038 地区大会前日
GW……完全に停滞しちゃいました。
更新再開します。
戻りまして、茅森楓視点です。
金曜日。
永遠に続くかに思えた、地獄のような中間テスト期間を無事に超え(結果は察するべし)、明日からはインターハイの地区予選が始まる。
ようやくというか、この期に及んでというか、普段はやる気に欠けるように見える我が部も、今週は中々に熱気があった。
それは同じく地区予選を迎える男子バスケ部の熱に充てられたのかもしれないし、単に中間テストが終わった解放感(一部の人間にとっては結果という現実からの逃避)からかもしれない。
何にせよこの一週間、私たちが練習する体育館内は、男女バスケ部員の高いモチベーションに溢れていた。
「でさぁ、その後いきなりタカシがさぁ……」
「何それ。 マジウケんだけど」
一部を除いてね。
ホント何それ。
マジウケないんですけど。
二年の竹谷夏希さんと加藤理香さん。
ギャル1号と2号の二人だけは、相も変わらず通常営業中。
タカシ君の話は別に今しなくて良いだろ。
内心で毒を吐きながら、二人を見る。
二人はだらだらとボールと戯れながら、雑談に興じていた。
一応、空気を読んでなのか知らないけど、今週は遅刻も早退もなく練習には顔を出す二人。
でも正直、練習の邪魔だから、真面目にやらないなら来ないで欲しい。
少しは飛鳥さんを見習え。
ヤンキーなのにめちゃめちゃ真面目に練習してるぞ。
そんな二人を注意する人はいない。
顧問の麻木先生は黙って練習を眺めているだけだし、練習を仕切る部長と副部長、中村詩織さんと安藤環さんは二人を気にする様子もなく、自分たちの練習に没頭している。
最上級生である櫛引千秋や佐々木由利さんも同様だ。
そんな状況で、他の一年生が何か言えるはずもない。
私も同じだ。
……あの二人の事は考えるだけ無駄だ。
どっちにしても明日からは試合だ。
試合が始まれば、私の邪魔をする人はいない。
コートで思う存分暴れまわる自分を想像しながら、私は練習を続けた。
**********
今日の練習はいつもより早く切り上げ。
部員達は、コート脇に設置されたホワイトボードを囲むように集合する。
私たちの前には、いつものように部長の中村詩織さんと、顧問の麻木先生が立っている。
全員の体勢が整ったのを確認して、詩織さんが話をはじめた。
「えっと、明日から地区予選がはじまります。 明日の事についてまとめたプリントを配布するので、各自確認して下さい」
そう言って、持っていたプリントを目の前にいた安藤環さんに手渡す。
環さんを起点に他の部員達にもプリントが回される。
私の手元にもそのプリントがやってきた。
内容にざっと目を通す。
集合時間、集合場所から会場となる学校の住所、現地での注意事項、試合スケジュールに各チーム持ち回りとなるテーブルオフィシャルズの予定等、必要な情報がまとめられている。
全員に配布されたのを見て、中村さんが各項目について補足説明を加えていく。
その説明を聞きながら、プリントに添付されたもう一枚の資料を見る。
明日の地区大会の組み合わせ表だ。
国府台昴高が参加する第10地区の予選はトーナメント方式。
敗者復活枠は無し。
上位3チームが次の県大会出場権を得ることが出来る。
ちなみに明青学院も同地区だが、彼女たちは地区予選免除となっている。
まぁ、実力的に当然だけど。決勝リーグまで免除でも良いレベル。
明青の他にも、計5チームが予選を免除されており、地区予選は全12チームで争う事となる。
インターハイ予選初登場のすばる高はノーシード。
明日の第1試合から登場だ。
勝ち進めば最大4試合を戦う事になるが、初戦で散れば、最悪明日の午前中で大会が終了してしまう。
明日の1回戦を勝てば、2回戦は地区シードのチームと対戦。
この2試合に勝てば日曜日に準決勝。
この準決勝に勝利すれば晴れて県大会出場が確定、負ければ第3代表決定戦に回る事となる。
「ウチって、関東大会の結果はどうだったんだっけ?」
「1回戦負け。 敗者復活で1勝したけど、次の試合に負けて敗退」
隣にいる千春に小声で話し掛けると、簡潔な答えが返ってきた。
すばる高は、4月に行われた関東大会の地区予選にも出場している。
私が入部する前の大会だ。
どんなメンバーで出たかは知らないが、多分、2、3年生中心のメンバー編成で挑んだのだろう。
「あの大会は環さんが体調不良で出れなかったんだよ」
なるほど。
環さん抜きのメンバーで戦ったというのなら、結果は妥当かな。
2年生の環さんは、このチームの大黒柱だ。
高さの面においても環さんが居るのと居ないのとでは大きく違うだろう。
部長の詩織さんも、ウチの中では上手いけど、試合結果を左右する程の存在感は無い。
そう考えれば、今大会からの戦力的な上積みは大きい。
環さんが万全な上に、1年生とはいえ経験者の千春、葵、私がいる。
特に私。
茅森楓がいるんですから、地区大会くらい余裕ですよ。
「ふひひっ」
無意識に笑みが漏れる。
久しぶりの公式戦、楽しみだ。
頭の中に、プレーのアイデアが溢れてくる。
自身が大活躍するイメージを膨らませている中。
「……それから、1回戦のスターティングなんだけど」
詩織さんがメンバーについて言及を始める。
「センターは環、パワーフォワードが飛鳥、スモールフォワードが私……」
頷きながら聞く。
環さんと詩織さんは実力的にも鉄板。
飛鳥さんはテクニックに難があるけど背が高く、リバウンドに強いという一芸がある。
攻守において、高さはウチのチームの生命線だ。
三人とも身長が170cmを超えるし、ここは順当な選出かな。
詩織さんの話が続く。
「それから……シューティングガードが夏希、ポイントガードが千秋さん」
「……え?」
思わず声が出て、一斉に全員が私を見る。
「……何? なんか文句あるワケ?」
そんな私に、喰い気味に被せてきたのは夏希さんだった。
「い、いや……」
文句があるというか……。
「詩織さん! もしかして、勝つ気無いんですかー?」
戸惑う私を余所に、千春が手を挙げて発言する。
「……どういう、意味かな?」
綺麗に整った顔をわずかに歪めながら、詩織さんが返した。
「あ! なるほど! 温存ですか! そうですよね~ハイハイ、すみません、理解しましたっ!」
その返しを聞いてから、今度はうんうんと腕組みしながら頷き、一人で勝手に納得した素振りを見せる千春。
「何? その態度。 文句あるならはっきり言いなよ」
そんな千春に、今度は夏希さんの横に立つ加藤さんが突っかかる。
「いえいえ文句なんてとんでもない。 っていうか、普通に考えたら変だと思うじゃないですかー? 楓がベンチで夏希さんがスターターって? でも勘違いでしたすいませんっ! とりあえず1回戦は様子見で楓を温存するって意味ですよねぇ。 てっきり学年が上なだけで夏希さんなのかと思っちゃいました」
小馬鹿にするような千春の物言いに、空気が凍りつく。
「ね? そうですよね? 詩織さん?」
「…………」
詩織さんは答えない。
千春の追求から逃れるように、そっと視線を逸らして下を向いて唇を噛んでいた。
「アンタ……っ!」
わざとらしい笑顔を貼り付けた千春を、夏希さんと加藤さんが今にも襲い掛かりそうな表情で睨みつける。
そんな中……。
パンッ!!
空気を切り裂くように、手を叩く乾いた音が響く。
音の出所は麻木レイラ先生だった。
全員の視線が向いたのを見て、先生が大きなため息を付く。
それから、千春、と名を呼び、諭すように話を始める。
「……メンバーを決めたのは詩織だけじゃないわ。 私の責任下で決めてるの。 文句があるなら後で個別に言いに来なさい」
普段の先生とは違う、低いトーンの口調に、千春が黙る。
先生が続ける。
「言っとくけど、明日は試合展開を見ながら、基本的に全員試合に使うつもりよ。 一年生もね。 皆、出場機会があると思って準備する事。……由利、あなたも使うからね」
「えぇ! ま、マジですかぁー!」
由利さんが大げさなポーズで驚く。
「それじゃ、今日はこれでお終い。 みんな、後片付けに入りなさい」
そう言って場を締めた先生が、手を叩いて始動を促す。
それを合図に、部員たちがばらばらと散った。
私も周りに倣って動き出す。
合わせて動き出した千春が、小声で私に話しかけてきた。
「やっぱ、ダメだわ。 あの人」
「あの人って? 先生の事?」
そう聞き返すと、千春はゆっくりと首を横に振った。
「詩織さんだよ。 あの人があんなんじゃ、いつまで経っても変わんないよ。ウチのチームは」
そう言ってから、最後に呟く。
「ウチのチームの癌は、あの人だ」




