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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
47/85

045 地区大会⑦

 タイムアウト明け。


 詩織さんと飛鳥さんの二人をベンチに下げ、千秋と葵を投入。


 詩織さんがベンチに退いたのを見て、ギャラリーの一角からブーイングが飛ぶ。

 詩織さん目当ての観客達からだ。

 彼らには、それ以外に観るべき興味が無い、という事。

 元々バスケに関心があるワケでもなく、きっと退屈な試合なんだろう。


 詩織さんと飛鳥さんが同時に抜けた事で、インサイドでプレー出来る選手がいなくなり、私がそのポジションに入る事になった。

 昔から背の高かった私は、ミニバス時代や中学時代にこのポジションを経験している。

 学年が上がる度にセンターからフォワード、ガードと、ポジションも上がっていった感じだ。


 顧問の麻木先生からは、「オフェンス時は中に張り付かなくても良い」と言われている。

 オフェンス時は自由にやっていい。 そう勝手に解釈。


 コートから、2階のギャラリーを見渡す。


 詩織さん目当ての観客、他校の生徒、誰かの家族と思しき大人たち、友達の咲希ちゃんやチカちゃん、コージ君も昨日に続いて応援に来てくれていた。

 小さな大会だけど、本当に多くの人たちが観に来てくれている。


 鼓動が高鳴る。

 自然と手に力が入り、気が付けば強く拳を握っていた。



 すばるボールで試合が再開。


 自陣から、葵がボールを運ぶ。


 すばる高のメンバーチェンジと、ポジション変更を見て、相手の塩浜も守備陣形を変更。

 インサイドのポジションに付いた私には、変わらず折原が付く。

 マークする折原にとっては、ここが本職のポジションと言える。


「上手くいかないから、ポジション変更かよ?」


 私の背後にピタリと付く折原が話しかけてくる。


「よーく、分かったろ? 私たちのありがたさが」

「……何が?」

「あんたが中学時代、自由気ままにプレー出来てたのは、あたしたちのお蔭だって言ってんだよ」


 まくし立てるように、折原は話し続ける。


「私もユッキーも千春だって、あんたの為にスクリーンかけて、ポストに入って、スペース空けて……、体張ってたんだ。 あんたがバカみたいに点を取れてたのは、あたしたちのお蔭なんだよ。 実際どうさ? すばる高みたいなしょぼいチームじゃ、実力の半分も出せてないじゃん」


 嘲笑を含んだような声。


 私が実力を出せてない?

 点を取れるのは周りのお蔭だった?


 馬鹿にするな。


 私が点を取れてきたのは、私自身が頑張ってきたからだ。

 練習して、走って、どうすれば点を取れるか考えて、研究して。

 あんたたちに頼った覚えなんて、1つもない。


 ショットクロックが残り10秒を切ったところで、大きく動く。

 インサイド、ペイントエリア付近のポジションから外のスペースへとダッシュ。


「葵!」


 左トップの位置、3ポイントラインの外に出たところで、葵からパスが来る。


 ゴールを背にして、ボールを受けた。

 背後からは、わずかに遅れて折原が付いてきている。


 ボールさえ受けられれば――。


 ボールをフロアにつき、迷わずターン。

 左からドライブを仕掛ける。


「舐めんな!」


 折原が叫び、進路を塞ぐ。


 左から右へボールを持ち替え、方向転換。


「左! 抑えて!」


 折原の声が掛かるよりも早く、ディフェンスがもう一人寄ってくる。

 ダブルチームで私のプレースペースを奪いに来る。

 ドリブルを止め、バックステップしながら、シュート体勢に移行。


「打たすかぁ!」


 折原が右手を高く伸ばす。

 私の手から放たれたシュートは、目一杯伸ばした折原の指先をわずかに避け、リングに向かって放物線を描く。


「リバンッ!」


 後方を振り返り、折原が声を出す。

 ゴール下に陣取った選手たちがボールを目で追い、リバウンドに備えた。

 ――が。


 ボールはリングに吸い込まれ、心地良い音を響かせる。


「ちっ」

 折原が私に聞こえるほど露骨に舌を鳴らした。


「楓ちゃん、ナイッシュー!」

 ギャラリーからは祝福の声が聞こえる。


 そうだ。

 どんなに厳しくマークが付こうが、ディフェンスが二人来ようが、点を取る自信が私にはある。

 冷静に、自分のプレーをすればいいんだ。

 普通にプレーすれば、折原なんて手こずる相手じゃない。


 悠々と自陣へ戻り、攻め上がってくる塩浜の選手達を迎える。

 私は折原のマークに付く。


「……相変わらずだよ、あんたは」


 私が近づくや、再び話しかけてくる折原。


「全然変わってない。 中学ん時とまったく変わってない。 全然成長してないじゃん……、本当ムカつくよ。 目ぇ見ればすぐ分かる。 今も自分一人で何でも出来ると思ってるんだろ?」


 折原がハイポストへ動き、ボールを受けた。

 折原は、マークする私を背中で押さえつける。


 折原は口を休める事無く、私に言葉を投げかけてくる。

 トラッシュトークのつもり?

 そんな挑発に私が揺さぶられると思っているのか?


「どーせ今も、周りなんてこれっぽちも信用してないんだろ? 私はそういうあんたが……」


 折原がボールを持ち替えた。


「気に入らないんだよっ!!」


 右から強引なターン。

 ゴール方向を向き、突っ込む。


 ファウルに気を付けながら、彼女の動きについていく。

 ステップを踏み、シュート体勢へ。

 ボールが手から放たれる、その瞬間を狙い――。 


「っ!?」


 シュートをブロック。

 サイドに弾いたボールを、葵が拾う。


「速攻!」


 それを見て、駆け出す。


「こっち!」


 手を挙げてパスを要求。

 出足良くボールを持ち出した葵から、ボールを受け取った。

 すぐにドリブルを開始、加速する。

 背後からは折原が私を追ってくるが、その距離は縮まらない。


 目の前にはディフェンスが二人。

 私から少し離れた距離には、千秋も攻め上がっている。


「15だ! そいつは絶対にパスはしない!」


 後ろから折原が、私の眼前の味方に指示を飛ばす。

 千秋を無視し、二人が私へと注意を向けた。

 その内の一人、間宮ゆきえが私との距離を詰める。


 彼女を右から半身かわすと、直ぐにその後方からもう1人のディフェンスがヘルプに入る。


 ディフェンス2人を左手でガードしながら、右手にボールを持ちあげた。

 そのまま片手でシュート。


 ボールはバックボードを経由して、勢いよくリングを通過する。


 11-13。

 連続得点を決め、あっという間に1ゴール差に詰め寄った。


 ここでブザー。

 今度は、相手の塩浜高がタイムアウトを取ったみたいだ。

 駆け足で、ベンチへと引き揚げる。


「ホント……ムカつくんだよ……」


 すれ違いざまに、折原のそんな呟きが聞こえた。

 


 **********

 

 第1Qが終了。


 スコアは17-17。

 立ち上がりからリードを許す展開となった第1Qだったけど、終盤に同点に追いつく。

 メンバーチェンジとポジション変更はひとまず、成功したと言える。


 第2Q開始まで、2分間のインターバルに入る。


「大丈夫? 楓」


 ベンチに引き上げると、麻木先生が私に聞いてきた。


「? 何がですか?」

「向こうの13番よ。 随分あんたに絡んでたみたいだけど」

「あー……」


 麻木先生が私を見つめる。

 一応、心配してくれてるのか。


「大丈夫ですよ。 まぁちょっとウザいけど、別にキレるような事言われてるワケじゃないので」

「そう? ならいいけど。 冷静に、熱くならないようにしなさい」

「はい、ありがとうございます」


 そう返すと先生は頷き、他のメンバーへと声を掛けだした。


 詩織さんは具合が悪そうに座ったまま。

 そんな状況もあってか、普段はあまり積極的に指示を出さない先生が、今日は中心となって指示を出している。


 ……ポンコツ顧問だと思ってたけど、妙な安心感があるなぁ。

 ……普段からこうしてくれればいいのに。


「……さっ! 第2Qもこの調子で行きなさいっ! オフェンスは楓に任せとけば何とかなるわっ!」


 ……やっぱポンコツかも。



 そんな先生とのやりとりに癒された後、ベンチのメンバーに送り出され、第2Qも同じメンバーがコートに立つ。



 その第2Q、すばる高は私を中心に順調に得点を重ね、早々にリードを奪う。

 一方、相手の塩浜は間宮と#4の選手を中心に得点を返してくるが、点差は徐々に広がっていった。


 第2Qも終盤。

 ミドルレンジからジャンプシュートを放つ私に折原の手が引っ掛かる。

 シュートは外れるが、審判の笛が鳴る。


「っ! ……くそっ!」。


 折原のファウル。

 私に2本のフリースローが与えられる。


 折原のファウルはこれで3つ目。

 第2Qに入り、折原のファウルが重なっていた。


 それでも、私を止められなくなっている。


 ブザーが鳴る。

 サイドラインでは、塩浜の選手が待機していた。

 折原に交代が告げられる。

 折原が無念そうに唇を噛み、ベンチへと退いていく。

 第2Q終盤での交代。


 バスケでは、パーソナル・ファウルが5回に達すると退場処分となり、その試合に出場する事が出来なくなる。

 3ファウルの折原がこれ以上ファウルを重ねると、勝負どころで彼女を欠く事になる。

 4ファウルになってしまうと、退場にリーチが掛かり、今以上に激しいディフェンスは難しくなる。

 そのリスクを承知で起用し続ける選択も真っ当だと思うが、向こうのコーチとしては、勝利の可能性を最大限考慮した上での判断なのだろう。


 少なくとも、まだ第2Qの段階で折原を欠くわけにはいかない。


 でも、これで勝負は決まったなと、私は思う。

 折原より、私の動きに対応出来る選手が相手チームにいるように思えない。


「……つまんないの」


 ぼそり。


 私は無意識に、そんな言葉を呟いていた。


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