053 猛威

戻ります。

茅森楓視点です。

 

「グッドよ!」


 ベンチに戻ってきた私達を、麻木先生が拍手しながら迎える。


 スコアは7-2。


 格上の幕張英修に対し、すばる高が5点のリード。

 さらにこの後、私のフリースローから再開なので実質6点、3ゴール差だ。


 その得点は全て、私が上げたものだった。

 自分でも調子の良さを自覚している。

 一回戦、流してプレーしたのが良かったのかも。


 そうそう、絶好調の時ってこんな感じだったよなぁ。

 自分の意のままに身体が動いてくれる感じ。

 まぁ、それでも【モノクロゾーン】状態と比べちゃうと物足りなさはあるけど。

 上手く表現できないけど、アレはなんというか別の自分が自分を“操作”してる感じに近い。


 何より、自信が無かったワケじゃないけど、改めて私のプレイが通用する事を確信出来た。

 まだ序盤とはいえ、ここまでは英修相手でも全然やれてる。

 問題は……。


「ここまでは上出来ね! ただ、こっから先は……」

「向こう、対策してきますよね?」


 麻木先生に向けて、言葉を挟んだ。

 それに対し、先生が言う。


「そうね、このままって事はないでしょうね。 どんなヘボコーチでも、とりあえず楓のマークを厳しくするでしょ」

「マンマークで来ますかね?」

「そうね。 ただ、向こうの7番じゃ分が悪そうだし、思い切って選手変えてくるかもしれないわね」


 先生のその言葉に、チカちゃんの顔がよぎる。


 斎川(チカ)


 相手のコーチがチカちゃんをどう評価しているか知らないけど、一対一でマークさせるつもりなら、私なら迷いなく彼女を使う。


 もし、チカちゃんが私のマーク役として出てきたら、ここまでのように自由にはやらせてもらえないだろう。


「もし選手変えるなら、オールコートディフェンスは諦めますかね?」

「そうでしょうね。 ……あの子があんな統率の取れたディフェンス練習してるワケないでしょうから」


 私と麻木先生が同時に相手ベンチに視線を移す。

 その先に移る人物は多分、私と同じだろう。


「なんかよくわかんないけど、なんか指示ないの? レイラちゃん」


 二人で話す私たちを見かねてか、千秋が間に入ってきた。


「指示? ないわよっ。 このままガンガン行きなさいっ!」


 無いのかよ……。

 あんだけ私と予測話をしといて……


 千秋もガックシと大げさに肩を落としていた。

 そうこうしている内に、タイムアウトの時間もあと僅かとなっていた。


「飛鳥さん」

「あ?」


 タイムアウトが終わる前に、私は飛鳥さんに寄って話しかける。


「オフェンスの時なんですけど、私がボール持ったら、近くに来てくれませんか? スクリーンかけてほしい欲しいんです」


 多分、マンマークが付いたらさっきまでのようにはいかない。

 私をフリーにするプレイを、飛鳥さんにお願いする。


「そりゃ出来んならやるけど、タイミングとかわかんねぇぞ?」

「それとなくこっちから目と手ぶりで指示出しますんで」

「分かった。 上手く出来なくても怒んなよ?」


 飛鳥さんがポン、と私の肩を叩く。


 この人のこういうところ、ホント好き。

 このチームの中で、私が一番信用しているのは、実は飛鳥さんだったりする。

 やんちゃな見た目してるけど、プレーは堅実だ。

 何より、自分が出来る事と出来ない事の分別がはっきりしているのが良い。

 チームメイトとして、計算が立てやすい。

 飛鳥さんならきっと、()()()()()()()プレーしてくれるはずだ。



 タイムアウトの終わりを告げるブザーが鳴る。


「さぁ! この調子でいくわよ! いってらっしゃい!」

 先生がコートに戻る五人に激を飛ばす。


 パン、手を叩き、ベンチを背にしくコートへと戻っていく。

 さぁ、勝負はここからだ。



 **********



 私のフリースローから試合が再開される。

 きっちり決めて、8-2。


 英修ベンチに動きはなし。

 メンバーチェンジは無いようだ。


 その英修の攻撃。

 これまでと同じように、#1を中心にボールを回しながら揺さぶり、最後はインサイドの#34で勝負。

 環さんのマークをかいくぐって、#34がゴール下のシュートを決めた。

 これで8-4。


 英修の変化はここからだった。


 ゴールを決めた英修の選手たちは、やはり自陣には引かず、4人がこちらのコートに残る。

 ただ、そのポジショニングがさっきまでとは違う。


 エンドラインから入れたボールを千秋が受けたその瞬間、#1と#7が猛然とプレスを掛けに行く。


「やばっ!」

 千秋が思わず声を漏らす。


 あっという間に二人に囲まれた千秋が、ボールを取られまいと、体を捻り、上下左右に持ったボールを逃がす。

 しかし……。


 ピッ!

 短い笛の音。


 審判が左右の腕をくるくると回す。

 トラベリングだ。


 相手のプレスに耐えかねた千秋の足が、動いていたという判定。

 英修ボールになってしまう。


「ゴメン」

「オーケー、切り替えっ!」


 私に対して謝る千秋に、そう声を掛ける。

 

 サイドラインから、英修ボールのスローイン。

 スローワーの#1が、直ぐにリターンパスを受け、シュートを打つ。


 このシュートはリングに弾かれるが、リバウンドを相手の#34が奪取。

 そのままゴール下からシュートを決める。


 8-6。

 この試合まで、ゴール下では無双状態だった環さんが、完全に負けている。


 再び、エンドラインからのリスタート。

 やはり、英修の選手達はそのまま前に残る。


「千秋」

 拾ったボールを千秋に渡す。


 千秋のあの様子じゃ、まともにプレスを食らったらまた同じ事が起きてしまう。

 レシーバーとスローワーを交替し、私が受け手に回る。


「斎川が言っていたよ」


 リスタートに備えてポジションを取る私に、相手の#1が話しかけてきた。


 斎川? チカちゃんの事か。

 特に反応したつもりはなかったんだけど、動く私を追いながら、#1は器用に話を続ける。


「向こうのチームには自分と同じくらい凄い子がいる。 だから自分を試合に使えってね」


 あぁ、間違いなくチカちゃんだな。

 発言からチカちゃんらしさが出てる。


「ありえないと思ったが、嘘じゃなかったんだな」


 言葉を返すことなく動き出し、千秋からボールを受ける。

 その瞬間、#1と#7が私を挟むようにプレスをかけてきた。


「覚えたぞ、茅森楓(かやもりかえで)


 その言葉を合図に、二人が激しいディフェンスを仕掛けてくる。

 確かにこれはキツイ。


 ピボットを踏み、体勢を変えてからドリブルを開始。

 周りを見る。


 エンドラインから入ってきた千秋が、フォローに寄る。


 その千秋に、一旦ボールを預ける。

 さっきとは違って、今なら余裕を持ってボールを扱えるハズだ。


 千秋にパスを出した瞬間、今度は#22の選手が千秋にプレッシャーを掛けに寄る。

 さらに、#1が私のマークを捨て、即座に千秋に襲い掛かる。


 それでも、千秋には充分選択肢がある。

 今度は大丈夫のハズ。

 しかし、その判断は間違いだった。


 #1が襲い掛かってきた瞬間、慌てた千秋が、すぐに前方へパスを出してしまう。

 中央にいるのは詩織さんだったが、その詩織さんの手前でボールは相手の#8にカットされてしまった。


 ボールを奪われた詩織さんを置き去りにして、#8が攻めかかる。

 前線に残った三人は、すでにオフェンスに切り替えポジションを取っている。


 対するこちらは、私と千秋だけ。

 2対4の状況では、防ぎきれない。


 それでも、ここは出るしかないと、ボールを持つ#8にアタックしにいく。

 #8は当然のように、フリーになった選手へとパス。

 3ポイントラインの外で、#1がそのボールをドフリーで受けた。


「くそっ!」


 キュッと甲高いスキール音を響かせ、#8から、ボールを持つ#1のところへと進路を変えるが、どう見ても間に合わない。


 #1が、ゆっくりとシュートフォームを作り、両手からボールを放つ。


 外れろ!

 こうなるとシュートが外れる事に期待するしかない。

 シュートの失敗を祈り、ボールを目で追う。


 綺麗な回転のかかったボールは、綺麗にリングへ収まり、ネットを通過した。


 8-8。

 瞬く間に同点に戻される。


「千秋! 落ち着いて!」

 

 千秋に声を掛ける。

「スマン……」と、千秋から力ない言葉が返ってきた。


 再びエンドラインに千秋が出る。

 英修の選手たちはそのまま前線に残り、陣形を整えて構える。


 どうすればいい?


 地区予選でも、一回戦でも、オールコートのプレスを掛けてくるシーンは何度もあった。

 でも大半は試合が決まりかけたところでのイチかバチかというもの。


 オールコートプレスの対策なんて、練習じゃやっていないけど、相手のプレスの完成度も低く、難なく対処出来ていた。


 英修のプレスは、私も今まで体験した事のないレベルだった。

 本気で潰しにきている。


 イチかバチかじゃない。

 格上のチームが、格下を序盤で葬る為に仕掛けるプレス。

 こちらの練度の低さを見抜き、確実に勝てると踏んでぶつけてきている。


 このままでは、あっという間に差をつけられる。


 どうすれば――!


 頭の中の整理が付かないまま、千秋がボールを私に出す。

 

 英修が振るう猛威に、すばる高が飲まれていく。






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