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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
52/85

050 挑戦

珍しく連日



千春の負傷退場というアクシデントはあったものの、矢那津高との試合は前半のリードを保ったすばる高が勝利。

無事、一回戦を突破した。

午後からは、シード校である幕張英修との二回戦に挑む。


試合が終わり、待機拠点としている場所へと集合した私達。

千春の怪我は足首の捻挫らしいが、幸いにも軽度なようで、応急処置を終えて合流している。

だけど……。


「その足じゃ二回戦は無理ね」


顧問の麻木先生からの通告。


捻挫はバスケ中に起きやすい怪我の一つだ。

軽度とは言っても、損傷が酷くなったり悪化したりしないよう安静にする必要がある。


午後からの幕張英修戦、千春の欠場は当然の決定だった。


千春は俯き、悔しそうに唇を噛む。


その姿を見て、千春が怪我をしたシーンを振り返る。


相手の選手がスリップして倒れたのも、それを躱そうとして千春が足を捻ったのも、傍から見れば偶然が重なった結果だ。

単にツイてなかったとか、はたまた不注意だったと片付けられてしまう場面かもしれない。


でも私にとっては違う。


あの場面、どうして千春は私にパスを出さなかったのか。

それは今まで何度となく繰り返してきたパターンのハズで、千春が私にパスを出さなかった事なんて一度も無い。


「すいませんでした……」


千春が、絞り出すように謝る。

普段、飄々としている千春には珍しく、はっきり落ち込んでいるのが分かる。


「別に千春が謝ることじゃないわよ。 ……ま、軽症で良かったわ。 でも、本当に病院行かなくていいの?」

「はい、大丈夫です。 様子見て、酷くなるようなら明日行きます。 だから、今日はこのまま帯同させてください」


先生にそう伝える千春。

捻挫を侮ってはいけないし、本当はしっかりした医療機関に見てもらうべき。

だけど、このまま残りたいという千春の気持ちはよく分かる。


この大会は負けたらそこで終わり。

特に、千春の姉である千秋はこの大会を最後に引退する、というのもあるだろうし、試合の行く末を見届けず、一人だけ会場を去るのは嫌なんだろう。


千春の気持ちを汲んでか、先生もそれ以上は確認しなかった。


「痛みが強くなったらすぐに言いなさい。 無理矢理にでも病院行ってもらうからね」

「はい、ありがとうございます」


そう言って、ひとまず千春の怪我についての話は終わる。



「さて、まずは皆お疲れ様。 ナイスゲームだったわ」


改めて、先生がチームを労う。

千春の怪我というアクシデントがあったものの、試合結果としては快勝だった。

その為、メンバーの表情は概ね明るい。

ごく一部を除いて。


「ま、あれくらいの相手なら楽勝じゃない?」

「夏希、超カッコ良かったっしょ」


得意気にそう言う夏希さんを、理香さんが手放しで褒める。

この試合、14点を挙げた夏希さんにとっては満足のいく内容だったのだろう。


ただ、彼女が楽勝と言うほど、チームの出来が良かったとは思えない。

どちらかと言えば矢那津の出来が悪かった。

相手のミスに助けられた部分も多い。


結果として、対戦相手に恵まれただけだ。

少なくともあの出来じゃ、強豪である幕張英修にはとても通用しない。


「夏希さん、もうちょっとルーズボール拾いにいけませんでしたか?」


抑えられず、つい苦言を呈してしまう。

口に出してから、しまったと思ったが後の祭り。

案の定、夏希さんがキツイ目をして私を睨む。


「は? ちゃんと行ってたし。 てかアンタにそんな事言われる筋合いないんだけど」


上機嫌が一転、あからさまに機嫌を損ねた様子で言い返してくる。


「てか勝ったんだから良くない? 夏希いっぱい点取って頑張ってたし」

隣の理香さんからも、援護射撃が飛んでくる。


「でも……」


パンッ!


私がさらに言い返そうとしたところで、先生が強く手を叩く。


「楓、やめなさい。 夏希も理香も。 ……そうね、ルーズボールにはもうちょっとだけ頑張れてたら、もっと良かったかもね」


そう言って、やんわりと場を制す先生。


「……チッ。 うざ……」


舌を鳴らす夏希さん。


聞こえてんだよこんちくしょー。

かなりイラッとしたけど、やり返すと本気でケンカになりそうなので聞こえないフリをした。


「夏希だけじゃなくて、皆よ。 ま、その辺りは今後の反省点にしましょ。 で、次の試合なんだけど……、知っての通り、相手は幕張英修。 今大会屈指の強豪校よ」


先生が鞄から何やらノートを取り出す。

表紙にはひらがなでデカデカと『れいらのばすけのーと』と書かれていた。

何そのアホっぽいタイトル……。


先生はペラペラとページをめくり、その中を読みだす。


「去年のインハイはベスト8、ウインターカップ県予選、新人戦はベスト4。 特に新人戦ではあの明青に5点差まで詰め寄ってるわ」


『れいらのばすけのーと』には、対戦相手の情報でも書いてあるのか、英修ついての情報を話し出す先生。

明青とは明青学院の事だ。

この春私たちが練習試合で対戦した相手でもあるが、その時は入学したての一年生チーム。

本戦に出てくるレギュラーチームとは比べ物にならない。

明青は千葉県内では無敵状態を誇る全国屈指の強豪。

そのチームに対し、5点差まで詰め寄ったという事実そのものが、英修というチームの強さを証明している。


先生が続けて、個々の選手について話す。


「背番号1番が初瀬巡(はつせめぐる)……二年生のポイントガードね。 身長は高くないけど、精度の高いシュートが武器。チームの得点源ね。 それから8番がキャプテンの……」


ちなみに背番号の話が出たが、昔は4番からと決まっていた背番号は、高校でも自由化されて、0番から99番まで使用可能になった。

ウチみたいに旧態依然として4番から使うチームの方がまだまだ多いけど、好きな番号を付けられるのはそれだけでモチベーションになるし、個人的には良い事と思う。

好きなプロ選手の番号とか、憧れるよね。

23番とか、30番とか。



先生の対戦相手情報が続く。


「……それから、最大に注意すべきは34番、センターの選手ね。 名前がリタ・イドバーエヨバ……ナイジェリアからの留学生らしいわ。 身長187センチ、学年は二年、……去年の英修の躍進も、彼女の存在が大きいでしょうね」


留学生選手は、近年の高校バスケ界では珍しく無くなった存在だ。

特に、身体能力に優れるアフリカ系選手を擁する強豪校は多い。

留学生選手については、もはや留学生じゃなくて助っ人だとか、学校側の商業主義的な側面を批判する声もあるけど、実際問題、高さと強さを兼ね備えたセンターの選手は日本では人材難。

身体能力ゲ―と揶揄されるバスケという競技において、身体能力に優れる彼女達を擁するチームが強くなるのは紛れもない事実だ。


まぁ、個人的にはそういう強い相手がいるのは嬉しいけど。


「大変だろうけど、ここは環に頑張ってもらうしかないわね」


先生に言われて、二年の安藤環さんが静かに頷く。

次の試合のスタメンはまだ伝えられてないけど、環さんが出るのは確定だろう。

身長180センチの環さん無しでは対抗出来ないし、異論が出るハズもない。


「……とまぁ、改めて言わなくても難敵なんだけど……どうするの? 詩織」


あらかたの情報を話し終えた先生が、詩織さんへ話を振る。

怪我をした千春に次いで、表情が冴えないのがウチのキャプテンだ。


初戦ではスタメンを外れた詩織さん。

後半途中から出場機会があったが、例のごとく『シオリン応援団』の熱狂的な声援を受け、プレーには一切のキレが無く、ミスを連発。

詩織さんがミスする度、応援団の落胆の声がコートに届き、それを聞いた詩織さんがさらにミスをするという悪循環っぷりで、結局5分ほどのプレーで再びベンチに下げられている。


ぶっちゃけ、使い物にならないほど深刻なスランプだ。


一瞬ためらうように口をへの字に結んだ詩織さんだったが、意を決したように口を開いた。


「二戦目は、環、飛鳥……それに私。 それから、楓に千秋さん。 この五人でいきます」


詩織さんから告げられたスタメン。

自身を含め、背の高い選手を4人揃えた陣容だ。

麻木先生の情報を聞く限り、英修はセンター以外はそんなに身長の高い選手はいないし、少なくとも高さでは負けないように、という事だろう。


「……そ。 んじゃあ、それで行きましょう。 それじゃあ、各自試合時間まで待機。 試合見るなり、自由にしていいわ。 集合には遅れないようにね」


そう言って、先生がミーティングを締める。


「……詩織、大丈夫なのか?」


各々が立ち上がる中、環さんが詩織さんに声をかける。


「うん……大丈夫。 それよりゴメン、一試合目は全然役に立たなくて」

「そんなことは無いさ。 詩織は色々考えすぎだ。 ……バスケ部を作った時のこと、忘れたのか? 私はいつだって詩織の味方だ」


環さんがそう言う。


「そーだよ、シオ。 ウチらみんなアンタの仲間なんだから、もっと頼れし」

「そうそう、てかあいつらマジキモくね? シオまぢ災難だよねー」


そんな二人の会話に、夏希さんと理香さんも割って入る。


「……ありがと、みんな。 ……うん、切り替えなくちゃね」


パン、と詩織さんがそのきれいな両頬を叩く。

二年生は二年生で、なんだかんだ仲良いんだな……。


とか思ってると。


「おい」


横から、飛鳥さんが私に声を掛けてきた。


「? どうしたんすか、飛鳥さん」

「便所行くぞ、便所」


そんな二年の輪に加わらず、私をお手洗いに誘う飛鳥さん。

てか便所て……。


「え……」

「あぁ?」

「いえ……なんでもないです」


視線で二年の輪に加わらないんですか? と、それとなく伝えてみたら、何故か物凄いガンを飛ばされた。

何やだ怖い……。


すごすごと立ち上がり、飛鳥さんの後を付いていこうとする私。

マジ飛鳥さんの金魚のフンっす……。


っと、付いて行っちゃいけない。


「千春」


足の怪我から、自由に動けない千春を見やる。


「大丈夫だいじょうぶ、あたしの事は良いから、自由にしなよ。 由利さんが付いててくれるし」

「そうそう、気にせずトイレにいっといれー」


そう答える千春と、くだらないダジャレをお見舞いしてくるのは三年の佐々木由利さん。

由利さんも一応選手なんだけど、もはやマネージャーみたいな存在になってて、千春が怪我をした時も救護スペースまで付き添ってくれたりしていた。


「あ、じゃあ……千春の事、よろしくお願いします」

「任されたー!」


由利さんにお礼を言い、その場を後にすると、先を行く飛鳥さんに駆け足で追いつく。


「……飛鳥さんって、二年の間でハブられてるんですか?」

「あぁ? ケンカ売ってんのか?」


ひぃぃっ! 物凄い顔で睨まれた。

めっちゃ怖い。


叩かないで!と、両手を頭の上に構えてチラリと飛鳥さんの様子を伺う。

思わずストレートに言ってしまった自分の迂闊さが憎い。


「……別にハブられてねーよ。 ただ、ああいうやりとりが苦手なだけだ」


言いながら、飛鳥さんがくしゃくしゃと髪を触る。


「お前、物言いがストレート過ぎんだよ。 もっとちゃんとオブラートに包めよ。 あたしじゃなかったら殴られてんぞ」


いや、飛鳥さん以外は殴らないと思うけど……。


「まぁ、あたしは嫌いじゃないけどな。 お前のそういうトコ」


どことなく照れくさそうに、飛鳥さんが言う。

なにそれ、めっちゃ萌える。


飛鳥さんとそんなやりとりをしながら歩いていると。


「ぐえっぅ!」


急に首に絡んでくる細い腕。


「やっほー! 一回戦突破、おめでとー!」


振り返ると、そこにいたのはチカちゃんだった。


「チカちゃん……、普通に話しかけてって言ったのに……」

「えー? そんなんつまんないよー」


朝方とまったく同じやりとり。

違うのは、チカちゃんの隣にいる人の存在だ。


「チカ、友達デスカ?」


たどたどしい日本語。

チカちゃんと同じ、濃紺のポロシャツとベージュのハーフパンツ姿。

そこから伸びる長い手足。

肌は黒く、一目しなやかな筋肉。


「うん、友達の楓ちゃんだよー!」


紹介されなくても分かる。

彼女が噂の留学生選手だろう。


「ハジメマシテ、私、リタデス。 チカ、悪イ子デスね?」


二コリと笑いかける、リタと名乗る女の子。

想像していたよりも柔らかい印象だけど、背の高さもあってやはり迫力がある。


「悪い子ってどーいう事よ! 私、めっっちゃ良い子だもん!」

リタに対し、抗議するチカちゃん。

見た目に反し、その言動は子供っぽい。


「おい、知り合いか?」

何事かと、飛鳥さんが口を挟む。


「あ、はい。 友達の子で、チカちゃんです。 次当たる幕張英修の……」

「はじめまして、チカって言います。 わぁ、すっごい美人さんですね!」

「んなっ!?」


出会って5秒で褒められ、顔を真っ赤にする飛鳥さん。

なにそれ可愛い。今度私もやろう。


「斎川! リタ! 何してる! 置いてくぞ」


チカちゃんの後方から、彼女たちを呼ぶ声。

チカちゃん達とお揃いの格好をした集団、その真ん中に立つ少女。


身長は150後半といったところか。

決して大きくはないが、その立ち姿に凛とした強さと気高さを感じる。


「はーい。 それじゃまた試合でね! ちゃんと私が出れるように食らいついてよねっ!」


ビシッと私を指差し、嵐のようにチカちゃんが去っていく。


「……あいつらが次の相手か」

飛鳥さんが呟く。


「そうみたいですね」


答えて、背中にゾクリとした震えが走る。


幕張英修高。

すばる高にとって、今大会最大の強敵との試合が、もうすぐ始まる。



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