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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
46/85

044 地区大会⑥

 

 多くのギャラリーを集め、異様な雰囲気となった喧騒の中で。

 コート上で、対戦相手の塩浜高の選手たちと顔を合わせる。


 赤のユニフォーム、塩浜高校の選手と、今回は白のセカンドユニフォームを着る、国府台昴高の選手が向かい合う。


「まさか、あんたとこうして対戦出来るとは思わなかったね」


 私の対面に立つ折原奈々子が歩み寄り、私に右手を差し出す。

 

「……そうだね、私もだよ、折原」


 彼女の言葉に、そう答えながら、差し出された右手を握る。

 握られた右手から視線を上に移すと、折原と目が合った。


 真っ直ぐに私を捉える彼女の瞳に、私が映る。

 少し背が伸びただろうか?

 かつて同じ高さにあった彼女の瞳は、私の知る頃より高い位置にあった。


 その瞳の上には、彼女のトレードマークともいえる形の良い額。

 彼女が『デコ』と呼ばれる由来。

 私が彼女をその名で呼んだことはないけれど。


 握手した右手を離し、彼女と距離を取る。


「ふふっ、お互い揃ってスタメンなんて、運命だね~」


 折原の隣から聞こえた声。

 声の方へ視線を移すと、そこに居る間宮ゆきえと目が合った。


「……たまたまでしょ」


 そっけなく答える。

 クスリと、彼女が鼻で笑った気がした。


 挨拶を終え、互いのジャンパーがセンターサークルで向かい合う。

 審判が真上に投げたボール目掛けて、両チームのジャンパーが飛ぶ。


 高校総体千葉県第10地区予選の準決勝。

 塩浜高校 対 国府台昴高校 の一戦が始まった。

  ジャンプボールに環さんが先に触れる。

 サークルの外に掻き出されたボールを千春がキープ。


 ボールホルダーとなった千春には、相手の#12 間宮ゆきえがプレッシャーを掛けに行き、他の塩浜の選手は自陣に引いていく。 ただ一人を除いて。


「15番!」


 ボールを持たない私に正対するように、赤いユニフォームを着た塩浜の#13、折原奈々子が手を広げて距離を詰めてきた。


「以外、って顔だね」


 折原が私に向かって話す。


 折原は、ゴールに近い位置でのプレーを得意とするインサイドの選手だ。


 その彼女が自身の持ち場を離れ、3ポイントラインより外にポジションを取る私のマークに付く。


 折原が本来居るべきポジションには、彼女よりも10cm以上背の低い、他の選手が入っていた。


 すばる高のインサイドには180cmの環さんと、171cmの那須飛鳥さんという、高くて強い二人がいる。

 対抗するには、折原の高さと強さが必要なハズだけど、塩浜は170cm台のセンターを中心に、160cm前後の二人が左右のゾーンを守っている。


「……良いの? ウチのインサイドは強力だけど」

「良くなきゃやるわけないじゃん?」


 私が問いを返すと、折原が笑みを浮かべて答える。

 そしてこう続けた。


「あんたには今日、とことん私に付き合って貰うのさ」



 ボールを受けに左コーナーに開いていた詩織さんがボールを受けに千春に寄る。千春は詩織さんにボールを預け、間宮との距離を取った。


 私がボールと人の動きを追う一方で、折原は私から目を離さない。

 私の動きだけを警戒する。


 ボールは詩織さんを経由し、ミドルポストで構える環さんの元へ。


 それを見て、ダッシュでボールサイドへと寄っていく

 そんな私を、折原は遅れる事無く追う。


 その動きを一瞥した環さんだったが、私がマークを外せていないと見て、詩織さんへリターンパス。

 ボールを受けた詩織さんがシュートを放つ。


「リバウンドッ!」


 その軌道を見て、声を出す。


  詩織さんのシュートはリングに嫌われ、右に流れた。


「任せろっ!」


 いち早く落下地点を抑えた飛鳥さんが、オフェンスリバウンドを制する。

 着地し、そのままシュートを打つが。


「もう一回!」

 ゴール下でのシュートだったが、飛鳥さんのシュートは入らず。


 力なく落下するボールに、塩浜の選手が飛びつく。

 攻守が入れ替わり、相手選手が勢いよく攻めに飛び出していく。


 攻撃時も折原は本来のインサイドではなく、アウトサイドにポジションを取った。


 すばる高のディフェンスはいつものマンツーマンディフェンスだ。

 私はそのまま彼女をマークする形になる。


 ボールを持つ相手のポイントガード、間宮がドリブルでボールを動かす。


 味方のスクリーンを生かし、マークする千春を剥がすと、ミドルレンジからの2ポイントシュートを打つ。

 間宮の放ったこのシュートも、リングに弾かれる。

 リバウンドを争い、互いの選手がボール目掛けて飛ぶ。


 その瞬間、折原のマークを捨て、彼女から距離を取った。

 ルーズボールの趨勢(すうせい)が決まる前に、自チームの選手がリバウンドを確保すると信じて動く。


 私の動きに反応した折原が、再び私との距離を詰めようと付いてくる。


「ボール!」


 パスを要求。

 リバウンドを取ったばかりの環さんがその声に反応し、私の位置を捉えた。


 環さんの方へ寄り、近い距離でボールを受け取る。


 私の背後にぴたりと付く折原。

 その手のひらが背中にぴたりと当てられている。


 ――止めれるモンなら止めて見ろ。


 くるりとターンし、 ドリブルを開始。


「左から切って!」


 相手チームのコーチングの声が耳に入る。


 その指示の通り、折原は私から見て右の方から体を寄せてきた。

 広い中央への進出を阻まれる。

 ドリブルをしている左手とは逆の手、オフハンドで折原を制しながら、左サイドライン沿いに進路を取る。

 その進路上、前方からはもう一人、相手ディフェンスの援軍。

 間宮が距離を詰めてくる。


 ダブルチームで私を挟み、フロントコートへの侵入を阻もうとする。


「楓っ! 後ろっ!」


 後方から千春の声。

 多分、千春がサポートに寄ってきてくれている。


 加速しかけた足を緩め、サイドラインを背にし、ゴール方向ではなく中央方向へと身体の向きを変えた。

 折原を制していた右手が解かれ、彼女からのプレスの圧が強くなる。

 その一方で、間宮が私に手の届く位置まで距離を詰めてきている。


 ――邪魔だ。


「えっ!?」


 その間宮の足の間にボールを通す。

 不意を突かれた間宮がボールを見失ったわずかな間に、彼女を(かわ)し、通したボールを再び左手に収めた。

 事態を把握した間宮が、慌てて手を伸ばし、ファール覚悟で私の肩を掴もうとする。

 その手を、ボールを持たない右手が払い除けた。


 ダブルチームの包囲網を完全に突破。

 どよめきがフロアに反射する。


 そのまま、フロントコートへと侵入。

 追いすがる二人を置き去りにしてゴールへと向かう。

 ゴール前には帰陣した相手ディフェンスが二人。


 私に近い一人が、ハンズアップしながら前にでる。


 相手との距離が詰まる前に、ボールを持つ左手を高く掲げ、ステップを踏む。

 やや距離のあるリングに向かって、ふわりとボールを放った。


 相手のブロックの手を超えるフローターシュートが、ネットを通過。

 2-0、すばる高が先制。


 わぁっと、歓声が上がる。


「オーケー! 切り替えよう!」

「ユッキー、ナイスチャレンジ! 今のは仕方ない!」


 塩浜のベンチからは、コート上の選手たちへ声がかかる。


 ゴールを決め自陣に戻ると、並ぶように折原が付いてくる。


「相変わらず、舐めた技使いやがって」


 私に向かって、そう話しかける。


 そのトークには応じず、そのまま彼女のマークを開始するが、彼女の口は止まらない。


「思い出したわ。 あんたはいつだってそうだった。 周りにどんなにフリーな奴がいようが、マークがキツかろうが、お構いなしに一人で突っ込んで、強引にシュート打って、それが何でもないようにゴールを決めて、当たり前の顔で戻っていく。 嫌になるほど見た光景だ。 全然変わってないじゃん」


 そこまで一息で言うと、大きく息を吐きだす折原。 


「私は、そんなあんたが大嫌いだったよ」


 吐き捨てる様な言葉を残し、折原が動く。


 ローポストへと走り込む彼女を追う。


 そこにパスが入る。


 折原がそれを受け、私を背負う形でボールをキープ。

 背中を私に預け、抑え込んでからターン。

 半身になってゴールを伺う。


 両手を高く上げ、シュートコースを塞ぐ。


 そこへ、コーナーの位置から飛び出してきた相手の#7がカットイン。

 詩織さんを置き去りにし、折原からボールを受ける。


 そのまま、レイアップシュートへ。


「させるかよ!」


 自身のマークを捨て、ヘルプに入った飛鳥さんがブロックを試みるが……。


 ピィッ。


 相手のゴールが決まる。

 加えて、審判の笛が短く響いた。

 審判がジェスチャーで、飛鳥さんのファウルと共に、塩浜の得点を示す。


 バスケットカウント。


 シュートモーション中のファールで、そのシュートが決まった場合。

 その得点は認められ、さらにフリースローが1本与えられる。


「ナイス!」

 塩浜の選手たちが得点を決めた選手を祝福する。


「……悪い」

「ドンマイです。 ナイスフォローでした」


 謝る飛鳥さんに対し、そう声を掛ける。


 

 与えられたフリースローショットを相手が決め、2-3。

 両チームがそれぞれ最初の得点を取った。

 


 替わって、すばる高の攻撃。


 引き続き私には、折原がウザいくらいにピタリとマークに張り付く。

 折原のマークを剥がそうと、激しくポジションを移す。



「スクリーン!」


 飛鳥さんを壁役に、瞬間的に折原のマークを剥がす。

 カットインを決め、手を挙げてパスを要求するが。


 ボールを持った詩織さんから、タイミング良くパスが入らない。

 1テンポ遅れた詩織さんが、千春へボールを戻す。


 その横パスを、間宮が狙っていた。


 パスをカットし、ターンオーバー。

 素早い切替で塩浜の選手たちが無人のバックコートへ走り込む。

 

 このチャンスを確実に決められ、2-5。


 リズムが悪い。

 塩浜の出足の良さに遅れを取り、その後も失点を重ねる。


 対するすばる高の攻撃は単調だ。


 千春や詩織さんの外からのシュートは決まらず、そのリバウンドを取った環さんが単発のゴールを取ってはいるが、連続して得点が取れない。


 私は折原の徹底的なマークを剥がすために動き回るが、良い形でボールを受けられない。

 ストレスの溜まる展開だ。


 対する塩浜は、練習でデザインされたセットオフェンスを多用。

 ウチのマンツーマンディフェンスを効果的に剥がして、フリーの選手を作っていく。


 チームとしての練度が、点差に現れ出していた。


 

 試合は、千春が間宮にボールを奪われ、さらに点を取られたところでブザーが鳴る。


 6-13。

 第1Q残り4分半というところで、すばる高が最初のタイムアウトを使う。


 


「強いわね」


 ベンチへ戻ってきた私達五人に対し、顧問の麻木先生が開口一番そんな感想を言う。


 確かに塩浜は強い。

 これまでの二試合で当たったチームと比べて、守備の強度が高く、個人のレベルも高い。

 関東大会の予選を勝ち抜けなかったのが不思議なくらいのチームだ。


 すばる高が武器とするインサイドも、今のところ上手く対処されていて、成果があげられていなかった。

 攻撃面は、相手のポイントガードである間宮がソツなくリードしているが、どちらかというとウチの拙さが目立つ。


 攻守の切り替えが遅く、連携不足。

 ネガティブな原因で、相手のプレーに対応できていない。

 加えて塩浜のシュート成功率が、ここまでは高く、高さが生きるリバウンド機会が少なかった。


 それから、詩織さんの出来が非常に悪い。


 それを自覚しているからか、彼女の横顔を覗けば、その表現は冴えない。


 普段は中心選手の一人である詩織さんが、今日に限っては判断が遅く、彼女のところで攻撃が手詰まりになることが何度もあった。


 明確な変化は会場の雰囲気にある。


 彼女がボールを持つと、一部のギャラリーが異様に沸くからだ。


 昨日と違い、今日は彼女目当てと思われる観客が多く観に来ている。

 葵曰く、元有名子役だという詩織さんの事を知る観客達だ。


 何もしていないのに、ボールを持てば必要以上の声援と、好奇の目が注がれる。


 そんな状況に、平常心を失っているように見えた。


「詩織、メンバーを替えるわよ」

 そんな彼女に、麻木先生が告げる。


「……はい」

 詩織さんが静かに頷いた。


 先生が続ける。


「交代は詩織と飛鳥。 千秋と葵、準備して」


「了解」

「あ、あたしか〜?」


 呼ばれた二人が返事する。

 自分に声がかかると思ってなかったのか、葵が以外そうなリアクションを見せたが、表現は明るい。


「ゴメン、みんな」

 詩織さんが項垂れ、両手で顔を覆う。


「気にすんな、ここは頼れる先輩に任せとけー!」

 千秋が詩織さんを励ますが、詩織さんからの反応はない。


「……ありゃま」

 詩織さんからの反応が無く、ガクっと膝を折る千秋。


 ……今日はダメかもしれないな、詩織さん。


「で、先生ー、ポジションはどーすんだー?ま、まさかあたしにインサイドを守れとっ!?」

 お決まりのオーバーなリアクションを見せる葵。


 彼女はチーム最小の145cm。

 当然、インサイドを守るには不向きな選手だ。


「その作戦は流石に思いつかなかったわっ。 奇策過ぎるわねっ」

 麻木先生が笑う。


「インサイドには、楓を移すわ」


 先生はそう言い、出来るでしょ?と、私に確認を求める。



「はい」


 その問いに私は、静かに、そして力強く頷いた。


プチ解説コーナー!(多くて大変……)


フローターシュート

オーバーハンドで、ふわっと浮かせて打つシュート。

軌道が高く、相手のブロックをかわせる利点があるが、難しい。


バスケットカウント

オフェンスのシュート動作中にファールを受けながら、そのゴールが決まると得点+ワンスローのフリースローが与えられる。3点プレーとか4点プレーとも言われる。


フリースロー

ファウル等で与えられる罰則の一つ。相手の妨害を受けず、フリースローラインからシュートを打てる。

1本決めると1点が入る。

体育の授業中にボール投げて遊ぶアレ。


スクリーン

壁。ピックとも言う。その名の通り、オフェンスの選手が味方の選手の為に、ディフェンスの邪魔になるように壁役になる事。基本的に動いてはいけないので、露骨に動いたり、過度に接触して邪魔するとファウルになる。


ターンオーバー

プレイ中にボールを奪われ、攻守が入れ替わること。バスケとかラグビーとかで良く聞く。

ちなみにサッカーで使われるターンオーバーは主力を休ませる選手起用とかの事を言う。


セットオフェンス

一般的には味方が揃うのを待ってから行うオフェンスの事。

予めフォーメーションや動きの型が決められていたりする場合もある。




出来るだけ用語を避けて書きたいのですが……スポーツ物は表現が難しいですね……。



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