042 地区大会④
櫛引千春視点です。
アイツとは会いたくないな、と思う相手ほど、簡単に出会ってしまうから不思議なものだ。
負の感情が互いを引きつけるのだろうか?
同じ地区での大会だ。
中学時代の知り合いと、ばったり顔を合わせる可能性はあるだろう。
先輩だったり、対戦経験のある相手だったり。
その中でも最悪の引き、出来れば会いたくない相手が、邦枝中バスケ部の同期だった。
会いたくないというより、会わせたくない人物。
デコとユッキー、折原奈々子と間宮ゆきえは、私と楓の中学時代の同級生で、バスケ部のチームメイトだった。
私達の代のバスケ部は、彼女らと私達、それにもう一人を加えた五人しかいない。
そんな中で楓は、私以外の同級生三人と、最後まで折り合いが付かなかった。
特に、デコこと折原は、楓中心のチームに強い不満を持っていた子だった。
生来の気の強さもあってか、練習中に楓と反目し合う事もしばしば。
私個人としては嫌いじゃなかったけど。
内向的なクセに我の強い楓とは、最後まで仲良くなることは無かった。
楓にとって最悪なのは、間宮の方かもしれない。
わざと楓に聞こえるように陰口を叩いたりという事を、彼女は平気でする。
部のキャプテンは楓だったが、後輩を含め、部内の女子のリーダー的存在は彼女だったと言っていい。
彼女の作る妙な一体感に抗いきれず、楓を孤立させたのは、私にとっても苦い記憶だ。
楓は、感情の起伏が激しく、精神的に脆いところがある。
彼女達に会った事で、楓は明らかに顔つきが変わった。
変に力が入って、空回りしなければ良いんだけど……。
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すばる高男子チームの勝利を見届け、お昼休みを挟み。
私達の二回戦が始まる。
両チームの選手がコート上に並ぶ。
白のユニフォームを着るのが、相手の市川女子。
対するすばる高は、初戦と同じく紺のユニフォームでこの一戦に挑む。
私と楓は揃って先発。
この試合が今大会初出場となる。
PG #11 櫛引 千春(1年) 161cm
SG # 6 櫛引 千秋(3年) 157cm
SF #15 茅森 楓 (1年) 172cm
PF # 4 中村 詩織(2年) 175cm
C # 5 安藤 環 (2年) 180cm
飛鳥さんの背の高さとゴール下での強さも捨てがたいが、ミニバス時代からの経験とスキルでは、お姉ちゃんが勝る。
この5人は今のすばる高のベストメンバーと言える編成だ。
審判の笛を合図に、両チームのジャンパーがセンターサークルに歩み出る。
サークルを取り囲むように、両チームの選手たちがポジションを取った。
ちらりと、横目で楓を見る。
楓は一度、深く呼吸をすると、静かに腰を落として審判の持つボールに視線を移した。
ようやくここまでこぎ着けた。
同じコートの上で。
練習試合ではなく、公式戦の舞台で、楓とまたバスケが出来る。
審判がボールをトスアップ。
環さんとの身長差を見て勝てないと判断したか、相手のジャンパーは跳ばずにそのまま自陣へ後退。
すばる高のジャンパー、環さんが悠々とボールを掻き出す。
そのボールが私の手に収まり、時計が動き出した。
ゆっくりとドリブルで相手陣へと入る。
市川女子の選手は、じりじりと私との間合いを測る。
意外と警戒されているのか、戦前の予想に反して、市川女子は静かな立ち上がり。
「千春!」
呼びこまれて、ウイングに開いていた詩織さんへ、ボールを一旦預ける。
それを見て、環さんが動く。
ローポストで相手ディフェンスと体をぶつけ合い、ポジションを主張する。
詩織さんから、オーバーハンドのふわりとしたパスが供給される。
175cmの詩織さんから、180cmの環さんへ。
高さを生かしたパスが渡るが。
その瞬間、相手ディフェンスが2枚で激しく環さんを挟む。
1回戦での活躍を見ての対策か、市川女子が環さんにダブルチームでマークを付けてきたのだ。
相手に挟まれスペースを失った環さんが、珍しくボールをファンブル。
そのルーズボールに抱き付くように相手選手がボールを奪取。
すぐさまボールを前へ出し、逆襲を仕掛ける。
半歩反応が遅れた私達を置き去りに、相手選手がこちらの陣内に駆けだした。
その先頭を走る相手選手にパスが通る。
やられた。
ボールを受けた選手が、ドリブルで持ち込み、そのままレイアップシュート体勢に。
ステップを踏み、リングに向かってボールを離した瞬間――。
バシンッ!
もの凄い勢いで、後方から追いついた楓が、そのシュートをブロック。
ボールをタッチラインへと弾き出した。
ギャラリーから、どよめきのような声が響く。
「楓! 良く戻ったわっ!」
ベンチから、顧問のレイラちゃんが称える。
「楓、ナイス!」
私も声を掛ける。
私の声に、わずかに頷いたが、視線は遊ばない。
「マーク!」
代わりに、集中を促すように味方へ激を飛ばした。
試合前の予期せぬ出会いに心を乱していないかと思ったが、余計な心配だったみたいだ。
白のユニフォーム、市川女子のスローインで試合再開。
激しく動き、ポジションを入れ替える相手に、すばる高はマンツーマンで対応。
パス&ランで空いたスペースを突こうとするが、決定的なフリーを作らせない。
やがて、ショットクロックに追われた相手が、遠目からシュート。
ボールがリングに当たって跳ねる。
リバウンドは環さんがキープ。
すぐにサポートに入り、環さんからボールを受ける。
相手の陣内、フロントコートへとボールを運ぶのはPGを務める私の役目だ。
フロントコートへボールを運ぶと、相手ディフェンスがプレッシャーをかけてくる。
ボールを奪われないようガードしながら、周囲の動きに意識を配る。
フォローに寄ってきたお姉ちゃんに一度ボールを預け、リターンパスを受ける。
そのタイミングで、楓が動き出した。
左コーナーの位置から、中へとカットイン。
その進路に合わせ、強めのパスを出す。
相手ディフェンスの前にでた楓がボールを受ける。
だがそこは、ゾーンで守る相手が網を張るエリア。
相手ディフェンスと、ゴールを背にした楓が、ドリブルしながら相手ディフェンスに体を当て、押し込む。
相手がその位置を保持しようと、応戦する。
その瞬間、楓が一歩後方へと下がる。
そのまま左手にボールを構え、後方へ体を傾かせてジャンプ。
相手がブロックの手を伸ばすが、届かない。
ブロックを回避する、フェイダウェイシュート。
楓の手から放たれたボールが、正確にリングを捉える。
すばる高の先制点。
相手選手の顔色が変わる。
ここにいる選手達とは、レベルが違う。
周囲にそう思わせるには、充分なプレー。
ここからは、楓の独壇場だった。
ボールを持てば、ドライブからのレイアップ。
ドライブを警戒すれば、アウトサイドからのシュート。
面白いように楓が得点を重ねていく。
堪らず相手チームのコーチがタイムアウトを取って立て直しを図るが、すばる高の勢いは止まらない。
楓へのマークがキツくなれば、今度は環さんに自由が生まれる。
楓の活躍が、すばる高の攻撃に好循環を生み出す。
勿論、マークがキツくなっても、楓の勢いは止まらない。
困難なタフショットを沈め、淡々と得点を重ねる。
観衆は楓の一挙手一投足に目を奪われていく。
試合は一方的な展開となった。
混乱に陥った市川女子に、反撃の力は無く。
すばる高が市川女子を下し、地区大会準決勝へと勝ち上がりを決めた。
45得点、6リバウンド、3アシスト。
茅森楓の、衝撃的なデビュー戦だった。
用語解説は後から追記致します…。




