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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
53/85

051 試合開始

 

「西きゅぅーん! 今日はよろしくにぇ~!」


 耳を疑うほどの猫なで声。


 試合前。

 オフィシャルズテーブルの前で、挨拶を交わす男女が二人。


 一人は金髪の幼女……もとい、ウチのバスケ部の顧問である麻木レイラ先生。

 もう一方はメガネをかけた長身の若い男性。

 多分、次の試合の相手である幕張英修高のコーチだ。


「ウチのチームがぁ~西君のチームと当たるなんてぇ~、思わなかったよぉ~! ……お手柔らかにお願いね?」


 どこから出してるんですかその声……。

 ウチで飼っている猫のカリーですら、そんな声出さないぞ。


「ははは……、失礼のないよう、全力で行かせていただきますよ……」

 若干声を引きつらせながら答える向こうのコーチが、右手を差しだす。


「むぅぅ、西君のいじわるぅ~!」

 対するウチの顧問は、精一杯のぶりっ子ぶりで答えながらその右手を掴んだ。


 挨拶を終え、こちらのベンチへと帰ってくる麻木先生。


「……チッ。 色仕掛けは失敗だわ」

 舌打ちして、大股を広げながらベンチにどかりと座る先生。


 色仕掛けだったのか……あれ。

 麻木先生の場合、本気でやってそうだから困る。


 それにしても、やりとりの感じ向こうのコーチとも知り合いっぽいし、麻木先生って意外とバスケ界隈の人脈が広いよなぁ。

 明青の女性コーチとも知り合いっぽかったし。


 そんなウチの顧問はさておき。


 二回戦の相手である幕張英修高は、今大会のシード校。

 ウチとの試合が今大会の初戦となる。


 その英修ベンチ前では、先生と話していた若いコーチを囲むように、白いユニフォーム姿の選手達が立つ。

 彼女達がスターティングメンバーかな。

 そのスタメン勢の脇から、ちらりとチカちゃんの顔が覗く。


 私の視線に気付き、チカちゃんが手を振ってきた。

 その表情は明るい。

 こちらからも控えめに手を振っておく。

 それを見て、チカちゃんがにこりと笑う。


「楓、英修に知り合いでもいんの?」

 そんな私の様子を不思議に思ったか、隣に座る千春が話しかけてくる。

 そういえば、千春には紹介してなかったな。


「あー、こないだちょっと知り合った友達がいてさ」

「ふーん。 あんたに他校の友達ねぇ……」


 それだけ言うと、千春は興味を失ったように英修ベンチから視線を戻す。

 それから一呼吸置いて、再び言葉を発する。


「勝てると思う?」

 シンプルな問いだった。


「うーん、どうだろ? まったくチャンスが無いとは思わないけど」

 千春の問いに、そう答える。

「楓にしちゃ随分控えめじゃない?」

「さすがに今までの相手とは明らかにレベルが違うからね……昨日観たでしょ? 試合の動画」

「まぁね」


 試合の動画とは、動画サイトにアップされている英修の試合を録った動画だ。


 英修に限らず、県上位チームの試合はネットにアップされていることも多い。

 チームのOBか、はたまた熱心なバスケファンか、多くは観客席から映されたもので、TV中継みたいに観易くはないけれど、プレイを確認するには充分な映像だ。

 英修については、順調に行けば二回戦で当たる事もあって、昨日千春の家で千秋を含めた三人でチェックしていた。


 私達が観た試合は、直近の新人戦の準決勝。

 麻木先生がミーティングで言っていた、明青学院との試合だ。


 スコアは74-69。

 明青が5点差で英修を下している。

 試合の印象で言えば、明青の辛勝。

 県内には敵なしといわれる明青学院を、英修が追い詰めた試合だった。


 英修の中で際立っていたのは、背番号34番の選手。例の留学生プレーヤーだ。

 187センチともいわれる長身に加え、抜群のフィジカル。

 ゴール下は完全に彼女の独壇場だった。

 明青の方にも180センチ台のセンターが一人いたけど、終始圧倒していたように見える。


 それから、ポイントガードを務めていた背番号1番の選手も印象的だった。

 確か、名前は初瀬巡だったか。

 何せ彼女が相手していたのは明青のエース、二宮二葉だ。


 U-16日本代表。

 世代ナンバーワンのポイントガード。

 そんな肩書きを持つ二宮二葉を相手に、堂々と渡り合っていた事実が彼女の実力を証明している。


 身長は高く無いが、ディフェンスは粘り強くてしつこい。

 彼女を中心とした英修のディフェンスは良く組織されていた。


 麻木先生も言っていたが、シュート力もある。

 明青戦では3ポイントを3本決めているし、隙があれば自信を持って打ってくるだろう。


 個人で目立っていたのはその二人だ。

 逆に言えば、他にそこまで目を引くプレーヤーはいない。


「まぁ……、1番と34番をきっちり抑えて、ウチが調子良ければ、勝負にはなるんじゃないかな」

「……それ、めちゃめちゃ無茶言ってない?」


 千春からのツッコミ。

 まぁ、自分でも何言ってんだと思ったけど。


「あーあ、出たかったなぁ」


 千春が、右足を揺らす。

 午前の試合で痛めた足だ。

 怪我の状態から、千春はこの試合の欠場が決まっている。


「ま、この試合は大人しく休んどいて、勝つように祈っときなって」

「祈る? 応援するじゃなくて?」

「私は祈りを力に変えるタイプの女だから」

「ぶはっ。 プレッシャーの間違いじゃなくて?」


 千春が吹き出し笑う。

 一回戦直後はかなり落ち込んだ様子だったので、心配してたけど、だいぶ持ち直したっぽいな。


「頼んだよ、楓」

「……おう、任せとけ」


 どちらからともなく、コツンと、お互いの拳を重ねる。


 エールは受け取った。

 千春の分も、私が頑張らないと。




 **********



 両チームの選手がコートに整列する。

 私の目の前に並ぶのは、白のユニフォームを着る幕張英修の選手達。

 予想通りのメンバー。恐らく、このチームのレギュラーだろう。


 互いに礼を終えると、センターサークルに両チームのジャンパーが歩み出る。


 すばる高は環さん。

 対する英修は34番の留学生選手。

 改めて見てもデカい。

 一際目立つ容貌の彼女が、その長い手足を折って構える。


 ティップオフ。

 両者の間で、審判がボールを高く放った。

 同時に、両選手が高く手を伸ばしてジャンプ。


 環さんの伸ばした右手を、34番の長い手が軽々と超える。

 先にボールをタップ。

 はじき出されたボールを、英修の選手が確保。


 時計が動き出し、国府台昴高対幕張英修高の試合が始まった。



 英修のポイントガード、#1の初瀬巡が、ドリブルしながらゆっくりとボールを運ぶ。


 対するすばる高のディフェンスはマンツーマンでスタート。

 その#1には、千秋がマークにつく。


 #34には環さんが、#8の選手には飛鳥さん、#22の選手には詩織さんと、それぞれマークに付く。

 私は#7の選手のマークに付いた。


 英修の選手が動く。

 3ポイントラインの外、アウトサイドでパスを回しながら、味方に指示を出していた#1が、ボールを受けた瞬間、ドライブを仕掛けた。

 それを追おうとした千秋の進路には、それを妨げるように英修の選手がポジションを取っている。

 ドリブルをしている選手をフリーにする為の、スクリーンプレイだ。


 スクリーンを利用した#1が、千秋のマークを剥がしてフリーになる。

 迷わずシュートを打つ。


 両手から放たれたボールがリングへと向かう。

 綺麗なスピンのかかったボールがリングを通り、ネットを揺らす。

 0-2、英修が幸先よく先制。


 落ちたボールを飛鳥さんが拾い、私へと手渡す。

 ボールを受けた私が、ゴールラインの外に出る。

 スローインで再開しようとした、その時。


 ボールを受けようと寄る千秋にプレッシャーをかけるように二人。

 その後方、ハーフラインの手前でさらに二人。

 こちらのコートに四人。

 ゴールを決めたにも関わらず、英修の選手たちは自陣に引き返さず、そのままこちらのコートへと残った。


 ……やっぱり来たか。


 2-2-1オールコートプレス。

 英修が得意とする形で、私達を待ち受けていた。



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