048 再会
土曜日。
地区大会から2週間があっという間に過ぎて。
高校総体千葉県大会、その初日を迎えた。
大会は今日と明日の2日間、平日を挟んだ次週の土日、計4日間。
大きく4つに分かれたブロックでトーナメントを行い、勝ち上がった4チームで総当たりのリーグ戦を行う。
今日はそのトーナメントの初日。
試合は複数の会場に分かれて行われる。
私達国府台昴高女子バスケ部は、試合会場である千葉総武高に来ていた。
ノーシードの私達は一回戦からの登場。
初戦の相手は矢那津高校。
『やなつ』と読むらしい。
実力は未知数。
当たってみないとどんなチームか分からない。
それは相手も同じだろう。
すばる高は県大会初出場、そもそも創部から1年立たない生まれたばかりのチームだ。
県大会へと駒を進められた事自体、出来過ぎではある。
気の早い話だけど、矢那津との初戦に勝てば二回戦はシード高との対戦が控える。
相手は幕張英修高。
昨年の総体は県ベスト8、ウインターカップ千葉県予選、冬の新人戦はベスト4と好成績をあげている強豪校だ。
格上も格上。
地区も違うし、こういう組み合わせじゃない限り中々当たる事も出来ないチームだろう。
そんな事を考えつつ、スマホを眺めながら会場の外、校門正面口へと向かう。
画面に表示されているのはL@INEのメッセージ。
校門前は、そのメッセージを送ってきた人物との待ち合わせ場所なんだけど……。
「ばぁっ」
「ふぁあっ!?」
私の目の前に突然、両手を大きく広げた人物が立ちふさがる。
「ふふっ、驚いたー?」
手を後ろに組んで、けらけらと笑う女性。
濃紺のポロシャツに、ベージュのハーフパンツ姿。
そこから伸びる肌色の手足はすらりと長い。
おどけた表情で笑っているが、どこか大人びた雰囲気を漂わせる美女。
「ふ、普通に声かけて欲しいなぁ……」
「えー? そんなんつまんないよー」
ぷくっと頬を膨らませる。
見た目の大人っぽさに反して、その仕草や表情は子供っぽく。
彼女が私と同い年であることを再認識させてくれる。
「ふふっ、久しぶりだね、楓ちゃん」
そう言って、彼女、斎川 睦が笑顔を見せる。
「だね……、って言っても先月会ったばっかなんだけどね」
「あれ? そうだっけ?」
というか、チカちゃんとは先月、麻木先生の紹介で参加したバスケサークルの練習で知り合ったばかりだ。
以後、ちょくちょく連絡は取りあっていたので、あまりそんな感じはしないけど。
「それにしても、まさかホントに楓ちゃんのチームと当たる事になるなんて。 ビックリだよねー!」
「い、いや……、まだ当たるって決まったわけじゃないんだけどね……とりあえず初戦勝たないと……」
「えー? でも自信はあるでしょ?」
「それはまぁ、それなりには。 でも相手がどんなチームかも分からないし」
「そこは断言して欲しかったなぁ。 ちゃんと勝ち上がってきてよね? 私、楽しみにしてたんだからっ!」
ビシッ、と私に向けて人差し指を向けるちチカちゃん。
彼女が居るチームこそ、初戦でウチが勝った場合にあたる次の対戦相手、幕張栄修高だ。
でも……。
「でも……、チカちゃんメンバー入りしてないって前に言ってなかった? 勝っても一緒に出来なくない?」
それは以前、彼女と知り合った時に聞かされた話だ。
ただでさえ幕張英修は強豪チーム。
選手層が厚く、一年生がベンチ入りするのは大変な事だろう。
私が発した疑問に、チカちゃんはチッチっと、口元で人差し指を振る。
「情報が古いよ楓ちゃん。 私、あれから頑張ってメンバー入りしたの」
「え!? そうなの!?」
凄いでしょ?と、自慢げに胸を張るチカちゃん。
確かに、チカちゃんの実力に疑いはない。
バスケサークルの練習で対峙した彼女のプレーは、私と比べても遜色のないものだった。
そう思える相手は、この2か月弱の間でマッチアップした相手の中では、チカちゃんと藤代瑠雨くらい。
英修のレベルがどんなものかは分からないけど、自分に置き換えてみれば、実力的にベンチ入りするくらいの事は難しくないかもしれない。
むしろあのレベルのプレーヤーを使わないなんて、コーチがどうかしてる。
……普通の選手なら、という前提だけど。
でも……。
「チカちゃん、あんま部活やる気ないって言ってなかったっけ?」
チカちゃんは聞く話、素行にかなり問題がある子だ。
部活はちょくちょくズル休みしているらしいし、つまんないからやる気ないとも言っていた。
上手いんだけど、モチベーションが低い。
違うか。
モチベーションは高いんだけど、向かう方向が違うというのが正しいか。
「それがね! 聞いてよ! 私と楓ちゃんのチームが当たるんだよってハイ・ファイブの皆に言ったらさ!」
ハイ・ファイブとは、私が麻木先生の紹介で参加したバスケサークルの名前。
チカちゃんは私が参加するよりももっと前から出入りしているようで、彼女の話題の中心とも言っていい。
よくぞ聞いてくれました!とばかりにテンションを上げた彼女が、嬉々として語りだした、その時。
「おー、お前ら、なにやってんだ? こんなとこで」
こちらへ声を掛けてきたのは男性三人組。
校門を通り、こちらへと歩み寄る。
「エージ君♡」
その男性三人組の一人を見て、チカちゃんのテンションがさらに上がる。
彼らこそが、例のバスケサークル、『ハイ・ファイブ』のメンバー。
「試合前だろ? いいのか? こんなとこふらついてて」
赤みがかった長髪を真ん中で分け、ダルそうにジーンズのポケットに両手を突っ込む人物が、エイジさん。
チカちゃんの視線は、完全に彼に固定されたままになっていた。
「女子高生キタコレwwww」
その脇で、早くも怪しいテンションの人が、糸井さん。
横にも縦にもデカい体が目を引く。
周りから『イト君』、と呼ばれていたので、私は『イト君さん』と呼んでいる。
「おいやめろ、ここでそのテンションはマジでやばいから自重しとけ」
そんなイト君さんを窘めるメガネ姿の人物。
サイゾーさんは、チカちゃんのお兄さんだ。
「ど、どうも。 こないだはお邪魔しました……」
そんな三人に向けて、改めて挨拶をする。
「おう、こないだはありがとな。 今日は応援にきたぜ。 頑張れよ」
「ど、どうもです……」
私の挨拶に対し、エイジさんがエールをくれる。
大人の男の人と話すのはやっぱ緊張するなぁ、なんて思いながらちらりと横を見ると……。
ぶすっー!
っと、音が聞こえそうなくらい、チカちゃんの頬が膨れ上がっていた。
眉間に皺が寄り、明らかに不機嫌。さっきまでのご機嫌なテンションはどこへ……。
それと同時に察する。
チカちゃん、エイジさんが見に来るから頑張ったのか……。
なんと現金な。
それでメンバー入りしてしまう彼女が凄いのか、メンバー入り出来ちゃう英修というチームが甘いのか……。
「エージ君! 私には? 私にはなんか言うことないの!?」
不機嫌な表情のまま、チカちゃんがエイジさんを問い詰める。
あまりの形相に、エイジさんの顔が強張っていた。
「え、何で怒ってんの? お前」
「!!?」
その怒りを感じ取ってはいるが、原因は感じ取っていないエイジさんは、いとも容易く地雷を踏む。
「ひどい! エージ君のばかー!!」
顔を真っ赤にしたチカちゃんが、エイジさんの左肩に右ストレートを打ち抜く。
「痛っ!」
そしてチカちゃんは、ぷんすかしながらその場を去って行った。
「……何あれ? 生理?」
パンチを食らった左肩を抑えながら、私と連れの友達二人に顔を向けるエイジさん。
おい、デリカシーよ。
……なんて鈍感な。
そんなエイジさんの反応に、呆れたとばかりに首を横に振る、イト君さんとサイゾーさんが印象的だった。




