040 地区大会②
国府台昴 対 新徳学園による地区大会1回戦。
紺のユニフォーム、すばる高がボールを持って攻め上がる。
対する白のユニフォーム、新徳学園は自陣に引いて2-3ゾーンディフェンスを展開。
人に対してマークに付くマンツーマンディフェンスに対し、ゾーンディフェンスは各選手が担当の【エリア】を守る。
中でも2-3のゾーンはバスケの中で最もオーソドックスな布陣で、ペイントエリアと呼ばれるゴールに近いポジション、インサイドを厚く守る陣形だ。
安藤環さんを中心に身長の高い選手を3人出してきたウチに対し、まずは手堅く守ろうという意図が見える。
ボールを持つ櫛引千秋が仕掛ける。
ドリブルで相手と間合いを取ると、ボールを受けに来た環さんへパス。
ハイポストで上手くボールを受けた環さんは、滑らかな動作でゴールに向かってターン。
対応するディフェンスを振り切ると、高さを生かしてそのままシュート。
これが決まり、幸先よく先制。
攻守が替わり、白の新徳の攻撃。
対するすばるは、ハーフコートのマンツーマンで守る。
パスを回しながら機を伺う新徳。
#4の選手が、千秋の隙を突き、ドライブで中に侵入。
こちらのマークがずれ、フリーの選手が生まれる。
フリーでボールを受けた選手が、2ポイントゾーンからシュートを放つ。
「「リバンッ!」」
シュートを打ったと同時、両チームの選手の声が重なる。
両者の予測通り、ボールがリングに嫌われ弾かれた。
「任せろっ」
その落下地点にポジションを取った飛鳥さんが、ディフェンスリバウンドを制する。
すばるは攻め急がない。
ボールを落ち着かせ、千秋が確実に相手陣へと運ぶ。
千秋から詩織さん、詩織さんからコーナーへ張り出した竹谷夏希さんへとパスが繋がる。
夏希さんが迷わず3ポイントシュートを打つ。
しかし、このシュートもゴールを捉えることは出来ず。リングに弾かれる。
その落下地点では、相手のセンターを務める#12と環さんが体をぶつけ、激しくポジションを争う。
相手より体格で上回る環さんが、有利な位置をキープすると、両手を高く伸ばして難なくボールを掴む。
そのまま、アウトサイドで待つ千秋にパス。
今度は千秋が3ポイントシュート。
だが、このシュートも入らない。
再びリバウンドを制したのも環さんだった。
ボールを取った環さんが、今度は自らシュートに行く。
ゴール下で、環さんに体を当てられた相手センターが顔を歪める。
環さんのシュートはバックボードを経由してリングを通る。
すばる高が連続でポイントを奪う。
ここから、すばるの攻勢が続く。
流れに乗りきれない新徳の拙攻もあり、すばるが点を重ねる。
堪らず、新徳ベンチがタイムアウトを請求。
試合が中断され、スターターの5人が駆け足でベンチへと引き上げてくる。
立ち上がりは上々のスタート。
初戦という事もあり、みんな緊張しているようにも見えたが、動きに硬さはない。
特に環さんと飛鳥さんの動きが良い。
あの2人がインサイドを制圧出来ている事が大きい。
外れてもボールを回収してくれるという安心感があり、千秋や夏希さんは思い切りシュートが打てる。
対する新徳からすれば、早急に手を打たなければならない。
特に環さん。
環さんに自由を与える事のリスクを十二分に理解したはずだ。
「よし、この調子で積極的にいこう!」
タイムアウトが終わり、詩織さんの掛け声に応じた5人が再びコートへと戻っていく。
新徳ボールで試合が再開。
相手の#4が、声を張り上げ味方に指示を出す。
マンマークで守るすばるのディフェンスを崩そうと、ピック&ロールでマークを剥がしにかかる。
スクリーンをかけた選手と入れ替わるように、#4が仕掛ける。
新徳のエースはどうやら彼女らしい。
空いたスペースにドライブ。
飛鳥さんがヘルプにいくが、上手く交わされ、失点を許す。
得点を決めた#4が、味方を鼓舞しながら自陣へ引き返していく。
替わってすばるの攻撃。
タイムアウトを取った新徳はゾーンからマンマークへ守備を変更。
ボールを持つすばるの選手に厳しくチェックをかけに行く。
環さんにはボールを持たせまいと、タイトなマークが付くが……。
環さんはボールサイドへ寄っていき、そのままスクリーンをかける。
それを生かし、千秋がドライブで突っかける。
「千秋さん!」
その瞬間、動き出した詩織さんがボールを呼び込む。
そこへ千秋からパスが入り、詩織さんがフリーでジャンプシュート。
すばる高がすぐに点をゴールを返す。
高さで勝るすばる高がゲームを支配。
その後も環さんと詩織さん、二人を中心とした攻撃で、得点を重ねていく。
第1Qからすばる高が順調に得点を伸ばし、新徳との点差を開きにかかる。
試合は早くも、ワンサイドゲームになりつつあった。
**********
第1Qを終えて、25-10。
早くも得点を二桁に乗せた環さんが、フリースローを含む13得点。
詩織さんが6点、千秋が4点、夏希さんが2点。
「あ~マジしんどいし!」
「夏希お疲れ~!ってか超楽勝って感じじゃね?」
口では疲れたと言いながらも笑顔の夏希さん。
そんな彼女を労いながら、軽口を叩く加藤理香さん。
あんまり同意したくはないが、この調子なら確かに勝つのは難しくなさそうかな……。
相手の新徳学園は、#4が時折鋭い個人技を見せるものの、攻撃が単調。
アウトサイドからのシュートも精度が上がらず、相変わらずインサイドはすばるが制圧。
ただ、バスケは何が起こるか分からない。
今は好調でも、点を取れない時間帯は必ずやってくるし、逆に相手のシュートが急に当たりだす事もある。
チームが好調な今のうちに、相手の息の根を止める攻勢をかけるべきだ。
……どうでしょう、先生!
ここはやっぱり、得点力に定評がある私、茅森楓の出番じゃないでしょうか!?
てか試合に出たい。出たい出たい出たい!
そんな念を麻木先生に飛ばすと、思いが通じたのか先生が私の方を見る。
おっ!先生、私、何時でも行けます!
「楓」
「はいっ!」
今日一番の声で応じる。
「ちょっと邪魔よ……、葵」
「はいはいー!」
「2Qのアタマから行くわよ、夏希と交代。準備して」
「了解ー!」
声が掛かったのは、私の後ろに隠れるように潜んでいた、同じ1年生の高木葵だった。
「さぁ皆、ここからよっ! 前半で勝負決めてきなさいっ!」
麻木先生が激を飛ばす。
うぐぐ……し、試合出たい……。
**********
試合はその後もすばる高ペースで進む。
後半第3Q中盤までに30点差を付け、試合は大差の展開に。
安全圏に入ったと見るや、麻木先生は主力の環さん、詩織さんを順に休ませながら、宣言通り他のメンバーを投入していく。
加藤理香さんや、これが公式戦経験のない1年生の豊後結衣、北村静香の二人も無事コートに立つ。
試合の決まった最終盤に差し掛かり、ほぼ部のマスコットと化していた3年の佐々木由利さんまでもが試合に出場。
結局、私と櫛引千春を除く全員がコートに立った事になる。
……え、何で……?
千春は、「昨日の懲罰かなぁ?」と苦笑いしていたが、特に気にしていない様子。
今日はこのまま初戦を突破すれば、すぐにもう一試合ある。
その上、次に当たるのは地区シードの高校。新徳よりも実力的には上のチーム。
千春はともかくとして、私は温存された……という理解で良いのかな?
うーん、そんなの関係なく、試合出たかったんだけど。
私にとっても公式戦は久しぶり。
中学最後の大会以来だ。
試合に慣れるという意味では、ちょっとでも出たかったんだけど……うぬぅ。
私が一人で唸っていると、一際長いブザーが鳴る。
試合終了。
国府台昴高が、地区大会初戦の突破を決めた瞬間だ。
コートに立つ両チームの選手が整列し、挨拶。
ベンチの私達は、次の試合のチームの為に速やかにベンチを開けなければならない。
荷物を整理し、席を立つ。
ふと、対戦相手だった新徳ベンチに目を向ける。
私の視線は、試合に出ていた背番号#4の選手で止まる。
4番を背負う彼女は、その背中を丸め。
目を両手で覆い、泣いていた。
今にも泣き崩れそうな彼女を支えるように、チームメイトが彼女の肩を抱く。
そして同じように、その傍で涙を流す。
――そうだ。
この大会は一発勝負。
負ければ終わりのトーナメント。
名も知らない彼女達が、その青春を捧げたコートを去る。
振り返らず、ただ静かに。




