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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
44/85

042 地区大会④

櫛引千春視点です。

 

 アイツとは会いたくないな、と思う相手ほど、簡単に出会ってしまうから不思議なものだ。


 負の感情が互いを引きつけるのだろうか?


 同じ地区での大会だ。

 中学時代の知り合いと、ばったり顔を合わせる可能性はあるだろう。

 先輩だったり、対戦経験のある相手だったり。


 その中でも最悪の引き、出来れば会いたくない相手が、邦枝中バスケ部の同期だった。

 会いたくないというより、会わせたくない人物。


 デコとユッキー、折原奈々子と間宮ゆきえは、私と楓の中学時代の同級生で、バスケ部のチームメイトだった。


 私達の代のバスケ部は、彼女らと私達、それにもう一人を加えた五人しかいない。

 そんな中で楓は、私以外の同級生三人と、最後まで折り合いが付かなかった。


 特に、デコこと折原は、楓中心のチームに強い不満を持っていた子だった。

 生来の気の強さもあってか、練習中に楓と反目し合う事もしばしば。

 私個人としては嫌いじゃなかったけど。

 内向的なクセに我の強い楓とは、最後まで仲良くなることは無かった。


 楓にとって最悪なのは、間宮の方かもしれない。

 わざと楓に聞こえるように陰口を叩いたりという事を、彼女は平気でする。

 部のキャプテンは楓だったが、後輩を含め、部内の女子のリーダー的存在は彼女だったと言っていい。


 彼女の作る妙な一体感に抗いきれず、楓を孤立させたのは、私にとっても苦い記憶だ。


 楓は、感情の起伏が激しく、精神的に脆いところがある。

 彼女達に会った事で、楓は明らかに顔つきが変わった。

 変に力が入って、空回りしなければ良いんだけど……。


 **********


 すばる高男子チームの勝利を見届け、お昼休みを挟み。

 私達の二回戦が始まる。


 両チームの選手がコート上に並ぶ。

 白のユニフォームを着るのが、相手の市川女子。

 対するすばる高は、初戦と同じく紺のユニフォームでこの一戦に挑む。


 私と楓は揃って先発。

 この試合が今大会初出場となる。


 PG #11 櫛引 千春(1年) 161cm

 SG # 6 櫛引 千秋(3年) 157cm

 SF #15 茅森 楓 (1年) 172cm

 PF # 4 中村 詩織(2年) 175cm

 C  # 5 安藤 環 (2年) 180cm


 飛鳥さんの背の高さとゴール下での強さも捨てがたいが、ミニバス時代からの経験とスキルでは、お姉ちゃんが勝る。

 この5人は今のすばる高のベストメンバーと言える編成だ。


 審判の笛を合図に、両チームのジャンパーがセンターサークルに歩み出る。

 サークルを取り囲むように、両チームの選手たちがポジションを取った。


 ちらりと、横目で楓を見る。


 楓は一度、深く呼吸をすると、静かに腰を落として審判の持つボールに視線を移した。


 ようやくここまでこぎ着けた。

 同じコートの上で。

 練習試合ではなく、公式戦の舞台で、楓とまたバスケが出来る。


 審判がボールをトスアップ。


 環さんとの身長差を見て勝てないと判断したか、相手のジャンパーは跳ばずにそのまま自陣へ後退。

 すばる高のジャンパー、環さんが悠々とボールを掻き出す。

 そのボールが私の手に収まり、時計が動き出した。


 ゆっくりとドリブルで相手陣へと入る。

 市川女子の選手は、じりじりと私との間合いを測る。


 意外と警戒されているのか、戦前の予想に反して、市川女子は静かな立ち上がり。


「千春!」


 呼びこまれて、ウイングに開いていた詩織さんへ、ボールを一旦預ける。


 それを見て、環さんが動く。

 ローポストで相手ディフェンスと体をぶつけ合い、ポジションを主張する。


 詩織さんから、オーバーハンドのふわりとしたパスが供給される。

 175cmの詩織さんから、180cmの環さんへ。

 高さを生かしたパスが渡るが。


 その瞬間、相手ディフェンスが2枚で激しく環さんを挟む。

 1回戦での活躍を見ての対策か、市川女子が環さんにダブルチームでマークを付けてきたのだ。


 相手に挟まれスペースを失った環さんが、珍しくボールをファンブル。

 そのルーズボールに抱き付くように相手選手がボールを奪取。

 すぐさまボールを前へ出し、逆襲を仕掛ける。


 半歩反応が遅れた私達を置き去りに、相手選手がこちらの陣内に駆けだした。

 その先頭を走る相手選手にパスが通る。


 やられた。


 ボールを受けた選手が、ドリブルで持ち込み、そのままレイアップシュート体勢に。

 ステップを踏み、リングに向かってボールを離した瞬間――。


 バシンッ!


 もの凄い勢いで、後方から追いついた楓が、そのシュートをブロック。

 ボールをタッチラインへと弾き出した。


 ギャラリーから、どよめきのような声が響く。


 

「楓! 良く戻ったわっ!」

 ベンチから、顧問のレイラちゃんが称える。

 

「楓、ナイス!」

 私も声を掛ける。

 

 私の声に、わずかに頷いたが、視線は遊ばない。

 

「マーク!」

 代わりに、集中を促すように味方へ激を飛ばした。

 

 試合前の予期せぬ出会いに心を乱していないかと思ったが、余計な心配だったみたいだ。

 

 白のユニフォーム、市川女子のスローインで試合再開。

 

 激しく動き、ポジションを入れ替える相手に、すばる高はマンツーマンで対応。

 パス&ランで空いたスペースを突こうとするが、決定的なフリーを作らせない。

 やがて、ショットクロックに追われた相手が、遠目からシュート。

 ボールがリングに当たって跳ねる。

 

 リバウンドは環さんがキープ。

 すぐにサポートに入り、環さんからボールを受ける。

 相手の陣内、フロントコートへとボールを運ぶのはPGを務める私の役目だ。

 

 フロントコートへボールを運ぶと、相手ディフェンスがプレッシャーをかけてくる。

 ボールを奪われないようガードしながら、周囲の動きに意識を配る。

 フォローに寄ってきたお姉ちゃんに一度ボールを預け、リターンパスを受ける。

 

 そのタイミングで、楓が動き出した。

 左コーナーの位置から、中へとカットイン。

 

 その進路に合わせ、強めのパスを出す。

 相手ディフェンスの前にでた楓がボールを受ける。

 

 だがそこは、ゾーンで守る相手が網を張るエリア。

 

 相手ディフェンスと、ゴールを背にした楓が、ドリブルしながら相手ディフェンスに体を当て、押し込む。

 

 相手がその位置を保持しようと、応戦する。

 その瞬間、楓が一歩後方へと下がる。

 

 そのまま左手にボールを構え、後方へ体を傾かせてジャンプ。

 相手がブロックの手を伸ばすが、届かない。

 

 ブロックを回避する、フェイダウェイシュート。

 楓の手から放たれたボールが、正確にリングを捉える。

 

 すばる高の先制点。

 相手選手の顔色が変わる。


 ここにいる選手達とは、レベルが違う。

 周囲にそう思わせるには、充分なプレー。

 


 ここからは、楓の独壇場だった。


 ボールを持てば、ドライブからのレイアップ。

 ドライブを警戒すれば、アウトサイドからのシュート。

 面白いように楓が得点を重ねていく。

 

 堪らず相手チームのコーチがタイムアウトを取って立て直しを図るが、すばる高の勢いは止まらない。

 

 楓へのマークがキツくなれば、今度は環さんに自由が生まれる。

 楓の活躍が、すばる高の攻撃に好循環を生み出す。


 勿論、マークがキツくなっても、楓の勢いは止まらない。

 困難なタフショットを沈め、淡々と得点を重ねる。


 観衆は楓の一挙手一投足に目を奪われていく。


 試合は一方的な展開となった。

 混乱に陥った市川女子に、反撃の力は無く。


 

 すばる高が市川女子を下し、地区大会準決勝へと勝ち上がりを決めた。


 45得点、6リバウンド、3アシスト。

 茅森楓の、衝撃的なデビュー戦だった。





用語解説は後から追記致します…。

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